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40 精霊界
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「で、なんで精霊界なの?!」
エヴァン王国の結界を抜けて、どこにだって行ける。
それなのに、ルリが私を転移させたのは、精霊界だった。
100年の間、ずっと囚われていた小さな部屋の中。
「ルリ! どこに行ったのよ。説明して!」
冗談じゃない。せっかく自由になれたのに、なんでまたここに戻ってくるの?
部屋の中は、出て行った時と変わらない。大きなベッドとクローゼット。小さなテーブルに一つだけの椅子。
出て行った時のまま、やりかけの刺繍が置いてある。そして、棚からあふれる本。
金色の卵だけがない。
「たまごちゃん。もしかしてエヴァン王国に来てないよね」
私はもう、あそこに帰るつもりはないのに。
外から鍵を掛けられている扉を恨めし気に見ていると、後ろから声が聞こえた。
「フェリシティ! やっと会えた」
この声は……?
アスラン様? 夢で聞いていた大好きな声。
私は今、夢を見ているの?
ドキドキしながら振り向いた先には、アスラン様とは似ても似つかない人がいた。
ううん、人じゃない。
金色の髪に、金色の瞳。そして背中には、大きな金色の翼。
神々しい美しさを持つ。彼は、
「精霊王?」
カルミラに一目ぼれして、彼女を伴侶に選んで、そして死んだ精霊王に少しだけ似ている。
顔立ちは違うけど、金色の光は同じだ。
でも、あの精霊王は青年の姿をしていたのに、今、目の前にいるのは、10代前半ぐらいの少年だった。
ああ、たまごが孵ったのね。
新しい精霊王が誕生したんだ。
「フェリシティ。約束だよ。さあ、僕と結婚して!」
キラキラした美貌の少年は、意味不明なことを言った。
「は?」
なにそれ? 約束って?
先の精霊王は、カルミラと結婚の約束をしたけど、そのせいで死んだ。
そんな恐ろしい性質の精霊となんか、結婚するわけない。
「ずっと一緒だって約束したよね。いっぱいキスだってしたよ。僕のことを愛してるって言ってくれたじゃないか」
「そんなこと言ってませんけど」
私が愛しているのは、今も昔もずっとアスラン様一人だけよ。
「言ったよ! 生まれ変わっても、ずっと一緒だって誓ったよ! なんでそんな意地悪言うのさ」
生まれ変わっても一緒?
精霊の愛が重いのは知ってるけど、そんなこというわけない。
私が生まれ変わっても一緒にいたいのは、
「……アスラン様?」
「そうだよ! 僕のここには、アスランの魂があるんだ!」
美少年は自分の胸を指さした。
「アスランの魂は、フェリシティへの愛であふれてたんだよ。僕は、それを取り込んで生まれて来たんだ。だから、僕は君の運命の相手だよ!」
精霊王の中に、アスラン様の魂があるの?
どういうこと?
「アスランは、精霊王の石像の前で、焼身自殺したんだ。君の所に行きたい願って。だから、アスランの魂は、卵の中に入って、僕と融合した。僕は、精霊王で、そして、君のアスランだよ!」
めちゃくちゃな話だ。アスラン様は、精霊王の中にいるというの?
すぐには信じられない。
でも……。
夢の中で彼は……。
「アスランは、卵の中でずっと君といられて幸せだったんだよ。まあ、アスランは僕でもあるんだけど、僕の一部はアスランでできていて、それでいて、僕は精霊王で、で、たまごちゃんなんて呼ばれて、君のぬくもりを感じていて。とにかく、僕は君が大好きなんだ。だから、僕と結婚して!」
金髪の美少年は、ぐいぐいと私にせまってくる。
ちょっと、待って。
頭が働かない。
精霊王がアスラン様?
