23 / 214
【第一晶 ~新たなる旅立ち~】
17 安眠妨害の結果
しおりを挟む「はぁ、本当に忙しない。だいたい寝ている筈なのに全く休まらないとか、どうなっているんだ」
首を傾げずにはいられない案件に、わりかし真剣に考えていた。
「フェンも、これ見よがしに何か残していったし、これ、このままにしておいても大丈夫だろうな?嫌な感じはしないのに、嫌な予感をひしひし感じさせるとか、結構凄いぞ」
全く絶妙なさじ加減だと、自分でも謎だと思う誉め言葉を贈りたい。心から。
おそらくは自棄を起こしかけている意識と、いっそ素直さを突き詰めようとしている思考が、暴走を許される時を待っている気がした。
「結局は同じか。ああは言っていても、フェンの唯一に関わるものであるなら見ないふりは出来ないし、そもそもが、ここでそう考えている事が既にって事だな」
本当に手の平の上だと思わずにはいられないなと、溜め息を一つ溢す。
何を選んでも、寧ろ選ばなかったとしても、フェンの望むところとなるのだろうと、そんな予感すらあったのだ。
「まあ一緒なら、そもそも悩む必要がなくて良い事だ」
そう前向きに捉えて、そして、私は無造作に手を伸ばす。
その瞬間のトゥィンと言う音の波紋。それは弦を弾くかのような音を思わせるものだった。
羽へと触れる指の先に、一瞬散っていた燐光は震え、触れたところへと収束するかのような動きを見せる。
そうして、集まろうとした反動なのか、唐突に光の粒が弾けた。
カシャンと繊細な硝子細工を落とし、砕け散ってしまう瞬間のように、音は淡い燐光となって弾け、舞っている。
光が解けるかのように羽の形は崩れ、シャラシャラと鈴鳴りの音が、遠く近くで反響し残響を余韻とし鳴り響き続けていた。
この時になって私は予感の正体を理解していた。
確かに悪いものではない。だが、受け取る事にかなりの覚悟が必要となるもの。
幻想的な美しい音の羅列に反して、私の意識は脳髄で反響を繰り返す響きに圧迫され続ける。
噛み締めた奥歯へと力を込め、光と音による侵食を受け入れるよう努める。そうして、耐えるように閉ざした瞼の裏へと幾つかの映像を受け取っていた。
無彩色の、けれど鮮明ではある静止画。
「実際に見た、映像じゃないんだろうな、負荷が大きい・・・」
そんな事を掠れた声で呟き、私は薄く開く双眸に、意識を急速に覚醒へと向けられて行く事に気付いた。
急かすように、急き立てられるかのように、そうして私は休息や安穏と言う言葉からは程遠い眠りの世界から追い立てられていったのだ。
※ ※ ※
「何等かの、誰かの能力で得た情報。あの映像は何だ、・・・気持ち悪い」
目眩どころではない吐き気があった。
無理矢理に寄越された情報。意識と記憶への介入。その負荷が大き過ぎて処理が追い付かないのだ。
「忘れるんだ」
「・・・・・・」
「忘れても、記憶の泉には映っている。今、必要でないのなら、必死に握ってなくて良い。手放してしまうんだ」
「・・・・・・」
静かだが、柔らかな、耳朶に心地好い響きを与える声だった。
その声にすら答えられないのは、そもそもの理解が追い付いていないから、与えられた情報が大きすぎて、それを取り零さないようにと必死になればなる程に、何かを認識する事が難しくなる。
それでも、その声を声と認識し心地好いとすら思う事が出来たのは、その声が私にとって安らぎの象徴とでも言うべきものだったからだろう。
過ごした月日。その間に受け取っていたものが、無条件に、その声の指示に従う事を良しと促す。
「・・・わすれ、る」
拙い声が自分の口から発せられるのを、他人事のように聞いてしまう危うさを思った。
そう、確かに思った筈で、なのにそう思った事すらも、次の瞬間にはもう酷く曖昧だったのだ。
「そう忘れて、私の愛しい養い子。それは今の君には必要のないものだから、手を離すんだ」
「たいせつ、な・・・」
「大丈夫、受け取ってしまったのなら、なくなりはしない」
「なくならない・・・わか、た」
了承した事で、何かに深く安堵を感じていた。
それから、深く、深く時間をかけて吐き出す息に、私は鮮明になりつつある意識を思い、目を瞬かせる。
「カイ?」
そうして、そこにいる存在を認識し首を傾げてしまうと、目の前にあったカイの何処か緊張に張り詰めたようであった表情が柔らかく弛んで行くのを見た。
「はぁ、まったく、私の養い子は大人しく寝ていると思っていたのに、なんで壊れそうになってるかな」
「壊れ、ん?」
意味が分からなかった。と言うか、今はどういう状態だっただろうか。
「様子を見に来たら、ベッドから体を起こしているのを見付けて、目が覚めたのかと声をかけたんだが反応がなかった」
「寝惚けか?」
寝汚たなくはあっても、寝起きは悪くなかった筈なんだがと、若干落ち込みかけるが、カイの様子から直ぐにそれどころではなかったのだと思えた。
「そんなんじゃない!あれは、あの壊れかけた目は、・・・分からないが、無理矢理適正のない魔法を流し込んだ状態に似ていた」
「そう言えば、忘れるとか声を聞いていた気がするな」
「そうだ、まだ声が届いたから良かったものの、かなり危うかったと思う」
「そうか、世話をかけた、有り難う、カイ」
申し訳なさと、感謝を伝えてカイを見ていると、一瞬宿りかけ露とされる前に消えた感情に、そのまま何故か凄く嫌そうな顔をされてしまった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説


王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。


五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました
東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」
その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。
『万能職』は冒険者の最底辺職だ。
冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。
『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。
口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。
要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。
その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる