64 / 214
【第二晶 ~選びし者と選ばれし者~】
6 謝罪と願い3
しおりを挟む「フェイさん・・・」
「これがアスなんです」
告げる言葉へとフェイは頷いて見せ、そうまでしたその言葉にはどんな意味が込められていたのだろうか。
アスには分からなくても、ルキフェルには通じる何かがあったらしく、フェイへと力なくも頷く様子をアスは見ていた。
「記憶はないけれど、これ、絶対に前の自分?も苦労しているような気がする」
「大丈夫ですよ」
「・・・本当に?」
項垂れるルキフェルへと、大丈夫だと朗らかに笑うフェイ。
訝しげに、疑わしげに、ルキフェルは上目遣いでフェイを見た。
「ええ、以前の貴方は名前すら呼んで貰えていなかったようですから」
「っ!?」
唖然とするルキフェルの目の前で、フェイはアスへと向ける視線に確認を促していた。
「うん?よく話しの流れが分からないのだが、何て呼んでいただったか?普通に勇者って呼んでいたが?」
「なんで!!?」
それがどうかしたのかと言わんばかりのアスの反応へと、思わずルキフェルが声を荒げる。
その様子を不思議そうに眺め、アスは自分にとっての事実を伝えるのだ。
「何でって、言われてもだな、私も最初は勇者殿って呼んでいたんだ。そうしたら呼び捨てにして欲しいって、そう言われて、言ったのはルキだぞ?」
その言葉に今度こそ完全にルキフェルは絶句し、出てこない言葉へと無意味に口を開閉させながら、アスを見ていた。
「そう言う反応になりますよね、分かります」
囁くようなフェイの声は深い同意を示し、労りにて満ちていて、その言葉に何故か救われたように思ってしまったルキフェルは、そう言う反応とはどう言う反応なのだと、自分自身の現状を思いながらも、結局はがっくりと項垂れてしまっていた。
「さて、と言いますか、もう夜もだいぶ遅い時間です。予定については明日にしていい加減に寝て下さい」
「ああ」
「・・・はい」
衝撃が抜けきらないルキフェルは力なくも教会の中へと入っていき、釈然としないままのアスもまたその足を扉の方へと向けて踏み出していた。
その間にフェイは教会の扉横の灯りを弱め、暗闇を見通す事は出来ないままでも、暗い森の中でもここに人がいると分かる程度に調整をしていた。
「アス」
調整を終えて、未だにその場へと留まっていたアスの存在には気付いていたのだろう、フェイは声をかけて来る。
「ん、いや約束しては貰えなかったなと思ってな」
「ちゃんと条件を付けていたのですね」
「条件って程のものじゃないがな」
何時からフェイはアスとルキフェルの会話を聞いていたのか、気が付いた時には話しに加わっていて、けれど、アスが約束を持ち出した時の事は把握していないらしい。
「貴方は彼をどうしたいのですか?」
「どう、か」
不意にフェイはそんな問いを口にした。
色々と会話をして、色んな表情を見せて、だからフェイのその問いはそれらの延長線上にあった。
何気無い口調と何処か悪戯っぽくも窺うような眼差しに、けれど、結局はそれが聞きたかったのではないだろうかとアスは思う。
「傷付けられたのなら傷を付け返したい。寧ろ、叩き潰して二度と自分の前に現れないように仕向けたい、とか」
「過激だな」
瞬かせる双眸にアスは一つ頷いて見せる。
「では赦したいのですか?」
「潰すか赦すか、極端だな」
赦すと口にした瞬間に、どのような想いにか、すうっと細められるフェイの双眸を見ていて、アスは苦笑していた。
そうして、そんな反応を見ながらアスは続けて口を開くのだ
「フェイが言っていたと思うぞ?」
「私、ですか?」
何の事か思い至る事が出来ないのか、フェイは細めていた双眸をそのままに、口もとへと指を宛て考えているようだった。
「そんな考え込む程の事じゃないさ。先送りに出来るなら、そうするだけって話しで、だから赦すも赦さないも今は関係がないんだ」
「今がその突き当たりと言う事はないのですか?」
「突き当たったなら次は右か左か、袋小路までは頑張所存だな」
逃げ続けた先の行き止まりをフェイは指摘するが、アスは少しだけキリッとして見せる表情で屁理屈のような事を宣ってみた。
それを見たフェイの呆れたような表情に、ふっと笑い、アスは言葉を続ける。
「たぶんだが、私にとっての最善は、今すぐにこの場から立ち去って、ルキとは二度と会わない事だと思う」
「正解かどうかは置いておくとして、最善と言いながらもその選択をしない理由は何でしょう?」
「他の魔女の関与」
端的に、けれど、私とフェイにとってはそれ以上ない程の明確な理由を即答する。
「他の・・・最低でも“時”は関わっているのでしょうが、貴方の選択を遮るような相手でしょうか?」
「どこまでを、どれだけの輩が咬んで絡んでしてくれているのか分からないが。最初に近しき古き有り様を持つ四人、その紋章がこれ見よがしに刻まれていたからな、面倒事は間違いがないな」
それはルキフェルの棺があったあの空間の入り口の話しだった。
竜と橘を頂く“時”
白麒麟と黒麒麟と征く“空”
大樹と泉を標す“樹”
霊亀が抱く“地”
騙る事等許されない、それぞれの魔女を冠する四つの紋章。
ならば、確実にこの四人は関わっているのだろう。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説


王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。


五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。


[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる