上 下
52 / 89
第四章 学園 前期生編 ~予測不可能な学園生活~

第五十二話 ミゲル教頭の専門分野

しおりを挟む
 時は少し進み、レイドとエレーヌは魔術理論の授業が行われる教室へと来ていた。
 授業開始までまだ十五分程度あるので、あまり生徒の姿は見られない。

「あ! レイドじゃないの! ・・・それとエレーヌ」
「ゲッ・・・ レシティア・・・」

「ゲッって何よ! わたくしがここにいて悪いわけ?」

 先客の中にレシティアがいた。
(何という不運だ・・・ 目立つだろ、止めてくれ!)

「声が大きい。静かに話してくれないか?」
「ん? 十分静かだと思うわよ?」

「うるさいですよ。貴方の耳はどうなっているんですか?」
「アナタの耳が過敏すぎるだけよ! 医者に診てもらった方がいいわ!」

 エレーヌとレシティアの間に火花が散る。
(初対面のときからこの二人はずっといがみ合っているな・・・)

「ハァ・・・ もう座りましょう」

 埒が明かないと悟ったのか、エレーヌはレシティアから遠く離れた席へと座った。
 レイドもその隣に座る。

 ・・・それから少し経ち、生徒たちが集まってきた。

「なあ、エレーヌ。レシティアの周り、誰も座らないな・・・」
「おそらく、自業自得でしょうね」

「・・・何か変なわけ?」
(まずい、レシティアが気付いたか・・・)

「・・・何でもないよ」
「いや、絶対に何かある・・・」

「静粛に!」

 すると、レイドにとって見たことのある教師が入ってきた。
(あ、俺にいろいろと聞いて来た教師だ)

「エレーヌ、誰か分かるか?」
「ミゲル教頭ですね。魔法研究のエキスパートです」

「レシティア君・・・ また君か。もうそろそろ静かにするということを学んだらどうかね?」
「いや、だって・・・」

「・・・また実験台にされたいか?」

 その言葉を聞いたレシティアは即座に黙った。

「・・・それでは授業を始めよう」


 (なんだこれ・・・ 意味が分からん・・・)
 今、魔術理論の授業中だ。
 
 魔法を使えないレイドにとっては、圧倒的に経験が足りないのでイメージが出来ない。
 だから授業の内容もいまいちピンとこないのだ。

 例えるなら、剣を扱えない人が剣術を理解できるのか? ということだ。

「では、この魔法陣を解いてみよ・・・ では、エレーヌ君」
「はい。これは初級の炎魔術が二つに重なったものです」

「・・・よし、君は魔法陣の二乗を理解しているようだ。では、次の魔法陣を。レシティア君」

「・・・これは炎魔術と風魔術を重ねたもの・・・です」
「ふむ・・・ 正解。座って良し」

(・・・フーン、やっぱり出来るんだよな)

 
 そうして、何事も無く授業が終わった。
 ミゲルの授業進行が速いので、終わってもなおメモを取っている生徒が多数いる。

「・・・レイド君、ちょっといいかね?」
「はい、何でしょうか?」

「君は魔力が無いと聞いているんだが、どうして、この授業を取ろうと思ったのかを聞きたい」

(・・・エレーヌと一緒だから、なんて絶対に言えない)
 必死で考えるレイド。

 何か良い考え・・・ 何か良い考え・・・ ・・・あっ

「それは・・・ とある研究のためです。魔力が無い私でも、魔術を使用する技術・・・など」
「ほう・・・ つまり、他人の魔力を・・・」

 ミゲルは何か考え始めたようだ。
(とりあえず含みを加えた言い方ならごまかせるだろう。天才だな・・・)

「まじかよ・・・ レイドって言えば、入学試験で暴れてたやつだよな・・・」
「魔獣狩り大会でも、”黒き魔獣”を撃退したって噂だし・・・」
「これ以上強くなってどうするんだよ!」
 ・・・周りの生徒もこのような反応だ。
 
「よし、決めた。実は、私は魔術反射の研究をしていてな・・・ 君にも研究を手伝ってもらいたいんだ」
「・・・え?」

「君の研究内容と合致していると思うのだが・・・ 違うかね?」
「え? え?」

 これはさすがに予想外だ。まさかミゲル教頭がそれの専門分野だったなんて・・・

「レイド、私も行きたいです。ミゲル教頭、よろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんです。実は、バイセン領で遺跡を見つけてな。あそこに魔術反射に関わるものがあると踏んでいる」

