月白色の叙情詩~銀礫の魔女が綴るもの~

羽月明香

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【第二晶 ~選びし者と選ばれし者~】

7 フェイの選択

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「まあ実際にあの四人が関わっていたとしても、四人ともの目的が同じとは思っていないからな、そこも面倒なところだ」

 それぞれが、それぞれの望みの為に動く。その途中で“勇者”としての存在、或いは、“ルキフェル”としての何かにおいて、一時利害が集約した。そう言う事なのだろうとアスは考えていた。

「振り回されていますね」
「まあ、望みの過程だと言うのなら、私は別に構わないんだ」

 言葉通り、振り回されて、言ってしまえば使われる事を許容すると言うアスの発言だった。

「・・・?」
「そこに私の望みが入り雑じって、どう転ぶか、全ては読みきれなかった相手と、翻弄されるに任せてしまった結果の自己責任でしかないからな」

 アスもまたアスの思惑のまま動くのだから、使いたければ使えば良い。ただその結果までは保証しないけどな、と、その言葉はいっそ挑むような強さがあった。
 そんなアスをただ理解し難いと言うべきようにフェイは見詰める。

「何、を?」
「だが、私は私の意思に反する事を許容するつもりはないよ」

 フェイの戸惑いに、けれど、アスは向ける笑みへとその双眸を僅かに細めてフェイを見詰め返していた。

 それは暗にフェイにも言っているのだと告げているような眼差しであり、だからなのかフェイは見詰めたままの眼差しへと困惑を消した。

「覚えていて下さって光栄です。とでも?」
「あまりにも自然にそばにいてくれるから忘れそうになるんだよな」

 淡く笑い、何処か試すように言うフェイへと、アスは呆れたように、それでもやはり笑い返す。

翠翼すいよくの魔女ですから」

 そう自分から魔女を名乗って見せる事で、フェイは促して来る。ここにもアスを翻弄する魔女がいるのだと、理解と警戒を望むのだ。

「勝手に使ってくれれば良いのに、わざわざ線引きをしてくれるとか、フェイは親切だよな、お人好しと言う奴か?」
「は?」

 笑みのまま率直な感想を伝えれば、何故か絶句している様子のフェイがいて、それはアスとしても予想外の反応だった為にやや面食らってしまった。

「・・・貴方にとっての最善を選べないからといって、他の魔女の干渉をしたいがままにする事はないと、思いますよ?」
「そこは見解の相違だな、最善が選べないなら、道を幾つか残しておくのも手だろう?」

 何事もなかったかのようにフェイが会話を続けるから、アスもまたそれに応じて答えて行く。

 最善は関わらない事。けれど、他の魔女の関係を気にして最善が選べないのなら、そもそも気にしなければ良い。
 そう考える事を提案してくるフェイへ、アスは関わって来る気があるのならば、その関与こそを使えるようにしようと自身の心積もりを明かしていた。

「魔女は皆が皆好き勝手しているからな、いざ繋ぎをとろうにも何処にいるかすら分からない。なら、向こうが気にしてくれている状態を維持していても完全に無駄にはならないだろう」
「一人でいたいと言うのに、関係を望む。矛盾が凄いですね」
「そうか?そもそも一人でいたいと言うのも少し違うのだが、じゃあ人と関わるって思うんじゃなくて、その時々に向けた要因の一つ、それぐらいに思っておけば、まあそう言うものかも~ぐらいで済むんじゃないか?」
「個人ではなくて、と言う要素で考えるのですね、殺伐としていると言いますか、やはりそれでも矛盾しているんじゃないかと思いますよ?」

 妙に突っ掛かってくるなと、不思議にアスは思った。
 何かがフェイの譲れないものに振れたか、単に気に障るものがあったのか、もしそうでも、それを向ける相手へと気取られるフェイではないと思うのだがと、そこまで考えて、そろそろなのかと、アスは思った。

「・・・フェイ、一ヶ月だ」

 教会の扉へと置く手に、アスは思った事を確認するべく呟いた。

「そうですね、一月です」
「見定める為の期間として、一ヶ月が短いのか長いのか分からないが、判断は付きそうか?」
「どうでしょう?」

 その話しを持ち出される事が分かっていたのか、それとも、そもそもが話しを持ち出させる為の会話だったのか、フェイの口調は何処までも何時も通りだった。

 フェイは手を借りたいと、目を覚ましたアスのもとを訪れていた。それも話しを聞いている限り、二百年にも及ぶ年月をアスの捜索に宛てていたように思う。
 けれど、アスは未だ、フェイが自分に何を望んでいるのか聞けてはいないのだ。フェイは自身の望みについて明確には一言も触れてはおらず、何度かそれとなく話しを振ってみていたが、その時々で流されるかはぐらかされるかだった。
 こうなってくると、アスにも分かるのだ。そもそもフェイには明かす気がないのだと。
 駄目だと判断したなら、事前に二百年の時間をかけていようと、フェイは早々に見切りをつけるだろう。だが、フェイは未だ留まっている。ならば見定めていると言う段階なのだろうとそう思った。

「いたいだけいてくれて良いし、好きなだけ見定めて貰えば良い。そう思っていたんだが、ここに来てのアレだからな」
「そう言ってしまうと言う事は、がなくても、彼と一緒に行く決断をしたと言う事ですか?」
「そうなるのか、何時までかは分からないがな」

 一緒に行くと決めて、その道行きが何時までかかるか分からないと告げる。

「ふぅぅぅぅぅーーー・・・」
「長過ぎないか、溜め息」
「いえ、ここで離脱を選んだとして、その後の事を考えてしまうと、どうしたものかと思えてしまいまして」
「どう、とは?」
「取り敢えず、街にも入れず右往左往している男女の姿を想像しています」
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