月白色の叙情詩~銀礫の魔女が綴るもの~

羽月明香

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【第一晶 ~新たなる旅立ち~】

15 夢に惑う

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「私が何ですか?」
「ん?無理やり壊そうとして、背かれても面倒だなと思ってな」
「分かりませんが、何かを壊すだとか物騒な事はやめて下さいね」
「自分の選択だからな、私は、私のままに望みを選び取って行くさ」
「それが銀礫ぎんれきとしての貴方の選択なら、風成す者の導きを」
「・・・いらない」

 少し考えた後、私は拒絶をする。

「その拒否は一先ず置いておいて、取り敢えず、こちらを認識して下さっているのなら、私を見て下さい」
「・・・寝ている」
「そんな訳ないでしょう?往生際が悪いですよ」

 会話はしていたが、頑なに目は閉ざしたまま。そんな感じだった。

 色々と示された道があって、助言まで貰った。関わりに、不可避だと知ってはいて、けれど思うのだ。

「少しぐらい悪足掻きしても良いだろう」

 と、だが、相手は引いてくれないらしい。

「悪足掻きと分かっているなら諦めて下さい」

 にべもなく告げられる無情な言葉が返された。
 暖かい寝床で気持ち良く微睡んでいるのに、そこから強制的に引き剥がされようとしているかのような理不尽さを私は思う。

「私は夢に惑っていたい」
「自分から囚われにいかないで下さい」
「貴方が落としたのだろう、翠翼すいよくの魔女」

 ようやく開く目に、そこに佇む長身を見た。
 纏った、薄い浅葱色の生地のローブコートが、緩やかな風でも受けているかのように波打つ様子。背中側へと落ちたフードに胸もとへと垂れた長く癖のない髪が跳ねていた。
 切れ長の双眸はその造形の鋭さに反して、宿す光が愉しげで茶目っ気を感じさせる。
 私は対峙するままに、目を瞬かせた。そうして認識が私自身へと浸透し、その思い違いに気付いた。

翡翼ひよくの魔女?」
「はい、正解。分かってくれるって思ってた。あ、ついでにフェンって前みたく呼んでね、翡翼ひよくの~とか、堅苦しいんだよね」

 気付いてくれて嬉しいとばかりに形ばかりの拍手をしていて、それから悪戯成功と言い出しそうな楽しげで飄々とした笑顔を弾けさせていた。

「ああ、役目に縛られてるみたいとか言っていたな」
「私はあの子みたいに真面目じゃないからね、翡翼ひよくって響きは嫌いじゃないんだけど、それとも何なら前みたいにひーちゃんって呼んでくれてもいいんだよ?」
「呼んで欲しいならそうするが、フェンもそのままで、私は結構好きだぞ」
「そう?そのままって言われるのも安直って言われてるみたいでちょっと複雑だけど、ま、いいか」

 好きと言われて嬉しげに笑っていたが、直ぐに複雑だとの言葉通り表情を曇らせる。けれどその表情すらもやはり一瞬の事で、まぁ良いかとの言葉通り、何も気にしていないかのように笑っていた。
 相変わらず忙しないとそう思い、そうして私はフェンへと柔らかく笑い返した。

「そうだな、じゃあ、おやすみ」
「はいおやすみ・・・って言うわけないでしょ!ええ~?」

 笑みのままそう告げて目を閉じ、だが、そのまま流されてはくれなかったらしい。
 接近され、掴まれる肩が揺さぶられている感覚が正直煩わしい。

「せっかく再開した百年来の友人でしょ?」
「つい最近同じ顔を見たから」

 素っ気なく遇ってみた。

「違う、違うから、それに色々と可笑しいでしょ」
「そうだな、目が同じ緑でも、フェンは青みが強い感じだがフェイは黄色がかって明るい。サイドで垂らしてる髪を纏めた飾りはお互いの目の色だな」
「何か良く見てるし、それは嬉しいんだけど。駄目だから、時間がないの」

 慌てた悲鳴混じりの訴え。そう言えばこれがフェンだったなと、少しばかり懐かしく感じると同時に先程まではフェイを真似ていたのかと思った。

「フェイは装っていてもフェンではなかったと言う事だな」
「急に何?」
「フェンも自分で言ってたし、フェイは飄々としていても、何処か真面目だったからな」
「私だって真面目だからね?」
「・・・・・・」

 何となく目を閉じて、視界からフェイの姿を追い出してみる。

「沈黙!?だから寝ないで」

 悲鳴と嘆きだろうか。

「おかしい、絶対におかしいよね。翻弄するのは風の特性だった筈なのに」
「フェン」

 何かぶつぶつ言い始めたフェンを静かな声で呼ぶ。そして、開く双眸に真っ直ぐフェンの姿を見た

「・・・なに、これ以上私を苛めないで欲しいんだけど?」

 もう私の精神はぎりぎりだよとか、よく分からない事で嘆いているフェンを見詰め、けれど、そんな私の様子に何かを察したのか、フェンもまたうっすらとした笑みのまま静かに見返して来た。

「有り難う」

 私は告げる。その一言に数多の言葉と想いを込めて。

「・・・君とあの子は、ホントそっくりだ、そーいうどうしようもないトコ」

 切れ長のの双眸を更に細め、軽妙な笑みと飄々とした口調はそのままに、けれど、何処か底冷えするかのような冷たさを感じさせた。

「どうしようもないか?」

 気付いていて私は普通に応じてみせる。

「うん、唯一以外を切り捨てるって決めてるハズなのに、ぎりぎりまで、に手を伸ばそうとするんだ」



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