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【第一晶 ~新たなる旅立ち~】
13 迷夢3
しおりを挟む「違う、私は見ている」
展開した自身の魔法を思う。
天鏡図で世界を俯瞰して見た時、確かに、北の大陸に災禍の顕主の反応があった。
ーー倒せていなかっただけだろう?
現状からそう、答え等出ていた。
思考は疾うに到達していて、けれど私は認められなかった。そんな筈はないのだと、あの戦いの後、私は目を覚ましてすぐに確認をして、そして確かに、災禍の顕主の反応が消失しているのを見ていたのだから。
ーーでも約束は破られた
そうだ、勇者達は誰一人欠ける事なく使命の旅をやり遂げた。
「え?」
推定と否定。反論と事実の繋ぎ合わせ。そうして私は、その疑問を直視せざるを得なくなった。
ー交わされた約束は守られなかった。そなたはその事を知っておるー
「守られる事のない約束に意味はない。あの時の私の存在はあの時に意味を失った」
ー過去において、未来について、そして今なお北の大地は死に続けておるよー
自分で自分へと投げ掛けている言葉ではなく、自身の意思ともまた異なる“聲”が囁いていた。
「ファティマ、視せて」
私はその“聲”へと望んだ。
ーそれは、世界の有り様を見通す私にも無理なこと。この先を望むのなら、自らの足で赴くが良い銀礫よー
「そこを何とか、非時の魔女たる貴方なら頑張れるだろう?」
すげなく断りが入るが、私もまたここで引き下がるつもりはない。
何せ、答えが目と鼻の先の関係なのだ、今いる朔の森からでは、順調な行程を経ても北の大陸に入るだけで半年以上かかる上に、それ以上にこの北の大陸を踏破するにはそれこそ命懸けとなる。
欲する答えが少しでも容易く手に入るなら、その方が良いではないかと、私も懸命になった。
ーそなたぐらいよ、私にそんな物言いをするのはー
呆れたような響きをもつ“聲”は、それでも何処か可笑しそうに笑みの揺らぎに移ろいでいた。
「私は昔からこうだ、気にしてくれるな」
ーだが、願われようとも見せられはしない。災禍の存在は理の深域にあたる、私でも容易くはないー
「容易くはないなら無理ではないな?」
ー食い下がるでないー
拒絶と言うよりも幼子を窘めるよなそんな響きを感じていた。
呆れられようとも、これは手間を惜しみたくなる案件なのだ。その手間に意味があるのなら仕方がない。
仕方がないが、それでも気にしていなければいけない案件に、必要以上の手間をかけたくない。
だが、同時に手段を持っている筈の非時の魔女たるファティマに断られてしまえばどうしようもない事も理解していた。
「知れる答えがそこにあるのにな・・・使えない」
思わず嘆息混じりに呟いた瞬間、空気が凍てついた。
びくりと私を乗せているジルの体躯が震えた様な気もして、けれど私には理由が分からなかった。
ーそなた、大概不遜よのー
冷たく感情の揺れに欠けた“聲”だった。
何かに触れたのだと察する。
「何がだ?私には貴方を使う能力がない、どうしようもないだろ」
察するが、私にとっては至極当たり前の事で、だからこそ不思議そうに首を傾げてしまった。
ーそなた・・・ー
一転して絶句している様子を感じて、私は困惑を表情にしてしまう。
ー・・・正し過ぎる、言葉遣いかー
「んん?」
ー使えない奴だと貶されたと思ったのよー
「いや使えないって、ファティマにはその能力があるだろ?」
ーそこよ、世の中の普通は、自らの力不足を噛み締める言葉として使うのではなく、自分の思い通りにならないと罵る為に遣うのだー
「んんん?」
本気で意味が分からなかった。能力のある者がそこにいて、その能力を十全に発揮して貰うその気にさせる事が出来ないのなら、それはこちらの力不足でしかないだろうと、そう思うのだ。
ーそなたは、相変わらずよの。出来ぬ理由を他者へ求めぬのは好ましいー
「褒められている、でいいのか」
ーそこは素直に受け取るが良い、っぅお?ー
楽しげに喉の奥でくつくつ笑うファティマの“聲”。
そこからの戦く様な奇妙な響きに、思わず私は落胆の表情になってしまった。
ー相変わらずか、相変わらずそなたは抜け目がないー
焦りを取り繕い、怒ったような響きだった。その言葉に私はうっすらと笑む。
「長く接点を取ってくれているようだから、こちらから辿ってみたんだが、無理だったな」
ー隠遁してようと、そこまで耄碌しておらぬー
まったく、と言わんばかりに溜め息をつかれてしまった。
姿はないままだが“聲”を響かせると言う接触はあるのだ、だから辿る事が出来ると思った。
幸いここには非時の魔女の繋がりであるジルがいる。その繋がりを辿る事で、糸口は掴めるものと、会話を続ける間にずっと探り続けていたのだ。
そして、失敗した。
ー分からぬように、ピンポイントで“意思”を送るのでなく、わざわざ夢へと“聲”を反響させたと言うにー
「確かに、掴み辛かったが。存外ファティマが近くにいるようで助かった」
ーそなた、ー
「だいたいの距離と方向だけだ。それにファティマが嫌がるならいかないさ」
はっとするファティマへ、それだけしか分からなかったと、事もなく私は告げる。
掴みきれなかったが、現状としては、分かったものだけでも十分だった。
だが、あくまでも、場所の特定は会えるとなった時の手段の円滑化を目指しただけで、前提条件として向こうにその気がないのなら私は求めないとも伝えておいた。
分かり難くした“聲”だけで直接姿を見せない、その理由は分からないが、そうしたのなら、そうする理由があるのだろうと、それだけを思ったから。
ー・・・そなたのその性こそが、ここまで物事を拗らせたのかもしれぬなー
そんな“聲”をぽつりと溢すファティマに私は目を瞬かせる事しか出来なかった。
ー慣れねば振り回されはするが、私には好ましくもある、けれど、どうにもそればかりと言えぬのが難儀なところよー
「ファティマ?」
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