だって、全然ちがう。
大好きだった青銀の髪も、紺碧の瞳もない。
それに、アスラン様は、こんな子供みたいなこと言わない。子供じゃないから。
「さあ、早く。結婚して番になろう!」
私に抱きつこうとする精霊王から逃げて、助けを呼んだ。
「ルリ!」
青い鳥が現れる。口には何か緑色のものをくわえていた。
「なんだよ。鳥精霊。邪魔をするな」
美少年は乱入者に顔をしかめた。
「ぴぃ」
ルリは、くちばしに挟んでいた緑の生き物を放り投げてから、小さく鳴いた。
ひっくり返って、バタバタと短い足を動かしているのは、小さなミドリガメだった。
「ああ、つかまえてきたのか」
「王さま~」
青い鳥は、少年の姿になり、精霊王の前にひざまずいた。
「今まで、フェリシティの護衛ご苦労だった。今後は僕が守るから、おまえは好きなだけ魔物を食べに行っていいよ」
「はーい。カメも食べていい?」
「それは食うな。同族を食べたら腹を壊すぞ。適当に遊んでから放り出せ」
「りょうかーい」
ルリは再び鳥の姿になって、逃げる亀を追いかけた。そして、くちばしでつついてひっくり返す。
ちょっと、今そんな場合じゃないけど、亀をいじめるのは、やめてあげて。弱いものいじめは、かわいそうよ。
「あれは宰相だよ」
「え?」
ルリに声を掛けようとしたら、金髪美少年にとめられた。
「フェリシティを僕から引き離すという大罪を犯したからね。力を取り上げて、元の姿に戻してやったよ」
「精霊宰相なの? 元の姿って……」
亀なの? それもすごくちっちゃい。あの冷たい美貌の宰相は、ミドリガメの精霊だったの?
「長生きして力をつけただけの精霊だ。今まで、精霊界を好き勝手に牛耳っていた。先の精霊王も、彼の教育のせいで、世間知らずに育ったから、あんなふうに死んだんだ」
うん。先の精霊王は、カルミラの演技にあっさりと騙されるほど純粋だった。
「僕は違うよ。アスランの魂が、人間の知識を持っていたからね。人族の狡猾さをしっかり学んだよ。だから、僕の敵になりそうな精霊は、全部、さっくり始末しといたよ」
金色の精霊王は、キラキラした金色の瞳で私を見た。
「さあ、結婚しよう!」
うっ……。
本当に、アスラン様なの?
姿も、口調も、考えも、何もかも違うけど、これはアスラン様といえるの?
「もう、仕方ないなぁ。ほら、これでどう?」
金色の美少年は姿を変えた。
私の大好きだった青銀の髪の青年に。
ひざまずいて、深い湖のような紺碧の瞳で私を見つめるのは。
「! アスラン様!」
「僕と結婚してくれるね。フェリシティ」
「はい!」
思わず返事してしまった。
だって、いつも夢で見ていた大好きなアスラン様だもの。
「うん。よかった。これで君は精霊王の花嫁だ。ずーっと一緒だよ」
こうして、私は精霊王の伴侶となり、幸せに暮らしました。
って、これでいいの?!
エヴァン王国の結界を抜けて、どこにだって行ける。
それなのに、ルリが私を転移させたのは、精霊界だった。
100年の間、ずっと囚われていた小さな部屋の中。
「ルリ! どこに行ったのよ。説明して!」
冗談じゃない。せっかく自由になれたのに、なんでまたここに戻ってくるの?
部屋の中は、出て行った時と変わらない。大きなベッドとクローゼット。小さなテーブルに一つだけの椅子。
出て行った時のまま、やりかけの刺繍が置いてある。そして、棚からあふれる本。
金色の卵だけがない。
「たまごちゃん。もしかしてエヴァン王国に来てないよね」
私はもう、あそこに帰るつもりはないのに。
外から鍵を掛けられている扉を恨めし気に見ていると、後ろから声が聞こえた。
「フェリシティ! やっと会えた」
この声は……?
アスラン様? 夢で聞いていた大好きな声。
私は今、夢を見ているの?
ドキドキしながら振り向いた先には、アスラン様とは似ても似つかない人がいた。
ううん、人じゃない。
金色の髪に、金色の瞳。そして背中には、大きな金色の翼。
神々しい美しさを持つ。彼は、
「精霊王?」
カルミラに一目ぼれして、彼女を伴侶に選んで、そして死んだ精霊王に少しだけ似ている。
顔立ちは違うけど、金色の光は同じだ。
でも、あの精霊王は青年の姿をしていたのに、今、目の前にいるのは、10代前半ぐらいの少年だった。
ああ、たまごが孵ったのね。
新しい精霊王が誕生したんだ。
「フェリシティ。約束だよ。さあ、僕と結婚して!」
キラキラした美貌の少年は、意味不明なことを言った。
「は?」
なにそれ? 約束って?
先の精霊王は、カルミラと結婚の約束をしたけど、そのせいで死んだ。
そんな恐ろしい性質の精霊となんか、結婚するわけない。
「ずっと一緒だって約束したよね。いっぱいキスだってしたよ。僕のことを愛してるって言ってくれたじゃないか」
「そんなこと言ってませんけど」
私が愛しているのは、今も昔もずっとアスラン様一人だけよ。
「言ったよ! 生まれ変わっても、ずっと一緒だって誓ったよ! なんでそんな意地悪言うのさ」
生まれ変わっても一緒?
