上 下
22 / 70
第1部 貴族学園編

22 夏休み

しおりを挟む
 親切なオスカー様は、わざわざ馬車を手配してくれた。
 私は迎えに来てくれた騎士さんたちと一緒に、辺境伯領へ出発した。

 辺境伯領は遠いので、途中で転移門を通る。
 これも、勇者の発明だ。日本にはテレポートできる機械なんてなかったのに、こんなものを開発するなんて、勇者はどれだけ頭いいの? それとも私の死後、テレポート装置が開発された? 勇者は未来の日本人?

 母様が大金を払って手に入れた転移門の設計図を、リョウ君がかじりつくように見ていたけど、私は秒であきらめたよ。意味わかんない。理解できない。

 でも、とにかく、転移門をぬけたら、そこはブラーク辺境領だった。

「リョウ君! レティシアちゃん!」

 領主の館に着いたら、オスカー様が笑顔で迎えてくれた。隣には、黒い騎士服を着た背の高い女の人もいる。栗色の髪に焦げ茶の目。オスカー様のお母様かな? 

「お世話になります。ブラーク辺境伯夫人」

 リョウ君と一緒に挨拶した。

「ようこそ辺境へ。あなたたちの話はオスカーから毎日聞いているわ。この子ね、あなたたちが来るのをとっても楽しみにしてたのよ」

「ぼくたちもです! 来る途中に、馬車の中から不思議な生き物をたくさん見ました。角が生えたウサギとか、羽が生えた鹿とか。もう、すごく楽しいです」

「ああ、あれは魔物だよ。でも、近よらない限り攻撃してこないから安心して。って、全然怖がってないね」

「うん! ぼく、もっと近くでよく見たい」

 リョウ君は紫の目をキラキラ輝かせた。

「まあ、あなたたち、魔物に耐性があるのね! すばらしいわ。中央の貴族なんて、魔物酔いをするからって辺境領に入ることもできないのよ。あなたたち、素質があるわよ」

 魔物酔いって何だろう? っていうか、魔物ってこの国の結界があるから入ってこれないんじゃなかった?
 疑問が顔に出ていたのか、辺境伯夫人が応接室へ歩きながら教えてくれた。

「ここはね、結界の外側なのよ。でも、安心して、向こうにもう一つ結界があるの。魔物と戦う術を忘れることを危惧した先祖が、光の精霊王に頼んで、比較的弱い魔物だけを辺境領に入れるように調節してくれたのよ」

 夫人の話を聞きながら、きょろきょろと館内を見渡した。
 大きな剣や弓、斧やこん棒があちこちに置かれている。
 壁には重そうな鉄の盾が立てかけられていた。

「でも、残念ね。リョウ君は跡継ぎだから辺境に引き抜けないわね。運動会での大活躍をうちの騎士が絶賛していたのよ。でも、それなら、ねえ、レティシアちゃんがうちに嫁に来ない? 息子が3人いるの。どの子を選んでも大歓迎よ。後で紹介するわね」

 夫人がとんでもないことをおっしゃった。

「母上!」

 オスカー様は真っ赤になって抗議した。
 そうだよね。この年で結婚相手なんか決められたくないよね。
 それに、私は将来は平民の魔道具職人になるって決めてるんだから……。でも、私の成績でなれるかどうか、最近ちょっと不安。

「レティシアちゃん、リョウ君! 部屋に案内するよ。行こう」

 オスカー様に手を引っ張られた。
 まだお茶も飲んでないのに。
 夫人はにこにこしながら、引きずられていく私達に手を振った。


 騎士さんが馬車からおろしてくれた荷物を、辺境伯のメイドさんが片付けてくれていた。

「ふたりは一緒の部屋にしたんだ。知らない土地で心細いかと思って」

 大きなベッドが二つ並んだだけのシンプルな寝室に案内された。隣の部屋にはテーブルや椅子、衣装棚がどんっと置かれていた。装飾のない無駄を省いた部屋だ。

 ベッドの上に座った私は、ぱたぱたと走り回るリョウ君を見た。

「見て! 捕まえたよ。これ、何?」

 リョウ君は両手ですくった、小さくて青いぷよぷよしたものを見せて来た。

「あ、掃除スライムの子供だ。ごめん。また生まれてたんだね」

 焦ったようにオスカー様は、その小さいスライムをリョウ君の手から取った。

「大丈夫? 俺は魔力が高いから、少しぐらい吸われても何ともないけど、リョウ君は……うん、平気そうだね」

「うん? 平気だよ。そのスライムの赤ちゃんは魔力がご飯なの?」

「いや、ほこりや小さい虫の死骸を好んで食べるんだ。でも、子供のうちは魔力を吸収することもある。そっか、君たちは魔力が多いんだよね。少し吸われても、全然気にならないくらいに。母上がスカウトしたがるわけだね」

「ぼく、ここの家、気に入ったよ! 面白いものがいっぱいある! ねえ、他にも魔物はいるの?」

 興奮しているリョウ君を見て、オスカー様は私達に魔物牧場を案内してくれることになった。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

前世は大聖女でした。今世では普通の令嬢として泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!

月(ユエ)/久瀬まりか
ファンタジー
伯爵令嬢アイリス・ホールデンには前世の記憶があった。ロラン王国伝説の大聖女、アデリンだった記憶が。三歳の時にそれを思い出して以来、聖女のオーラを消して生きることに全力を注いでいた。だって、聖女だとバレたら恋も出来ない一生を再び送ることになるんだもの! 一目惚れしたエドガーと婚約を取り付け、あとは来年結婚式を挙げるだけ。そんな時、魔物討伐に出発するエドガーに加護を与えたことから聖女だということがバレてしまい、、、。 今度こそキスから先を知りたいアイリスの願いは叶うのだろうか? ※第14回ファンタジー大賞エントリー中。投票、よろしくお願いいたします!!

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...