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第2部 魔法学校編
50 告白とごまかし
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8年前、公爵家の養女になったばかりの頃の私は、あせっていた。
早くリョウ君の復讐をしなきゃ。早く勇者の遺産を見つけなきゃ。
でも、子供の私には何もできない。何をしていいのかも分からない。
自分を囮にして犯人をおびき出そう!
短絡的な考えしか、私には思いつかなかった。賢くないから。
それで、私は夜中に公爵家を抜け出し、1人で路地裏に行くことにした。小説とかでよくあるじゃない? 主人公が1人で歩いていると誘拐されるシーン。で、犯人が出てきて、動機を語るの。私はそれをマネしてみた。危険があるのは分かってたけど、もう、そんなこと考えられないくらい、焦ってた。いざとなったら、ルシルが助けてくれるんじゃない? って甘い考えで。
結果、広大な公爵家の敷地を出る前に、捕まってしまった。……私の護衛騎士に。
公爵家の騎士はたいへん優秀だった。あるいは、私が無能すぎるのか。6歳児にできることには限度がある。
伯父様と父様に、ものすごく怒られた。
「犯人探しは大人に任せなさい。必ず、探し出して、罪を償わせる」
「そうだ。危険なことはやめてくれ。レティにまで何かあったらと思うと、胸が苦しくなる」
二人ががかりでお説教されて、外出禁止を言い渡された。犯人探しも、もちろん禁止。
でも、でも、そんなことしてる暇はないのに。犯人探しが無理なら、勇者の遺産は? そっちを先に探そう。
それで、私は父様を頼った。勇者の日本語メモの秘密を明かすのは、リョウ君との約束を破ることになるけれど、私1人では館の敷地から出ることさえもできないんだから。
「火山のカルデラ湖の浮島」について、心当たりを父様に聞いた。
「炎の山って言うのなら、うちの領地の山じゃないか? 勇者が魔王を倒す前、あの場所には炎系魔物が大量発生していた。まるで山が燃えているように見えたと歴史書にある」
! うわぁ、まさかの、うちの領地? たしか、人が入れないような険しい山脈だったよね。雪山がたくさんあるだけの、住民0人収入0円の領地。
父様は、さっそくその場所へ向かった。
数カ月後、探索し終えた父様から連絡が入った。山の頂上に円形の湖を見つけた。その真ん中に浮島があったって。
でも、残念ながら、そこにダンジョンはなかった。ただ小さな宝箱が置かれていて、その中に勇者の書が入っていた。
勇者の書には、光の精霊王についての新事実が書かれていて、その下に小さくカタカナの表記があった。
「シュギョウシャノ ダンジョン サイジョウカイノ ケッカイ トケバ アラワレル」
……修行者のダンジョン、最上階の結界解けば現れる……
だから、私は辺境へ行って、修行者のダンジョンに挑戦した。修行者のダンジョン攻略が、わたしの目標になった。
婚約者候補になる条件として、王家は全てのダンジョンへの立ち入りを許可してくれたけど、この辺境のダンジョンだけは別だった。
ここは他のダンジョンとは違って、特殊な場所で、入るには辺境伯の許可がいる。その許可を取るために、私は自分の秘密を話すしかなかった。
出生の秘密、精霊王のこと、それから、リョウ君のこと。
オスカー様は私の事情を全て知ったうえで、私に付き合ってくれている。ずっと。
◇◇◇◇◇
魔法学校の新入生歓迎パーティ会場からの帰りの馬車で、オスカー様は私の頭に手を伸ばした。髪をさらりと撫でた後、後ろ髪をまとめた魔石のついた髪飾りを外した。
「レティ、これは?」
ああ、隠してたわけじゃないけど。
「聖の魔力を魔石に入れてみたの。そしたら、聖の魔石が作れちゃった。すごく、時間はかかったんだけどね。ほら、これがあれば、犯人を挑発しても安全かなって」
「また、君は……。聖の魔力があることが王家や神殿に知られると厄介なことになる。危険なことは、もうしないでほしい」
オスカー様の言葉に素直にうなずけない。だって、危険があっても、やめることはできないよ。リョウ君の復讐は、絶対しなきゃいけないよね。私のかわりに、リョウ君が殺されてしまったんだから。
私が黙っていると、オスカー様は真剣な顔を見せた。
「レティ。もう、やめよう。君が復讐のために危険に巻き込まれるのは、彼は望まないと思う」
そんなこと言われても。だって……。
「君が、婚約者候補だから狙われるんだったら、候補をやめられるように、辺境伯爵家からも王に願おう。それで、君が婚約者候補を辞退できたら、俺は君と、……辺境で暮らしたい」
「!」
彼が何を言いたいのかは、分かってる。彼の気持ちは、その熱い視線から、ずっと感じていた。そうじゃなければ、こんなに、私に優しくしてくれない。でも、私は答えられない。その先を言わないで。
「そうよね、はやく辺境へ行って、修行者のダンジョンを攻略して、勇者の遺産を手に入れなきゃいけないものね。私、リョウ君のために、犯人探しは無理だったけど、遺産探しはがんばるね」
私は、わざと気付かないふりで、話題をすり替える。
「次は20階になるんだけど、辺境へ行ったら、すぐに始めるね」
優しいオスカー様は、私に話を合わせてくれる。
「レティに必要なのは体力と筋力かな」
「そうだよね。どんなにやっても、筋肉が付かないの。オスカー様がうらやましい」
「まあ、男の方が筋肉が付きやすいから」
馬車が家に着くまで、もう、真剣な話は出なかった。
ごめんなさい。
心の中で、オスカー様に謝る。
火山のカルデラ湖の浮島で、父様が発見した勇者の書。そこには、精霊王の契約者の本当の意味が記されていた。
早くリョウ君の復讐をしなきゃ。早く勇者の遺産を見つけなきゃ。
でも、子供の私には何もできない。何をしていいのかも分からない。
自分を囮にして犯人をおびき出そう!
