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【第二晶 ~選びし者と選ばれし者~】
22 結局は
しおりを挟む「こ、れは、冒険者の知人ができたときに、“私”と言ったらお上品ぶってると言われて、“僕”だとガキ臭いんだと」
「ああ、高位ランカーになると対貴族って事でそこまででもないんだが、基本礼儀も微妙な荒くれだからな、あいつらは」
何等かのショック状態から復活こそ果たしたが、どうにもしどろもどろと言った様子のルキフェルが面白かった。
それを笑うと不機嫌になりそうだった為に、アスはそうかと同意する反応に留めて、そう言えばと言った様に自分の知る冒険者等についてを呆れたように話してみせた。
「それで“俺”ですか、まぁ多少はマシかもしれませんが、ガキと言われてそれを真面目に受け取っている段階で意味がないと思いますよ?」
「そうなんだ、お上品とか無茶苦茶笑われて、酒場でのネタにされ続けた」
「あいつらだと、キレて見せて暴れ出すのが正解だったかもな」
「他の客もいたんだ巻き込んだりしららコトだろう」
だからその考えがそもそも間違っていると言うのだ。
基本、荒くれな奴等が他を気に等する訳がない。
苛立ちを我慢する事なく、寧ろ抑えれば腰抜けと言われ兼ねないとすら考える。事を荒立てない大人な対応の筈が、実際にヤジの対象になる可能性が高いだろうと、アスもフェイも思っていたがやはりそれを口に出す事はなかった。
「違う、俺のことはどうでもいいんだ。アス契約して欲しい!」
流されてなるものかと言わんばかりにはっとした様子のルキフェルは告げ、アスへと眼差しだけで迫っていた。
「何故?」
対するアスの言葉はルキフェルの放つ熱とは対照的に何処までも平淡で、冷淡さすらあった。
「選ばないといけない時に、選ぶべきを選べるように・・・とまでは言わない。ただ選べるだけの選択肢が欲しい」
「それで真実とやらを望む意味が分からないが、選択肢な」
「選ばない事も選択の筈ですが、そう言う段階でもない感じですかね」
それはそこまでではないと言う意味合いか、その段階を越えてしまっていると言う判断だろうか。
「真実を知識に置き換えるなら、知識はあればあるだけ良いとは思うが、知らなくて良い事もあるとは思うんだがな」
「ん~」
ここに来て初めて曖昧な反応をフェイが見せたような気がした。
どうしたのかとアスがフェイへと目を向ければ、どうしたものかとアスこそがフェイに見られていた。
「私と貴方との関係性に、果たすべき義理がどこまであるのかと、少しばかり考え中です」
「義理?」
「はい、これを言うべきか、黙ったまま成り行きに任せるか、流す方へと話しを持っていくかですね」
「よく分からないが、聞いておいた方が良いと思ってくれるなら教えて欲しい」
「そうですか」
分からないと言ったのは嘘ではなく、だからアスはフェイの言わんとしているところの判断がつかないと、フェイへとその見極めを任せた。
わざわざ義理と言った事も気になった為に、アスは自分が気付いていない何かがあり、それを知るべきかどうかをフェイへと委ねたのだ。
「まあいいでしょう、あのですね契約だ何だと難しく言ってみせているだけで、つまるところの彼は、貴方の事を知りたいとそう言っているだけなんですよ」
「っ」
「・・・・・・」
アスとしてはいまいちぴんとこなかったが、ルキフェルの息を呑む様なその反応で、フェイの言葉が事実だと認めたようなものだろうとそう思った。
「そうか」
そして、アスはそれだけを答えた。
寧ろそれだけしか言いようがなく、その内心としては成る程、とその一言に尽きていた。
ちゃんと思い返せば確かにルキフェルはそう言っているのだ。『アスの真実が欲しい』と、これ以上ない程の具体的な言葉だった筈なのだ。
「気付けなかったのは、無意識のうちに気付かないように考える事を止めてしまっているのか・・・いや、“俺”ってインパクトのせいだな」
一人呟き、誰の反応も求めないままアスは思考を進め、自分なりの答えを得て一つ頷いた。
「何にしても、ルキは対価が払えないと、フェイからの支援の申し出を断っていただろう?なら、その相手が私になったところで、結局は同じじゃないのか?」
フェイが紹介状を用意すると言った時に、払えない対価を理由にルキフェルは断っていた。ならば相手がアスになろうと無理は変わらないだろうとその筈だった。
「たぶん違う、理由にアスをおくなって言っていた。だから、何があってもアスのためには動かないと、そう約束すれば、それが契約に対する対価になる」
「へぇ?約束出来るのか?」
「・・・・・・」
自分で約束として提示しておきながら、果す覚悟はないらしい。
黙り込んでしまうルキフェルの苦しげに揺らす瞳へと、アスは肩を竦めて見せ踵を返した。
「アス?」
「言ったろ?付き合いきれないと、それに午後にはここを出るとも」
「ああ、もうそんな時間ですか。大丈夫ですよ、今直ぐでも出られます」
「室内にいるといまいち分かりにくいが、たぶん正午過ぎぐらいだ。片するとか言っていたのは大丈夫なのか?」
「ちゃんとやる事をやってから来ていますので」
問題ないと言うフェイを伴いアスは教会はの外へと向け歩き出した。
その背中を見詰めながら、ルキフェルは声をかけ引き留める事も出来ず、ただ口を引き結び、自分でも分からないものを堪えているのだった。
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