月白色の叙情詩~銀礫の魔女が綴るもの~

羽月明香

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【第一晶 ~新たなる旅立ち~】

25 戻ってきてのあれこれ

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「お帰り、ご苦労だったな」
「この子には“お疲れ様”で、私には“ご苦労”なんですね」
「いや?と言うか本当に何時から聞いていたんだ?」

 帰還を労って交わされる和やかかもしれない会話に私の意識が引き戻される。
 ふふ、と楽しげに笑うフェイに、これは答える気がない状態だと思ったが、カイが私にはお疲れ様と言った状況を知っているのなら、それはもう、私がここに戻って来た最初の時には既にいたのではないかと思われた。 
 みちがどうとかではなく、転移の魔法でも使ったのかと思ったが、ここは常盤ときわの魔女の領域なのだ。当然その手の手段での出入りにもちゃんと対策がなされている筈なので、本当に意味が分からなかった。

「あ、いや。そもそも私が“穴”を開けたのか?」

 分からないと思ったところで、思い至り、それを言葉として発していた。

 転移の魔法は阻害される。けれど私はここに来た。それはフェンの力を受けた魔法道具による移動だったが、それが出来てしまった段階で何かがあった筈なのだ。

「閉ざしたさ、あの後直ぐに」
「やっぱり壊していたか、すまないカイ・・・ん?閉ざした?」

 魔法道具による転移。あの当時も張られていた常盤ときわの魔女の結界は、他の魔女による力の突破を受けて穴が開いてしまっていのだろう。
 不味いと思って誤り、そこでふとカイの言葉に違和感を覚えた。
 修復したとか直したではなく、閉ざしたと、その意味合いの違うの言葉を、目を瞬かせて考える。

「ちょっと色々とあってな、こちらからの役割はそれなりに熟していたが、向こうからの干渉は極力拒んでいた」

 事もなさげに言うが 、その色々が気になった。
 カイの言う極力は、控え目な表現でしかなく、その心内では絶対にと言葉が変換されている程に強い雰囲気を感じさせていた。
 そう言う表情をしてしまう程に、そこまで関わりたくないと思われてしまったものが気になるのだ。

「極力どころか、森の木々や草花、植物等を司とする常盤ときわの魔女の力の極致と言った感じでしたね」
「もとからここの守りはそう言う風になっている。それをほんの少し、私の方で強めただけだ」

 眇見る眼差しに、カイの不機嫌さを窺い見る事が出来た。
 それは何となく、自分の敷いた守りが突破されてしまった事への悔しさなのだろうと思われ、私と同じくカイの感情に気付いたのだろうフェイは満足げに笑っている。

「読み解くのが大変でした。それでも綻びが残っていて、それが“風”によるものなら、分かりますよ。どんなに些細なものだったとしても」

 それは最初に戻っての肯定なのだろうか。
 フェイがここにどうやって戻ってきたのかと言うそもそもの話しも含めた、その方法についての発言を思わせるもの。
 けれど、フェイの言葉は、その殆どが思わせ振りで、そう思わせるのに、形作られる笑みはやはり肯定も否定も判然としないものなのだ。

「実際に、ここを特定したのも百年程は前だったのですが、貴方が目を覚ますまで、訪れる事も許されませんでした」

 そのフェイの言葉と、一変してカイへと向けられる非難を含んだ眼差し、浮かべられた苦笑に、それで私も一つだけ確信した。ここが“閉ざされた”理由が私にあると。

「さて、じゃあ何時までもここで立ち話はなんだしな、まずは食事にするか、・・・と言っても作るところからだがな」
「ラビ肉祭りの開催ですね」

 目を向けようとしたところで話しを切られ、何故かそれにフェイが便乗して来た。
 その布陣にこれは駄目だと、状況の不利を私も理解する。
 フェイとカイ、単独でも難しいのに、この二人がかりで話題から遠ざけられてしまうと、私では太刀打ち出来ないのは、ここ三日どころか、最初の一日で完全に悟らされていたのだ。

「予想はつくから、その範囲外があるってことだな」
「献立はラビ肉のキッシュと、薫製肉を乗せた葉物サラダで」
「シチューもですかね、温めれば朝食にも回せますし」

 それでも食い下がろうとしてみるが無理らしい。それも、気付けないぐらいに然り気無く話題を逸らすのではなく、言いませんよ?をあからさまに献立への話題に変えられている。

「無茶をするから教えて貰えないのか、得られないから無茶をしようとするのか」
「前者だな」 
「前者ですね」

 異口同音とまではいかないものの、間髪入れずの同じ答えに、思わず半眼となり二人を見てしまった。
 その時には二人ともがコテージへと向け歩き始めていて、私が見たのはその二人の背中でしかなくて、だから思ってしまったのだ。

「何時の間にか仲良くなっていて・・・ふむこれが疎外感と言う奴だったか」

 何となく呟けば、一瞬にして二人が振り返って来て、その唖然とした表情に寧ろ、その表情をしたいのは私なのだがと、憮然としてしまった。

「なんでしょう、あれは、何か罪悪感が」

 フェイが口の中だけで呟くものだから、私には聞き取る事が出来なかった。

「あれは無自覚だ、表情に出すなよ。寧ろそれこそ気にする」

 フェイに合わせているのか、カイもまた小声で話していて、やはり私には聞こえないのだった。
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