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【第一晶 ~新たなる旅立ち~】
20 リハビリテーション
しおりを挟む「射程範囲には慣れたが、やっぱり軽いな」
正面で、両手に持った短剣をクロスさせ、その中央へと受けた突撃に、背後へと飛ばされながらの言葉だった。
「衝撃で体勢が崩れないのはさすがですが、受けるより回避に専念した方が良いのでは?」
頭上からの提案に、そうだろうなと、私は頷いて返したがお互いの位置取り的に見えてはいないだろう。だから、同意とは別の事を返してみる事にした。
「フェンやフェイみたく当たらないってのは無理だから一応の確認だな。それにしても、攻撃が軽いのはもとからだったが、一角兎の攻撃ぐらいでここまで弾かれるとか予想外だ。間合いを詰めるのが面倒だろ」
着地と同時に前方へと踏み切り、前へと突っ込む動き。額に一角獣の角を持つ一抱え程もありそうな兎が追撃にと迫っていて、瞬時にお互いの間に開いていた距離がなくなる。
体を捻る様にして、一角兎の突き出す額の鋭利な角をぎりぎりで回避し、左手で持つ短剣 が一角兎の首筋を切り裂く。
同時に右側から迫っていた、別個体の一角兎の角を払い、二動作目で一匹目と同じように仕留めた。
「よく二本ともを、邪魔させず器用に振れますね、あ、東から六、抜けます」
「接近戦は煉狗の魔女に仕込まれた。まぁ、攻撃&攻撃みたいなひとで、今みたいなスタイルに落ち着いたのはフェンの影響だな」
会話を続けながらも、身体は動いていた。
先程仕留めたのと同等の一角兎が六匹、フェイの告げた通り、私の左手側から迫っていたのだ。
「戦闘狂だったと聞いた事がありますが」
「魔法で業火を出して、その中で高笑いしながら生き残りの上位種とやり合う感じだったな」
押して知るべしである。
最初に適当な魔法で選別を行い、そこで生き残る事が出来る、少しでも手応えのある相手との戦いを好む、それが煉狗の魔女だった。
「あと、侍従殿もか」
「侍従殿ですか?」
「聖女のお付きの侍従殿。何処からか取り出す二本の暗殺者の短刀で敵を屠るんだが、本職も真っ青の動きで、いやぁあれは本当に惚れ惚れとした」
構わず話しかけて来るフェイに、私も応じ続ける。
思い出す勇者パーティーとの旅路に、赤いショートヘアーを靡かせ、穏やかながらも胡散臭い笑みで朗らかに笑う彼女の存在に、身震いしながらも頼もしく思たものだと少しだけ懐かしくなった。
「・・・その本職が戦闘職の事なのか、裏職業の事なのか気になるんですが、十二秒後、北から八です」
先程の六匹の内、残り二匹の相手をしていたところ次の報告が来る。
「多いな、魔物化していないとは言え、そろそろ血の臭いを嗅ぎ付けた上位種が来るんじゃないか?」
「奥からブラッディウルフが三、足止めします」
「そこは足止めじゃなくて仕留めてくれ」
「余裕そうですし、足もとを暫くお願いしますね」
見えないが、にっこりと微笑まれた気がした。
「ブラッディウルフの後ろから竜種、いえ大きいですが、ただの翼竜です。落とします」
これは仕方がないかと思った。飛行型のものを相手取るなら私よりも弓を扱っているフェイの方が相性が良いのだ。
「ここで一息になりますから、仕留めきって下さい」
「観測者が優秀だとかなり楽出来るな」
「探索に意識を割り振りながら戦っている方に言われましても」
本気の困惑声だったが、実際に助かっているのだ。広域の探索が可能で、数や来る方角だけでなくこちらへの到達時間の正確な予測の告知までしてくれるのだから。
「足止めや、割り振りも完璧だからな、かなり戦い易い」
「お褒めに預かりまして」
最後の一匹となった、紅玉よりもなお紅く、黒ずんでさえ見える毛並みの狼と対峙する。
ブラッディウルフが大物感を漂わせながら歩み寄ってくるが、早く来いと思った。翼竜が迫って来る今、時間をかけている暇はないのだ。
感覚的に、フェイの探知能力は、私が最初に展開させていた十メートル範囲の十倍以上の距離を余裕でカバーしているのだろう。
それでも、翼竜ともなれば、感知から接敵まで数十秒と言ったところになる。
「今はイチイバルか?翼竜系ならフェイルノートを使った方が良いだろ?」
「いえ、このままでいけます」
フェイは弓を扱っている。イチイバルは連射性に優れた弓で、フェイルノートは一撃の威力に重きをおいていると聞いていた。
空を自在に行く為に、何等かの障壁を展開している事が多い翼竜が相手なら、その障壁を破る一撃が必要になる。その為の提案だったのだが、そのままで問題ないらしい。
「必中に近いフェイルノートなので、急所が狙えれば威力もおのずと上がりますが、落とす目的なら、こうします」
シュンッと空気を裂く鋭い音は間違いなく一回だけだった。
なのに頭上に閃いた幾本もの光は、フェイを中心とした放射状の広がりを見せて、一方向を目掛けて飛来して行く。
喉を切り裂いた最後のブラッディウルフが、地面へと倒れた。
同じ時に、ギャーと無数の鳥が一斉に鳴き声を上げたかのような耳朶を打つ咆哮が轟き、そして、地響きが続いた。
「落ちたっぽいが、まだ距離があるだろう、出向くのが大変じゃないか」
「来ますよ、ここまで、それに翼竜に追われる形となったのでしょう。ラビが十と、ラビが六とラビが八です」
「ラビ来過ぎだろ」
既にラビとしか呼ばれなくなっている一角兎だった。
「ラビ肉祭りです。解体だけで一日以上かかりそうですが」
「いざとなったらまとめてギルドに持ち込む。ギルドがなくなってるとかなら肉屋か毛皮屋だな」
「ありますよギルド。なので頑張って下さい」
「ラビ肉のシチューとラビ肉のパイ」
「香草焼きやベリーソースかけ等はどうでしょう?」
「面倒になったら普通に串焼きで」
「丸焼きと言わないあたり、まだ良いのでしょうか」
献立を述べながら仕留めていたが、量が量になってくると、調理する事すら面倒だと思えて来る。
フェイは丸焼きを面倒臭がりの常套手段の様に言ったが、丸焼きは上手く火を通すのが大変なのだ。
焼けた場所から、削って食べるのも確かに良いが、それでも長時間に及ぶ火加減の管理や、大きさや重さに耐えられる焼き場の設置等、初期準備による手間もそれなりのものになる。
その事を伝えるとフェイもなるほどと納得を示していた。
そんな、会話をしながらのラビ狩り。
そして、あらからの掃討を終えた時、ようやくそいつは姿を顕にした。
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