(それって・・・ インテグリーのことじゃ・・・)
 バイセン領、遺跡、魔術反射・・・ 何もかもが一致している。

「その遺跡攻略にレイド君が適任と思ったのでね」

「遺跡攻略ですか・・・ それなら戦闘のプロがもっと必要ですね。兄さん、ロイクなんてどうでしょうか?」
「良いな、彼もバイセン領の人間だ」

(エレーヌ! 俺と一緒に行ったよな!)
 エレーヌは全く気が付いていないようだ。

 「ちょっと、わたくしも混ぜて!」
 レシティアも首を突っ込んできた。

「・・・レシティア、戦えないのは知っているぞ?」
「そうですよ、箱入り娘は外に出ないのが賢明です」

「何よ! わたくしも戦おうと思ったらできるわよ!」
「レシティア君・・・ 私が、嫌だ」

「な・・・ なっ・・・」
 レシティアはまさかのミゲル教頭の反撃により絶句してしまう。

「よし、数日後に行こうかね。皆さん、それまでに準備しておいて」
「「はい!」」

「ま、まって・・・」
 レシティアはまたもや、一人ぼっちになってしまうのであった・・・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月
ファンタジー
お気に入り登録をよろしくお願いします! 感想待ってます! まずは一読だけでも!! ───────  なんてことない普通の中学校に通っていた、普通のモブAオレこと、澄川蓮。……のだが……。    しかし、そんなオレの平凡もここまで。  ある日の授業中、神を名乗る存在に異世界転生させられてしまった。しかも、クラスメート全員(先生はいない)。受験勉強が水の泡だ。  そして、そこで手にしたのは、水晶魔法。そして、『不可知の書』という、便利なメモ帳も手に入れた。  使えるものは全て使う。  こうして、澄川蓮こと、ライン・ルルクスは強くなっていった。  そして、ラインは戦闘を楽しみだしてしまった。  そしていつの日か、彼は……。  カクヨムにも連載中  小説家になろうにも連載中

脇役だったはずですが何故か溺愛?されてます!

紗砂
恋愛
乙女ゲーム『エデンの花園』に出てくる主人公……の、友人海野咲夜。 前世の記憶というものを取り戻した咲夜はある未来のために奮闘する。 だって、だってですよ? この友人役、必ず死ぬんですよ? 主人公を庇って死んじゃうんですよ? ……折角の2度目の人生、そうそうに死んでたまるかぁぁぁ!! という思いから行動した結果、何故か私を嫌っている筈だった兄が重度のシスコンと化していたり、攻略対象者の1人がすでに他の令嬢と婚約していたり……更には何故か私のファンクラブまで出来てるんですけどっ!? 脇役転生の改稿版

魂が百個あるお姫様

雨野千潤
ファンタジー
私には魂が百個ある。 何を言っているのかわからないだろうが、そうなのだ。 そうである以上、それ以上の説明は出来ない。 そうそう、古いことわざに「Cat has nine lives」というものがある。 猫は九つの命を持っているという意味らしく、猫は九回生まれ変わることができるという。 そんな感じだと思ってくれていい。 私は百回生きて百回死ぬことになるだろうと感じていた。 それが恐ろしいことだと感じたのは、五歳で馬車に轢かれた時だ。 身体がバラバラのグチャグチャになった感覚があったのに、気が付けば元に戻っていた。 その事故を目撃した兄は「良かった」と涙を流して喜んだが、私は自分が不死のバケモノだと知り戦慄した。 13話 身の上話 より

夜が長いこの世界で

柿沼 ぜんざい
ファンタジー
ここは夜が少し長い世界 エステレラ この世界の小さな国 メルエムにその少女は存在した 彼女の名はサテライト=ヴィル・アストレア 通称 “赤ずきん” 誰もが羨む美貌を持つサテラ そんな彼女はこの世界に蔓延る獣(けだもの) “人狼”を殺戮する為に設立された組織 聖導教会の聖職者(プリースト)であった かつて“人狼”に襲われ、叔母を失った過去を持つ彼女は“人狼”には慈悲など無く容赦ない殺戮を繰り返していた そして物語は彼女が人狼調査の為に訪れた離れ村のトナードで捕食事件が起きた所から始まる──

普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南
ファンタジー
 え、冴えないお父さんが異世界の英雄だったの?  私、村瀬 星歌。娘思いで優しいお父さんと二人暮らし。 お父さんのことがが大好きだけどファザコンだと思われたくないから、ほどよい距離を保っている元気いっぱいのどこにでもいるごく普通の高校一年生。  仲良しの双子の幼馴染みに育ての親でもある担任教師。平凡でも楽しい毎日が当たり前のように続くとばかり思っていたのに、ある日蛙男に襲われてしまい危機一髪の所で頼りないお父さんに助けられる。  そして明かされたお父さんの秘密。  え、お父さんが異世界を救った英雄で、今は亡きお母さんが魔王の娘なの?  だから魔王の孫娘である私を魔王復活の器にするため、異世界から魔族が私の命を狙いにやって来た。    私のヒーローは傷だらけのお父さんともう一人の英雄でチートの担任。  心の支えになってくれたのは幼馴染みの双子だった。 そして私の秘められし力とは?    始まりの章は、現代ファンタジー  聖女となって冤罪をはらしますは、異世界ファンタジー  完結まで毎日更新中。  表紙はきりりん様にスキマで取引させてもらいました。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...