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【第一晶 ~新たなる旅立ち~】
41 召喚師
しおりを挟む「ネーヴも食べるだけ食べて、いつの間にか帰ってたな」
「中に詰めてあった香草だけ、綺麗に残して行きましたね」
お裾分けにしては多めに取り分け、フェイはネーヴにも丸鳥の蒸し焼きを渡していた。
それは丸々一羽、もともとの大きさの半分よりやや少ない程度だったのだが、ネーヴは綺麗に肉の部分だけを完食し、そして、音のない飛翔で飛び去っていったらしい。
「黒パンがありますのでどうぞ」
「貰う、有り難う」
丸い黒パンを受け取ると、保存期限を延ばす為の硬く水分の少ない生地の手触りに、私は迷わずナイフで半分にスライスすると、そこに丸鳥の蒸し焼きを挟んだ。
染みていく脂をパンがしっかり受け止め、食べやすくなると同時に、パンに使われている穀物の旨味も増して、満足の一品だった。
「アルコール分を飛ばしたワインを割ったものになります」
片手鍋を寄せて来て告げられる言葉に、覗き込めば湯気を立てる赤紫の液体が揺れていた。
カップを渡すと注いでくれて、お礼を告げながら受け取る。
口へと運ぶと、山蒲萄の芳醇な香りが鼻腔へと抜け、身体へと巡る熱の心地好さにほっと一息ついた。
「ここの狐さんへの扱い等から、従魔師かと思っていたのですが、召喚師でしたか」
「ん?従魔師でもあるぞ?従属と契約を相手によって使い分けているからな」
食後に直ぐ動くのはちょっとと思ったので、思い思いに休憩を取っていたのだが、おもむろにフェイがそんな事を聞いて来た。
「従魔師は、常に従えているものを傍らに侍らせているイメージがありますよね」
「呼べばこれる位置にはいるが、私はわりかし自由にさせているな、召喚の契約も基本は都合がつかなかったら応じなくて大丈夫って言ってあるし」
「実際に従魔師と召喚師はどちらか有用でしょうか?」
言われてみて考える。
従魔師は“友好”か“支配”で対象と繋がる。
好意を抱き、守ってあげたい、共に戦いたい等、一緒にいたいと思わせる“友愛”と、力を示して屈服させられる等して、逆らってはいけない相手として刻み込まれる“支配”。
召喚師はそこに条件や対価と言った要素が発生する“契約”と言う手段が加わって来る。
「常に繋がっている、従魔師は繋がりが深い分、柔軟に従魔が動いてくれるし、こちらの指示で細かく動かす事も出来るが、従魔師に何かあれば従魔にも影響が出ると思った方が良いし、繋がりが強いと複数の従魔を持つ事も難しい。私達の繋がりは、従魔の仕組みをより強化した感じだろうな」
「従魔の術は、魔女の使い魔がもとになったと言う話しを聞いた事があります。寧ろ向こうを劣化版と言った方が良いのでは?」
「じゃあ系統の特化だな。繋がりは魔女に寄り添い、その魔女のみの存在となる。言い方はあれだが、魔女の執愛の先だって言った奴がいて、分からなくもないと思った事があったな」
魔女は基本一人でいる。そもそもの孤独をそう言うものと受け入れてしまえる者しか、魔女には向かない。
その魔女が唯一、心を与える相手が繋がりであれば、執愛と言われても、そうだなとしか言えなくなる。
「召喚師の契約で繋がった相手は召喚師だけでなく、自分にも何かあれば還ってしまいますよね?」
何を思ったか、フェイにもまた思うところがあったらしく、話しがもとに戻される。
「余程の契約を結ばされていない限り、契約主より自分が優先されるだろうしな、それに、大体の契約が喚ばれた時、その時のみで繋がりを発揮するものだから、繋がりが薄いと言われればそうだ」
「召喚師は場合に応じて、喚ぶものを変える汎用性がありますよね?」
「対価の内容で折り合いがつく限り、契約主の力量で、どれだけでも契約を結ぶ事が出来るからな」
「以前喚ばれて来たものに食べられてしまった召喚師の方を見ました」
「そこは召喚師の怖いところだな、従魔師はもともとが“友愛”や“支配”から来ているだけに命令を拒否される事はあっても、そこまでの事は早々ない。召喚師は契約の抜け穴を突かれたりして、わりかしやらかす奴が多い」
火の始末を終えてときわに戻って貰う。
会話を続けながら、どちらともなく出発の準備を始めていたのだ。
「一応の見守り係の子等に朝食を振る舞おう」
取り出す一角兎を地面に三羽ばかり置く。ぶっちゃけて言えば先日大量に仕留めた分の在庫処理を兼ねている。
きゅんきゅん、喜んでいるであろう声を背後に聞きながらの出発になった。
「・・・やらかした事がありますね?」
「・・・・・・」
何故分かると、顔に出てしまった事だろう。
確信しているであろう反応に、まあ良いかと思った。
「その時限りで力を借りるだけだったんだがな、高位存在である自分が行使されてやるに相応しい役割を用意しろと、何だかんだで未だに力を貸してくれるんだ、アイツは」
言っていて、自分でも意味が分からないとばかりに首を傾げてしまう。
「暇とかではないだろうし、酔狂だろうな」
「・・・・・・」
そう告げた時のフェイの表情は、確かにコイツマジかと言う、そう言った表情をしていたと言っておこう。
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