8 / 214
【第一晶 ~新たなる旅立ち~】
2 緑の賢者
しおりを挟む何をしたのか、か・・・
魔物等の王との最終決戦に赴き、だが、私はその本当の結末を知らない。
事後報告として、討伐に成功した事は聞いたのだが、その瞬間を私は見ていないのだ。
あの瞬間の攻撃を回避出来ず、重傷の末に意識を失い、次に気が付いた時には一応の安全地帯にまで退避が完了していた。
「説明出来ないからって寝ない!銀礫である貴方が動いた、相応の理由があったんだよね?」
絶対に面倒な案件だと戦略的撤退とばかりに目を閉じようとしていたら、気付かれたうえに怒られてしまった。
「はぁ、言いたくないと思うなら聞かないから、大丈夫なところだけ話して」
「言いたくないとかじゃなくて、そもそも私は知らない。結局のところ、利用されるだけされて、使えなくなったから、別れた。それが私の結末」
「どちらが?」
「?」
何の溜め息なのか、溜め息をつきたいのは寧ろ私のほうなのではないか?とそんな事を思いながらも、仕方なしに、もう一度体を起こしながら答えると、端的で意味を計りかねる質問が入り、思わず真顔になってしまった。
「目を覚まして間もない、まして本調子から程遠い子にそう質問ばかり重ねていてはいけない」
気配はなかった。目を覚ました時には既にそこにいたフェイとは異なり、近づいて来ると言う行程がある筈なのに、そう言った一切を省きその声は私達のもとへと届けられた。
不意に気付くその存在に、広い平原のなかに佇み、様々な草花を眺める。そしてふと目を向けた先に自然と何時か見た薬草の存在に気付く事がある。そんな既視感を思った。
歩み寄ってくる姿に、やはり当然のように草を踏む等地面を歩く足音と言うものはなく、けれど確かにこちらへと歩みを進めながらもそこにいた。
「カイ?」
「緑の賢者」
私とフェイで、同一の存在を示す異なる名前を同時に呟く。
それは、常緑の穏やかな瞳をした真っ白な毛並みの牡鹿だった。
牡鹿の持つ色合いと纏う雰囲気から、その大きな体躯は勇壮さより、優美さを思わせ、あまりに自然体で佇む姿には幻想的な神々しさすらある、そんな存在が静かに佇んでいた。
「お帰り、私の養い子」
言葉と共に、その牡鹿の姿が、月の光が揺らめくように淡く輝き、そして、牡鹿がいたその場所に、今は一人の青年が佇んでいた。
広げられる腕に、纏った一枚布からなるかのような白い衣が招くように揺れる。
立ち上がる私は、もたつく手足すらももどかしく、その腕の中へと飛び込んで行った。
「ただいま、兄さん」
浮かべる久しぶりの笑顔で顔を上げると、歓迎する柔らかな笑みが迎えてくれた。
青銀の繊細な光を放つ私と同じ髪色の青年。私の養い親で、私の兄でもある、牡鹿の姿を取りながら青年としての姿も持つ、私がカイと名前を呼ぶその存在が彼だった。
「兄さんがいるなら、ここは、朔の森?」
「気付いてなかったのか?」
朔の森はカイが守護する、南大陸の西端、それも山間の秘境中の秘境といった場所にあった。
気付くも何も、予想外だったのだ。ここではない場所とそんな曖昧な条件で願った場所として、帰る筈のなかった養い親のもとにいる等、本当に思いもよらない事だった。
「限界で、考えている余裕はなかった」
「ああ、それは翡翼の魔女、フェンの配慮だと思う」
「お節介か」
口を挟むフェイへと反射的に言ってしまい、その瞬間、窘めるように頭の上へとカイの手が下ろされ、全く痛くはないが、私は咄嗟に目を閉じてしまった。
「絶対にぎりぎりになっているであろう貴方の安全を考慮して、私が追えるであろうぎりぎりを配慮した、そんな感じだろうね」
「手の平の上か」
「こーろころだろうね、貴方も私も」
可笑しそうに笑うフェイの顔と、魔法道具を受け取った時のフェンの顔が重なる。
二人で一対と言っていた。なまじ同じ顔をしているだけに、同一人物にしか見えなくなってくるのだ。
「養い子が唐突に私の領域に入ったのは分かっていた。だが、会いに行く事が出来なかった」
「災禍の顕主との戦いで澱みを纏って、かなり障りがあっただろうし。ごめんなさい、そんな状態でカイの領域に入って」
「違う、そうじゃない」
「え?」
聞いた否定の言葉へ目を瞬かせてカイを見ると、優しげな顔を複雑そうに歪めて首を横へと振っている様子が目に入った。
「眠る貴方が全てを拒絶していたから、だから貴方が目を覚ました今日まで、私も緑の賢者ですらもそばに行く事が出来なかった」
「私の拒絶」
呟いてみるが、そうして考えてみても私自身に何かを拒んでいると言うその自覚はなかった。
「銀礫は鈍い」
「は?」
貶されたのかと思いフェイを見るが、その表情は何処か諦めを含んだものだった。
「・・・星降りの花を試して欲しいと言われた意味が分かったような気がします」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説


王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。


五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。


[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる