29 / 214
【第一晶 ~新たなる旅立ち~】
23 帰宅
しおりを挟む「あ、回収せずとも大丈夫かもしれません」
「ん?・・・ああこいつらか、丁度良いところに」
フェイが気付き、少し遅れて私も気が付いた。
まだ距離はあるが、南の方に魔獣ではない、つまりは人間の気配が幾つか纏まって存在しているのだ。
「少しずつ、北へと移動している動きだな」
「そうですね、戦闘中と言う感じではないですし、周囲を警戒しながらの移動中といったところでしょう」
「このまま進路が変わらないなら、いずれ遭遇するな」
「四人パーティーのようですが、ここまで来る事が出来るのなら、パーティーとしてのランクはAかBメジャーでしょうね」
「メジャー?」
聞きなれない単語に、四人組へと向けていた意識はそのままにフェイを見た。
「百年ぐらい前に出来た、固定で登録されているパーティーへの評価にプラスされて付く評定方法ですよ」
固定のパーティーとしてギルドに登録していると、パーティーとしてのランクもつけられる。
フェイが言うには、パーティーのランクには、単純なA、B、Cだけでなく、メジャーとマイナーと言う評価がつく事があるらしく、表記としては、A+かA-となり、これは信用性や、知名度的なもので付けられるらしい。
「朔の森の奥は、常盤の魔女の領域だと知られていますから、ここに関係する依頼にはギルドの方で、制限がかけられています。単純な力量だけでなく信用がいるのですよ」
「ああ、お墨付き、と言うやつだな」
「そうですね、ですから、実力的に見たAランクか、B+程度の評価があるパーティーだと思います」
「A-の可能性は?」
「余程何かをやらかさない限り-表記はつきませんから、Aでも魔女の逆鱗に触れる可能性があるなら許可されませんね」
「ペナルティ的な意味合いか、結構エグいな」
私の若干顰められた表情に、フェイもやや苦笑していた。
ランクの評価はギルドが行うもの。そこに、+だの、-だの、更にギルドの評定が加わるのだ。
ギルドの利益に貢献し、ギルドにとっての良いギルド員ならば、ギルドによるお勧め証明+が付き、逆なら-がつけられる。
「そこまで理不尽でもありませんし、実際に依頼する方からすれば、実力以外の目安にもなりますから、それなりに受け入れられていますよ?」
「その辺りまでを加味したランク付けだっただろう?能力があっても仕事ぶりに難点があればC以上にはいけない、逆に下手に+がついて、実力の伴わない指名依頼を受けてもな」
「だからパーティーランクにしか採用されていないのでしょう。ちゃんとパーティー内で意思の疎通をはかって、危機回避能力を上げなさい。失敗して自己責任な結果になっても最悪だけは避けましょうと言う感じです」
そんなものかと思っておく事にした。実際にそんなものなのだろう、一つの仕組みが百年も続くのなら上手くいっていると言えるのだから。
「まぁ何にしても、上位なら、コレの回収もなんとかなるだろうな」
「そうですね、あ、一人離れました」
「隠蔽の能力が高いな。斥候だろうし、誘導してやるか」
「そうですね、場合によっては接触してきます。貴方は先に戻っていて下さい」
「魔獣増加の件だろ、一応確認しておいて欲しい」
「そのつもりです」
そう言った次の瞬間にはフェイの姿はなくなっていて、おまけにどれだけ探ろうと気配すらも掴めなくなっている事に、私は内心で驚嘆し、驚きから笑みを浮かべていた。
「言われなくても、だな」
相手が何を目的としているか、そして、だからこそどう動くのか、情報と推測。それがフェンの常であり、フェイも同じなのだろう。
私が頼まなくてもフェイは率先して、ではなく、あくまでも自然に情報を手にするし、そこから幾つもの指針を見定める。
こうなったらこうしておこうかな?ぐらいの軽さで、幾筋もの方針を、脳裏で巡らせているのだ。
「こうなるからこうってのも、やろうと思えば出来るから、乗せられるのも悪くないんだが、如何せんびっくりして、それで驚いているのがこっちだけって言うのがどうにもな」
こうなるからこうと言うのは確定予測。つまりは可能性に手を加えて、そうあるべきと定められた状態。
フェイはそれが出来てしまう。フェイの資質もそうだが、“風”がもとからそういうものなのだ。
「フェイはわりかし真面目っぽいが、“風”は自由。寧ろ愉快犯な気質があるからな」
「それで、びっくりで済ますのも大概だな」
お出迎えだった。
独り言で、考えているようで、実のところ何も考えていない思考を散乱させながら歩みを進めていたら、いつの間にか戻って来ていたらしい。
銀鹿の姿をしたカイが、コテージに寄り添う大樹を背に佇んでいた。
「ただいまカイ。一先ず切りをつけて来た」
「お帰り。お疲れ様」
「途中でカイの路に入ったとは言え、あの位置まで“外”の人間が入り込んでいるとなると、少し心配だな」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説


王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。


五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。


あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる