月白色の叙情詩~銀礫の魔女が綴るもの~

羽月明香

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【第三晶~理に背きし者等の彷徨~】

46 成り行きから今へ

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 怪魚の姿をした因果の獣カウセリトゥスが溢れ戦いが始まった時、この場所にはもう一人いた。

 ルキフェルがフェイのお使いから戻り、この青の集落に再びカエルレウス訪れた時に伴ってきた三人の人物。
 緑の集落ウィリディスの長である。ネフリティスことネフリーとその護衛を買って出ながらも、実は同じ緑の集落ウィリディスの長と言う立場を持ち、なお且つ萌芽ほうがの魔女と言う存在でもあるエスメラルダことエメル。
 戦いに参加する事なく姿を消した三人目、光でありル·シル光を齎す・ルカ使徒アポストロス

 エメルとカイヤとの会話を切り上げたフェイがルキフェルと合流した時、その場にルカが現れたのだ。
 因果の獣カウセリトゥスの出現はそれから間もなくの事であり、故に戦闘の開始時にはこの場にいたと言う事。

 リンと不思議な音の響きを聞いた気がしたその刹那、何もない眼前の空間に突如として紫電が閃いた。
 そこからはあれよあれよと息をつく間もない程、目の前の展開が動いていった。
 裂けた空間。
 腐食した金属にも似た臭気を伴った因果の獣カウセリトゥスの出現。
 異変を察知し合流したネフリーはその直前まで青の洞にいたらしいが、まだ洞の途中を進んでいる段階で引き返した為に、アスのいる最奥には到達していなかったとか。
 そして、ネフリーの合流と前後する様にフェイはルカの存在を見失った。

 いないと気付く間もあればこそ、襲い来る怪魚の対処に追われ、直ぐには動く事が出来なかった。
 怪魚の姿を取った因果の獣カウセリトゥスは一匹一匹がフェイの腕程しかなく、けれどその数は膨大で、一匹一匹が無軌道に動いているかと思いきや、時にまるでもとから一匹の魚であったかの様な動きで誰かを強襲する。
 翻弄しながらも、確実に相手を仕留め様と言う動きに気を抜く間もなかった。

 多数の個体がくっついたままで、一つの個体のような状態になっているそう言った生体を持つ生き物を群体と言う。
 あの怪魚の姿をした因果の獣カウセリトゥスはそういった群体としての因子を持つ生き物だったのかもしれない。
 そうフェイは考え、けれど今はどうでも良い事かと、その考えを放棄する。

「使徒様は目的を果たして、既に中央大神殿でしょうか?」
カエルレウスの領域には既にいないことは確かです」

 目的が何だったか等とそんな事は聞かないし言わない。
 フェイはただ自分に必要な確認だけを取り、情報を収集する。
 確実な情報だけを答えるカイヤへと向けていた視線を次へと向ける。

ウィリディスを経由する許可を与えてはおりませんので、彼の方を同道してとなれば商業都市を経由するルートでお戻りになるのでは?」

 フェイの胸の下程の位置に頭が来る身長の、翡翠色の髪の少女が上目遣い気味にフェイを見て軽やかな声音で告げる。
 向けて来る、くるりとした橄欖石オリビン色の大きな瞳。愛らしい少女にしか見えないこの少女こそが緑の集落ウィリディスの長であるネフリティスだった。

「これみよがしにアスを連れ去って行きましたけれど、あの方なら色彩の集落クロマを訪れなくても、神殿のポートを使用して三箇所、いえ二箇所の経由で辿り着くでしょう」

 そう、アスは既にこの集落にはいなかった。
 因果の獣カウセリトゥスとの戦いの最中だったが、その場にいた誰もがそれを見ていて、なのに誰にも妨害される事なくルカ・アポストロスは意識のないままのアスを連れ去って行ったのだった。

「神殿の有する、外部端末ポートでは嬢やが引っ掛かるだろう」
「あの方の持つ権限ならどうとでもなると思いますけど、その必要もないのでしょう。なにせ、かつて勇者パーティを導いた“賢者様”ですから」

 それぞれの組織においての主要施設を繋ぎ、人や物を一瞬の内に転位させる事の出来る装置、それが外部端末ポートと呼ばれるものだった。
 神殿、組合ギルド、既得権益に左右される国家間等。
 どの組織がその端末ポートを管理しているのかは端末ポートによって異なるのだが、そのどれもに言えるのが、使用するにあたって、管理する組織によって必ず使用の条件付がなされていると言う事だった。

 そしてアスは、教会が魔王の手先とすら提唱する事のある“魔女”と言う存在。
 そうなれば普通は、教会の端末ポート等、アスには使い様がない筈だった。
 その筈で、けれどアスは同時に勇者のパーティを導いたとされる“賢者様”でもあった。
 その過去を考え見れば、有り得ない事が覆る可能性があるのだ。

「教会の端末ポートは、座天使スローンズ以上の上位司祭が管理している筈ですが、この集落から目指すとなると北の······」
「東の曙の女神アウローラの祠」
「分かりました、直ぐに立ちますか?」
「ああ」

 一応の義理を通す余裕があるのかとフェイは、一度だけ瞬きさせる目にそう思ってしまった驚きをやり過ごすと、何事もなかったかの様に最低限の応答で踵を返したルキフェルの背中を追って歩き出した。

 湖の中腹で佇んでいたルキフェルがいつの間に移動して来ていたのか、話の何処から何処までを聞いていたのか、分からないが、尋ねる必要性も今はなかった為にフェイは尋ねない。

 代わりに向ける言葉は、振り返る事のないままにも背後へと向けて。

「良かったですね、集落の為の手頃な“魔女”が戻って来て」




 
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