精霊の愛が重いのは知ってるけど、そんなこというわけない。
私が生まれ変わっても一緒にいたいのは、
「……アスラン様?」
「そうだよ! 僕のここには、アスランの魂があるんだ!」
美少年は自分の胸を指さした。
「アスランの魂は、フェリシティへの愛であふれてたんだよ。僕は、それを取り込んで生まれて来たんだ。だから、僕は君の運命の相手だよ!」
精霊王の中に、アスラン様の魂があるの?
どういうこと?
「アスランは、精霊王の石像の前で、焼身自殺したんだ。君の所に行きたい願って。だから、アスランの魂は、卵の中に入って、僕と融合した。僕は、精霊王で、そして、君のアスランだよ!」
めちゃくちゃな話だ。アスラン様は、精霊王の中にいるというの?
すぐには信じられない。
でも……。
夢の中で彼は……。
「アスランは、卵の中でずっと君といられて幸せだったんだよ。まあ、アスランは僕でもあるんだけど、僕の一部はアスランでできていて、それでいて、僕は精霊王で、で、たまごちゃんなんて呼ばれて、君のぬくもりを感じていて。とにかく、僕は君が大好きなんだ。だから、僕と結婚して!」
金髪の美少年は、ぐいぐいと私にせまってくる。
ちょっと、待って。
頭が働かない。
精霊王がアスラン様?
だって、全然ちがう。
大好きだった青銀の髪も、紺碧の瞳もない。
それに、アスラン様は、こんな子供みたいなこと言わない。子供じゃないから。
「さあ、早く。結婚して番になろう!」
私に抱きつこうとする精霊王から逃げて、助けを呼んだ。
「ルリ!」
青い鳥が現れる。口には何か緑色のものをくわえていた。
「なんだよ。鳥精霊。邪魔をするな」
美少年は乱入者に顔をしかめた。
「ぴぃ」
ルリは、くちばしに挟んでいた緑の生き物を放り投げてから、小さく鳴いた。
ひっくり返って、バタバタと短い足を動かしているのは、小さなミドリガメだった。
「ああ、つかまえてきたのか」
「王さま~」
青い鳥は、少年の姿になり、精霊王の前にひざまずいた。
「今まで、フェリシティの護衛ご苦労だった。今後は僕が守るから、おまえは好きなだけ魔物を食べに行っていいよ」
「はーい。カメも食べていい?」
「それは食うな。同族を食べたら腹を壊すぞ。適当に遊んでから放り出せ」
「りょうかーい」
ルリは再び鳥の姿になって、逃げる亀を追いかけた。そして、くちばしでつついてひっくり返す。
ちょっと、今そんな場合じゃないけど、亀をいじめるのは、やめてあげて。弱いものいじめは、かわいそうよ。
「あれは宰相だよ」
「え?」
ルリに声を掛けようとしたら、金髪美少年にとめられた。
「フェリシティを僕から引き離すという大罪を犯したからね。力を取り上げて、元の姿に戻してやったよ」
「精霊宰相なの? 元の姿って……」
亀なの? それもすごくちっちゃい。あの冷たい美貌の宰相は、ミドリガメの精霊だったの?
「長生きして力をつけただけの精霊だ。今まで、精霊界を好き勝手に牛耳っていた。先の精霊王も、彼の教育のせいで、世間知らずに育ったから、あんなふうに死んだんだ」
うん。先の精霊王は、カルミラの演技にあっさりと騙されるほど純粋だった。
「僕は違うよ。アスランの魂が、人間の知識を持っていたからね。人族の狡猾さをしっかり学んだよ。だから、僕の敵になりそうな精霊は、全部、さっくり始末しといたよ」
金色の精霊王は、キラキラした金色の瞳で私を見た。
「さあ、結婚しよう!」
うっ……。
本当に、アスラン様なの?
姿も、口調も、考えも、何もかも違うけど、これはアスラン様といえるの?
「もう、仕方ないなぁ。ほら、これでどう?」
金色の美少年は姿を変えた。
私の大好きだった青銀の髪の青年に。
ひざまずいて、深い湖のような紺碧の瞳で私を見つめるのは。
「! アスラン様!」
「僕と結婚してくれるね。フェリシティ」
「はい!」
思わず返事してしまった。
だって、いつも夢で見ていた大好きなアスラン様だもの。
「うん。よかった。これで君は精霊王の花嫁だ。ずーっと一緒だよ」
こうして、私は精霊王の伴侶となり、幸せに暮らしました。
って、これでいいの?!
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