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【第二晶 ~選びし者と選ばれし者~】
41 擦り合わせ
しおりを挟む「影に依る魔法」
「影に依る?」
アスの呟きをフェイが拾う。
伏せる目に、けれどカイヤは何も言う事はなかった。
「アズリテと言ったか、最初に名乗られた時は確かにそうだったのだろうが、移動を開始してしばらくぐらいには重なっていた。名前の呼び方を確認されたぐらいか?」
アズリテと言う存在に誰か、恐らくは藍晶の魔女と言う存在が重なって在った。
アズリテと言う存在の五感を通して、アズリテの見聞きし感じている世界を共有する。そんな魔法に近いとアスは思ったのだ。
「何等かの魔法が発動した感じはしませんでしたが?」
「最初から居はしたのだろうな。それに、受け入れる側に抵抗も拒絶反応もなく、普段からそうしているのなら、それが自然になる」
受け入れてくれる誰かの存在に依って、そこに在る事を自然としている。それが普通で当たり前の様になってしまえば、今更な違和感を感じる余地もなくなる。
感知の力に優れる者は、他者の魔法の発動を知る事が出来る。
実際に発動までさせなくても、発動させようとしたと言うそれだけで反応出来てしまう者もいる。そして、フェイは自らのそう言った力にそれなりに自信があったらしいのだが、今回は何等かの魔法が発動していたと言う事に気付けなかったと首を傾げていたのだ。
「あの子は動けませんし、見る事も出来ません。ですから、眺め視る事を自然としてこの青の集落と言う限られた世界だけを認識しているのです」
「それは知っていましたが、・・・まさかずっとですか?」
「霧に酷く薄いが以前とは異なる魔力を感じていた。まぁそれは代替わりしたからで済むのだろうが、何か、窺うような感じがあった」
カイヤの語る“あの子”と言う存在の在り方に、何か思うところがあるのかフェイは口を閉ざし、その間に口を開くアスは、これは視られているなと、そう感じたのだと事もなさげに告げる。
「気付いて、放っておいたのですか?」
「んー、害意とかなかったから、まぁいいかなと」
「この子以外の魔女と言う存在、それ以上に“貴女”と言う存在に興味があるのだと思います」
「私にか?」
カイヤへと見せるアスの苦笑は、物好きなと思いながらも、他の魔女が自分へと興味を持つ理由に予想がついているかのようだった。
「魔女なのに、勇者とつるんで魔王を討ったんだから当然でしょ?」
ゆらゆらと揺らめく眼前の景色に、そんな言葉と浮かべた薄笑いと共に庭先へと姿を現したのはラズリテだった。
「何だ、もう良いのか?」
「っ、長が退けと言うのだから従う。それだけだよ」
魔法の補助で認識を狂わせながら、技術的に気配をも絶ち、突然その場に現れた様に見せる。そう言う事が出来るのなら、今でも背後を取れば良かったのだ。
もう命を狙ってこないのかと、そんなアスの言葉の意味合いを正確に受け取ったのだろう。一瞬だけ据わって見せた目付きに、ラズリテは悔しげな言葉を吐いた。
「本物の感情と、見せ掛けだけのモノ。侍従殿の教えなのだろうが、器用だな」
アスは素直に感心していたのだが、そう言った瞬間、ラズリテの顔から一切の表情が消えてしまった。
そんな変化を見てしまえば、アスの言った見せ掛けと言う言葉にも、一気に信憑性が増すと言うものだったが、見破られるようなら取り繕う気もないのかもしれないとそう思わせる変化でもあった。
全てが嘘ではなく、だが、本物をその通りに表情へと出している訳ではない。
止めたカイヤの決定を不満に思っていた事は確かで、けれど悔しげな舌打ちは嘘。そうアスは判断していた。だが、その認識も完全ではなかったのだとフェイの次の言葉でアスも知る事になる。
「すでに納得しているのなら、ちゃんと謝罪をした方が良いですよ?」
「早とちりでした、ごめんなさい」
カイヤではなく、フェイからの促しに、ウッドデッキの下、ラズリテは登場した時からそのままの位置でアスを見上げ、突然告げる謝罪へと深く頭を下げたのだった。
不満気な言葉と悔しげな反応。目付きから口調から、どうやら先程までは全てが偽りだったらしい。
理解しアスは一つ頷く。ラズリテへの許しの為ではなく、ふと思った事実へと。
「フェイに言わせれば、自分を含めた他者を偽る存在を見破る事に関して、私はまだまだと言う事だな」
「含みすらも感じないので、かえって何も言えません」
敢えての口添えは、アスの未熟を指摘しているのだと思ったからこその納得だっのだが、フェイの何処か投げやりな返しにアスは違ったのかと首を傾げた。
「餅は餅やと東の言葉にもありますしね」
「貴方からは含みしか感じませんけどね?!」
偽りを見破る事に長けたフェイは、誰よりも偽りを多用しているからこそ、他者によるものが分かるのだとそう言う事らしいが、それをカイヤからあからさまに指摘されるのは心外と言う事らしかった。
「私は怒ってはいないよ。カイヤにも言ったが、こちらの不用意な発言に原因があったのだろうし、謝りたいのなら謝罪は受け取るが、それだけだ」
告げて、温くなってしまったお茶を一気に啜るアスの様子は本当に気にしていないと態度で示していた。
「最初から興味が薄そうな感じはあったけど、・・・エルミスが護らなければ死んでいたんだよ?」
少しだけ鋭くなる眼差しと、厳しめな口調のラズリテは、理解が出来ないと言うようにアスを見ていた。
「ああそうか、助けて貰った訳だから。藍晶の魔女には感謝をしないとな、向こうも望んでいたようだし、会えそうか?」
「貴女は・・・なんでもない」
「一応確認しますが、どの発言をもって、どう受け取って、あの事態になったのですか?」
ラズリテはアスへと何かを言いかけて、結局は言わない事にしたらしい。
けれど、そんなラズリテへとフェイの追及が向いた瞬間が今だった。
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