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【第一晶 ~新たなる旅立ち~】
34 過去の欠片とフェイの興味
しおりを挟む「エリーの生まれた帝国が、エリーの技術で大陸の統一に乗り出した。兵器への転用それが赦せなかったんだろうってフェンは言ってたな」
「兵器、どうりで・・・」
フェイも唖然としていたが、予想の範囲内か、重々しくも頷いていた。
「かなりの高出力兵器だろうな、一発で北の大陸の魔素が枯渇して、二発目でイルミンスールが枯れた」
「エネルギーへの変換効率の問題ではないのですか?」
魔素から兵器を運用する為のエネルギーへの変換効率が悪く、効果に見合わない消費があったのではないかとフェイは考えたようだが、私は緩く首を振る仕種でその考えを否定した。
「増幅の機能は殆どなかったらしいが、相応の被害は出ている。魔物による蹂躙はとどめでしかなかったし、魔素の中毒症状は生き残りを更に追い詰めはしたがそれだけだった」
「北の大陸ですと、帝国は双翼国と長年争っていましたよね?」
兵器が使われたなら、向けられるべき相手がいたと言う事。そしてフェイは別の大陸の歴史にも精通しているらしい。
「帝国と大陸を二分していた双翼国が滅んだそもそもの原因は、王都が消えた事による混乱だとフェンは言っていた」
「消えた・・・開戦、それ以上に常に緊張状態だったなら、特に王都ともなれば相応の防備が敷かれていて然るべきでしょうに」
侵攻されて結果的に滅びたのでも、敗戦の末の明け渡しでもなく、ただ消えたのだとそうフェンは言っていたのだ。
平和ボケしていたのなら、まだ多少なりとも理解の範疇におさまる。だが長年戦いに明け暮れていたような国だ。
王都とは、国と言う機関の心臓部。その国の威信をかけた最高レベルの防衛によって守られるべき場所。
そこがたった一度の攻撃で落とされた。
使われたと言う兵器は、その防備を破れる程の性能があったか、その守りをものともしない程の威力があったと言う事になる。
「と言う訳だから、蕾華の魔女だったか?それとなく気にしてはおいてくれ」
「止めなくて良いのですか?」
北の大陸の二の舞を避けたいのならば、真実を詳らかにする方が良いのだろう。
信じる信じないはあるのだろうが、意識の端にでも留めておいてもらえば、最悪は避けられるかもしれないし、そうでなくても、選択肢としては選べる可能性が増えるのかもしれない。
けれど、私は正直に言えばどちらでも良いと言ってしまうだろう。
「さあな、自分の動きの範疇を決める指針にはするが、基本私は関わらない」
だから、フェイにも止めるように働きかけてくれ、ではなく、何かのついでで良いから、ぐらいにしか言わない。
「ですね、魔女としての役目はそうですが、世界の行く末を担うのは勇者のものですから」
そしてフェイもまた、似たようなものだと、その答えに思った。
「魔女は普通の人間より、より多くを知る機会があるのかもしれなくて、より強く世界へと関わる事が出来るのかもしれないが、基本、世界をどうこうしようとする意志がある者は魔女に向かないし、だれも選ばない」
魔女にする事もなければ、魔女になる事を選ぶ事もないのだ。
「世界に背かれる、ですか?」
「もっと単純に魔女の力は変革には向かない。やろうと思えば街どころか、国の一つや二つ簡単に消せる奴はいるが、統治者とか、率いる者としての資質は壊滅的だ」
「分からなくないです」
誰を思い浮かべたのか、納得するように神妙に頷いてみせたフェイ。だが、その後、何故私を見たのか、そして、どうしてもう一度頷いたのか、ちょっと話し合いの必要があるのかもしれなかった。
「誰かに心酔するだとか、誰かに弱味を握られるだとか、そう言う奴もまずいないから、力を貸すだとかも早々ない」
「貴方は・・・」
何を言いかけたのかは分かる。私は嘗て勇者達の旅に同行し、賢者様等と言われる程度には力を貸していたのだから。
だが、それについて、今のところ触れる予定はなかった。
上げる手に遮るフェイの言葉。そのまま、やや伏せるように手首の向きを変えてハンドサインでその場での待機を頼む。
一人、足音を殺して先行すると、森が唐突に途切れた。
「行けそうだな」
見下ろす眼下に私は呟いた。
「鳥系の魔獣の巣ですか?」
尋ねられる言葉に、何故か、待機して貰っている筈のフェイが、同じように下を見下ろした状態でそこにいた。
そこにあるのは切りだった崖であり、十数メートル下にある地面まで、反り返るような黒灰色の岩壁が続いていた。
そして、その一角に入った亀裂の一部に、フェイが巣と表した枝の集合物が敷き詰められた場所があったのだ。
「夜鷹の巣だが、子育て期間からは外れていたらしい、良かったな、迂回をせずに済みそうだ」
「え!」
安堵して笑えば、何故か驚いた表情で跳ね上げる顔にフェイが見てきて、少々面食らってしまった。
「何か問題があったか?」
「夜鷹ですよ!絶滅したって言われてる!それも巣?時期があえば子育てだって見えたって事ですよね?」
矢継ぎ早の言葉に、何故か詰め寄ってくるのが、面食らうのを通り過ぎて恐かった。
「・・・ようは、見たかったんだな」
何となく察して呟けば、見開く双眸に、フェイが引き下がっていった。
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