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【第二晶 ~選びし者と選ばれし者~】
19 許される範囲
しおりを挟むどうすれば良いのかと、もう一度呟くルキフェルは途方に暮れたような表情をしていた。
「別にいいんじゃないですか?どうにもしなくて」
「それは、どう言う・・・?」
何を言うつもりなのか、フェイは大した事でもないでしょう?と言う様子に口を開き、ルキフェルはそんなフェイへと答えを求める眼差しを向けてしまっていた。
「期待する答えではないでしょうが、思い出す事が出来ない。加えて探ろうとする事にすらリスクを伴うなら、諦めると言う選択もありだと、私はそう告げるだけです」
一瞬でも縋ろうとしてしまっただけに、フェイの言葉に打ちのめされたであろうルキフェルは、ぐっと握る拳にも顔を俯け苦し気に歪めていた。
そんなルキフェルを見遣り、けれどフェイの話しはそれだけで終わらなかった。
「望みの結果とは言え、頼る者どころか知る者すらもいないであろう今を心細く感じてしまうのは分かります。ですから私の方で、生活基盤を整える為の紹介状を用意しましょう」
「紹介状?」
「ええ、こう見えて結構顔が広いんです。なので、ある程度ならご要望に添う職種等を紹介出来るかと」
「いらない」
「はい?」
向ける笑顔に、善意全開と言った風だったフェイの提案をルキフェルは一言で拒絶した。
そこまでの反応はさすがのフェイも予想外だったのか、笑顔のまま固まると、傾げる首に短い一言で疑問を呈していた。
「あなたも魔女なのでしょう?今の私に払える対価はありません」
その言い方に、ルキフェルはちゃんとフェイ自身が自分を魔女だと明言していない事に気付いていたらしいとアスは思った。
状況や言動から、いくらそれっぽく振る舞ってはいても、本人の口から聞かされるまではと言う事なのだろう、魔女なのだろうと言う質問の形式から拒む理由をちゃんと告げていた。
「それに、そもそも諦めると言う選択肢そのものが私には存在していない」
そして、結局は理由を伴わない意思をルキフェルは宣言する。
「譲らないのな、そこ」
いい加減面倒臭くなって来たとばかりに、アスは辟易した表情に溜め息をついた。
着いて行きたいと言う理由を潰す為に契約内容を探ろうとしたが現状では難しく、それならばと、他の魔女の関与を無視してまで突き放そうと試みたが本人が拒む始末。
「本気で逃げるなら手を貸しますよ?」
フェイの申し出を聞いたルキフェルの愕然とした表情を、アスは怪訝そうに見返す。
先程の発言からも分かる通り、フェイはルキフェルの同行に否定的だった。それはやり取りの所々からも感じ取れていた筈で、だからこそ、何故今更そんな表情をするのだろうか。
「・・・違うけど、知っている。貴方は“翼”だ。飛ばれたら、私は追うことができない」
「ん~?私は接触させてない、よな?」
ルキフェルの苦し気な発言にアスは本気で首を傾げ、瞬間的に自身の記憶を浚っていた。
フェイを“翼”だと表現するのなら、それはフェイを魔女だと断定しているだけではなく、どう言った魔女なのか、その一端に触れている言う事になる。
そして、ルキフェルは言ったのだ違うけど知っていると。
“違う”、そして“知っている”。その二つの単語から考えられるのは、フェイの前との接触だろう。
「フェイとは異なる、けれどフェイを知る可能性。だが、何時の事で、何処でだ?」
「会っているのだと、そんな感じはしていましたから、関わりは確定で良いのかもしれませんけどね」
見交わす視線にアスとフェイ二人で溜め息をついた。
見え隠れする事実の片鱗からフェイではないのならその片割れなのだと、そうでしかないと思うのに、未だ隠れたままの情報からどうしても確信が得られない、そんなもどかしさだけが膨らんで行く。
「貴方はこの顔に会った事があると?」
試しにと言った様子でフェイが尋ねていた。
「いつか、潰えさせたくない望みを抱いたのなら、一度だけ手を貸す、と」
「・・・・・・」
「その時、自分がこの世界のどこにもいなかったとしても、約束は必ず果たされる。それがお礼だって」
「お礼、ですか」
「風戴く翼、そんなふうに言っていた・・・そう、私を導いたのは、貴方だ」
その言い方、そして瞬かせた双眸から真っ直ぐにフェイを見たルキフェルの様子から、フェイも、そしてアスも気が付いた。
「私ではないですね。ですが、記憶違いと切り捨てられないのもそうです」
「記憶が戻っているのか?」
どうしたものかと考えているらしいフェイと見交わす視線に代表してアスが問う。
「たぶん、少しだけ」
「抵触を許された範囲にしては微妙だな」
ルキフェルの変化をどう見るべきかとアスは難しい表情をしていた。
「因果の獣は“理”に抵触すると現れると先ほど説明したと思いますが、その現れた因果の獣を倒して、歪みを収めると、原因となった“理”に触れる事を許されるんです」
「記憶が戻るってことなのか?」
「事実、少しですが戻っているようですし、このまま段階を踏んで思い出せるのかもしれませんね」
言いながらも、曖昧な表情から恐らくそれはないとフェイは予想しているようであり、アスも同じ考えだった。
「戦ってみた手応えから言って無理だろうな。呼び水程度の切っ掛けならありだが、たぶんもっとずっと深く“理”か“契約”の内容、あるいはその両方が絡んでいる」
見える訳ではないが、アスはそこにある筈のものを見ようとでもするかのように、見据える眼差しにルキフェルを見ていた。
「あ、え?」
唐突に上げる驚きの声にルキフェルは何かを見詰めて目を瞬かせていた。
途切れる緊張感と、ルキフェルのそんな様子に、アスとフェイも 何気無くその視線を追うと、直ぐにルキフェルが見ているものに気付く事になった。
「古い言語ですね、それも酷く掠れていて・・・」
突き当たりの壁の、フェイの視線よりもやや下辺りにそれはあった。
近付いて行き、その場所の触れるか触れないかのぎりぎりの位置をフェイはなぞり、そう告げながらも眉を潜めている。
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