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第2部 魔法学校編

53 魔力検査

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 魔法学校の1年の1学期は、ほぼ辺境で過ごした。
 2学期が始まり、ようやく魔法の杖が授けられる。午後からの魔法の授業に出るため、私は久しぶりに学校に来た。

「二人とも久しぶり! 元気だった?」

 魔法学校の昼休み、授業が始まる前にルビアナちゃんとアニータちゃんと一緒にランチを食べることにした。彼女たちとは貴族学園卒園後も手紙で連絡を取り合っている。こうして直に会って話をするのは久しぶりだ。

「レティシアちゃん! ずっと学校に来なかったでしょう。授業免除ってどうして?」

「辺境で何をしてましたの?」

 公爵家の特権で、食堂の個室を借りて3人で集まった。ここでは、身分の上下はなく話ができる。早速、質問攻めにあった。

「1学期の授業は、進級テストに受かったから免除されたの。辺境へは修行に行ってたの」

 私はお茶を一口飲んで、質問に答えた。

「修行? オスカー様と婚約の話じゃないの?」

 アニータちゃんの言葉に、お茶を噴き出しそうになった。

「ごほ、ん、んん。何で? オスカー様とはそんなんじゃないし、本当に修行してただけだから」

「でも、いつもふたりでいるんでしょう? オスカー様はレティシアちゃんを騎士のように守ってるって噂ですわよ。まるでお芝居の『紫の姫と黒の騎士』みたいだって」

 ルビアナちゃんが含みを持たせたように笑って言うと、アニータちゃんも面白そうに笑った。

「その芝居、見に行ったよ! 帝国で流行してて、最近になってうちの国でも上演されたんだよね。紫の髪の姫を慕う黒髪の騎士が、姫を手に入れようと悪事をたくらむ水色の髪の王子をやっつけるんだよね」

「そうそう、それがまるでオスカー様とレティシアちゃんのようだって話でね」

 紫の姫、黒髪の騎士、水色の王子。その色合いって王家が怒りそうな芝居だな。本当に流行ってるの?

「帝国の皇太子妃様がこの芝居を作らせたんですって」

「へぇー。皇太子妃様の作品なの? 芸術に関心がある方なのね」

 帝国の皇太子妃が、我が国の王家に喧嘩売ってる? なんで? たしか帝国は内乱があって、少し前に皇太子が変わったって言ってた。そんな時に、わざわざ鎖国のうちの国を挑発する? 

 Sランク冒険者の父様は、依頼を受けて、この数年間ずっと帝国に行っている。なにか知っているのかな?

 半年間、辺境にこもっていたから、自国の王都の話題にさえついていけない。二人に最近の動向を教えてもらった。

「最近の話題って言ったら、ベアトリス様が婚約者候補を辞退したって噂」

「え?!」

「ああ、それ、私も聞きましたわ。王太子様がフラれたって。レティシアちゃんは知らなかったんですの?」

「はじめて聞いた! どうして? 二人は両思いだったんじゃないの?」

「両想いっていうか……。王太子様はベアトリス様に夢中でしたけど、ベアトリス様の方は適度な距離を取ってましたから。政略って割り切ってたみたいでしたわよ」

「え? そうなの?」

「もう、レティシアちゃんはそういうの鈍いですわよね。そうそう、ベアトリス様にフラれた王太子様を、スカラ様が慰めたって話ですわ。それ以来、二人はどこでもべったりくっついてるって」

「あ、それ、見た! 授業サボって中庭のベンチでイチャイチャしてるところ」

 えええ? 王太子はあんなにベアトリス様を好きだったのに、フラれたショックでスカラに行っちゃったの? うわ、ひどいな。
 
「で、レティシアちゃんはどうするの? このまま王太子様の婚約者候補でいいの? それともオスカー様に奪ってもらう?」

「すてき! まるでお芝居の、紫の姫と黒の騎士そのものですわ!」

 いやいやいや、もう、やめて。このまま、辺境に帰りたくなってきた。午後からの授業に教室に行くの、嫌だよう。

 全然わからないよ。ベアトリス様が王太子と結婚するって思ってたのに。ん、待って? 婚約者候補がこれで2人だけになってしまったってこと? 残るのはスカラと私? やめてよ!




 先生が来る時間ギリギリに教室に入った。注目の的だ。先に着席していたオスカー様が、片手をあげて挨拶してくれた。前の席からにらみつけるスカラと王太子が口を開きそうになった時に、先生が入ってきた。

「今日から魔術実践を行います。まずは、もう一度、魔力測定を行いましょう。貴族学園では細かい属性は分かりませんでしたし、また、成長するにつれて魔力が増加していることもあるかもしれません」

 先生の指示に従い、王太子から順に魔道具に手をのせる。

「これは……。ん、ん。水属性です。それと、少し風属性があります……魔力は、……小」

 先生は王太子だけに聞こえるような小声でささやいた。でも、私はすぐ後ろに並んでいたので、聞こえてしまった。王太子は私を振り返り、ぎろっと薄い水色の瞳でにらんだ。まるで、私を殺さんばかりの勢いで。
 王太子はそのまま席には戻らず、黙って教室を出て行った。彼が授業をサボるのはいつものことらしくて、誰も止める者はいない。

「えー。次は、ゴールドウィン公爵令嬢、ここに手を置いて」

 卒園式の時にもやった魔力測定だけど、修行して魔力が増えたかも。

「! さすがです。針がふりきれています。全属性です。! いや、これではまるで……」

「先生」

 口の前に人差し指を立てて、にっこり微笑んだ。彼は宰相の叔父の息がかかっている。だから、その先は口に出さないでほしい。

 私の結果をのぞき見したのか、後ろに並んでいるベアトリス様が小さく息をのむ音がした。見えてしまった? 全属性に加えて聖の魔力まで特大を示している。それじゃまるで、聖女リシアみたいだって言いたいよね。

「ああ、ええと、じゃあ、次の生徒を」

 先生に促されて、ベアトリス様と交代した。
 入れ替わるときに、こっちをまじまじと見る綺麗な青い瞳に微笑みで返した。ベアトリス様は私に軽く頭を下げた。

「ああ、えー、シルバスター公爵令嬢は、風属性が特大で雷属性と水属性が大、地属性が小。すばらしいです!」

 先生の評価を聞きながら、自分の席に戻る。

「ブラーク辺境伯令息は、全属性があり、闇属性と火属性が特大、その他も全て大!」

 うん、オスカー様も修行の成果が出たね。修行者のダンジョンで訓練すると、魔力も増えるって言われてたけど、本当にそのとおりだった。

 その後、全員の測定が終わり、私達は杖を手に入れた。
 この杖があれば、魔法が使える。使い方はすでに予習している。私はオスカー様に視線で合図し、進級テストを受ける準備をすることにした。

 公爵令嬢なのに、聖属性まで持つ私が何を意味するのか。
 もしかして、ベアトリス様には気が付かれてしまったのかもしれない。
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