短絡的な考えしか、私には思いつかなかった。賢くないから。
それで、私は夜中に公爵家を抜け出し、1人で路地裏に行くことにした。小説とかでよくあるじゃない? 主人公が1人で歩いていると誘拐されるシーン。で、犯人が出てきて、動機を語るの。私はそれをマネしてみた。危険があるのは分かってたけど、もう、そんなこと考えられないくらい、焦ってた。いざとなったら、ルシルが助けてくれるんじゃない? って甘い考えで。
結果、広大な公爵家の敷地を出る前に、捕まってしまった。……私の護衛騎士に。
公爵家の騎士はたいへん優秀だった。あるいは、私が無能すぎるのか。6歳児にできることには限度がある。
伯父様と父様に、ものすごく怒られた。
「犯人探しは大人に任せなさい。必ず、探し出して、罪を償わせる」
「そうだ。危険なことはやめてくれ。レティにまで何かあったらと思うと、胸が苦しくなる」
二人ががかりでお説教されて、外出禁止を言い渡された。犯人探しも、もちろん禁止。
でも、でも、そんなことしてる暇はないのに。犯人探しが無理なら、勇者の遺産は? そっちを先に探そう。
それで、私は父様を頼った。勇者の日本語メモの秘密を明かすのは、リョウ君との約束を破ることになるけれど、私1人では館の敷地から出ることさえもできないんだから。
「火山のカルデラ湖の浮島」について、心当たりを父様に聞いた。
「炎の山って言うのなら、うちの領地の山じゃないか? 勇者が魔王を倒す前、あの場所には炎系魔物が大量発生していた。まるで山が燃えているように見えたと歴史書にある」
! うわぁ、まさかの、うちの領地? たしか、人が入れないような険しい山脈だったよね。雪山がたくさんあるだけの、住民0人収入0円の領地。
父様は、さっそくその場所へ向かった。
数カ月後、探索し終えた父様から連絡が入った。山の頂上に円形の湖を見つけた。その真ん中に浮島があったって。
でも、残念ながら、そこにダンジョンはなかった。ただ小さな宝箱が置かれていて、その中に勇者の書が入っていた。
勇者の書には、光の精霊王についての新事実が書かれていて、その下に小さくカタカナの表記があった。
「シュギョウシャノ ダンジョン サイジョウカイノ ケッカイ トケバ アラワレル」
……修行者のダンジョン、最上階の結界解けば現れる……
だから、私は辺境へ行って、修行者のダンジョンに挑戦した。修行者のダンジョン攻略が、わたしの目標になった。
婚約者候補になる条件として、王家は全てのダンジョンへの立ち入りを許可してくれたけど、この辺境のダンジョンだけは別だった。
ここは他のダンジョンとは違って、特殊な場所で、入るには辺境伯の許可がいる。その許可を取るために、私は自分の秘密を話すしかなかった。
出生の秘密、精霊王のこと、それから、リョウ君のこと。
オスカー様は私の事情を全て知ったうえで、私に付き合ってくれている。ずっと。
◇◇◇◇◇
魔法学校の新入生歓迎パーティ会場からの帰りの馬車で、オスカー様は私の頭に手を伸ばした。髪をさらりと撫でた後、後ろ髪をまとめた魔石のついた髪飾りを外した。
「レティ、これは?」
ああ、隠してたわけじゃないけど。
「聖の魔力を魔石に入れてみたの。そしたら、聖の魔石が作れちゃった。すごく、時間はかかったんだけどね。ほら、これがあれば、犯人を挑発しても安全かなって」
「また、君は……。聖の魔力があることが王家や神殿に知られると厄介なことになる。危険なことは、もうしないでほしい」
オスカー様の言葉に素直にうなずけない。だって、危険があっても、やめることはできないよ。リョウ君の復讐は、絶対しなきゃいけないよね。私のかわりに、リョウ君が殺されてしまったんだから。
私が黙っていると、オスカー様は真剣な顔を見せた。
「レティ。もう、やめよう。君が復讐のために危険に巻き込まれるのは、彼は望まないと思う」
そんなこと言われても。だって……。
「君が、婚約者候補だから狙われるんだったら、候補をやめられるように、辺境伯爵家からも王に願おう。それで、君が婚約者候補を辞退できたら、俺は君と、……辺境で暮らしたい」
「!」
彼が何を言いたいのかは、分かってる。彼の気持ちは、その熱い視線から、ずっと感じていた。そうじゃなければ、こんなに、私に優しくしてくれない。でも、私は答えられない。その先を言わないで。
「そうよね、はやく辺境へ行って、修行者のダンジョンを攻略して、勇者の遺産を手に入れなきゃいけないものね。私、リョウ君のために、犯人探しは無理だったけど、遺産探しはがんばるね」
私は、わざと気付かないふりで、話題をすり替える。
「次は20階になるんだけど、辺境へ行ったら、すぐに始めるね」
優しいオスカー様は、私に話を合わせてくれる。
「レティに必要なのは体力と筋力かな」
「そうだよね。どんなにやっても、筋肉が付かないの。オスカー様がうらやましい」
「まあ、男の方が筋肉が付きやすいから」
馬車が家に着くまで、もう、真剣な話は出なかった。
ごめんなさい。
心の中で、オスカー様に謝る。
火山のカルデラ湖の浮島で、父様が発見した勇者の書。そこには、精霊王の契約者の本当の意味が記されていた。
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