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Second Tales:生意気なドラゴンにどちらが上かわからせます

Tale2:お姉様としてのプライドを守ります

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 十数体は存在していたシルバー・ウルフの群れを一掃したスラリア。

 その周囲に咲き乱れていた薔薇たちが、ローゼン・ソードに巻き付くように吸収されていく。
 やがて、小さな薔薇のレリーフを持つ指輪に戻り、スラリアの細い指に収まった。

 こんなに強くても、スラリアは最弱ともうたわれるスライムだ。
 やはりシルバー・ウルフの攻撃を一度でも受けていたら勝負はどうなっていたかわからないし。
 あの大量の薔薇を生み出す大技も、スラリアの持っている魔力では一回きりしか使用できない。
 だから、いま強制的にローゼン・ソードが元の指輪の形状に戻ったのだ。

「すごいっ、スラリア、かっこよかったよ!」

 ただ、そんなことは最愛のパートナーを褒めない理由にはならない。
 それに、絶対に勝てるという気概は好きだが、その事実はあまり好きではない。
 薄氷を踏む思いを越えて勝利を掴むことに、より価値があるように思う。

「お姉様ぁ、私、やりました……」

 ぷにゃぷにゃと、ちょっとだけ輪郭を曖昧にしながら、スラリアが抱きついてくる。
 リリアの模倣も維持できないほど、出し切ってくれたということだ。

 よしよし、よく頑張ったね。
 そんな感じで頭をわしわしと撫でると、スラリアはくすぐったそうにぷにょっと笑った。

「あとは、私に任せなさい」

 忽然と、この場からスラリアの姿が消える。
 言葉どおり、同調のスキルを使ったのだ。

 スラリアと私は一体となり、スライムの性質が私に宿るようになる。
 身体の奥底から力が湧いてくるのを感じた。

「グルルァ!?」

 背後から飛びかかってきたシルバー・ウルフに、後ろに振ったダガーを突き入れる。
 あれだけ賢いのだから、見えないところに伏兵が隠れているとは思っていた。
 どうやら推測は当たっていたようだ。

 さらに、広場を囲う茂みの向こうから数匹のウルフが飛び出してくる。

「私も、かっこいいところ見せないといけないからね」

 リリアリア・ダガーを正面で構え直し、独りごちる。
 いや、私の中にいるスラリアが聞いてくれているから、独り言ではないか。

「グガァッ――!」

 一瞬ずつタイミングを遅らせて、私に噛みついてくるシルバー・ウルフたち。
 狙ってくる部位もばらばらで、一体ずつ迎撃していてはいずれかの攻撃を受けてしまうだろう。

「はっ――!」

 そこで、まとめて回避するために真上に跳ぶ。
 私がいた場所に折り重なるように、ウルフたちは真下に集まった。

 身体を回転させて体勢を整え、空中でダガーを振る。

「グルァッ!?」

 突いて引き、また突く。
 上からよく見える頭部を的確に捉え、一体ずつ葬っていく。

 良い反応をして、こちらに牙を向けてきた一体のシルバー・ウルフがいたが。
 その大きく開かれた口の中に、ダガーをぶち込む。
 鋭い牙で腕が裂けるが、スライムの性質により痛みはないので気にしない。

 びたっと這うように地面に着いたとき、私の周囲にシルバー・ウルフの姿はなく。
 全てがすでに淡い光のエフェクトになって、空に消え去っていた。

「ふぅ……」

 ゆっくりと身体を起こし、息を吐いて呼吸を整える。
 いまの私はスライムなので、実は意味のない所作ではあるのだけれど。
 なんとなく、精神を集中させるためのものだ。

 ちなみに、ローゼン・ソードを“装備”しているスラリアと同調することによって、私にもそれが“使用武器”としての設定で使えるようになる。
 本来、テイマーの使用武器は魔物しか設定できないから、ちょっとした裏技みたいなものらしい。
 しかし、いまの戦闘では魔力を温存するため、使用武器として設定していないリリアリア・ダガーを選択していた。
 まあ、単に使い慣れているからという理由もあったが。

 さて、どうして私が、呼吸を整えて精神を集中させ、魔力を温存していたか。

 それは、受けた依頼が『お茶のため、巨大銀狼の討伐をお願いします』だからだ。
 確かに、さっきまで戦っていたシルバー・ウルフもそれなりに大きくはあった。
 しかし、聞いていた話では、あのウルフたちにはさらに群れをまとめるボスがいるというのだ。

 いったい、どんな魔物が出てくるのだろうか。
 新たな邂逅への期待と、少しの不安を抱きながら待つ。

 すると、森の奥深くから広場に、緩慢とも思われるような動きで銀の影が現れる。
 おそらく、あれがシルバー・ウルフのボスなのだろう。
 そのまま、先手を打つ気もないようで、ゆっくりと足を進めてこちらに向かってきた。

 ようやく私の前に立ちふさがったのは、ちょっとしたトラックぐらいの体高がありそうな銀色の野獣。
 いや、予想より、ちょーっとだけ大きすぎるかなぁ?

「……ずいぶんとすくすく育った子なのね、食いしんぼうかしら?」

 私たちの物語の第二章、その序盤で出てくる敵としては決して似つかわしくない姿であった。
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