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第1部 貴族学園編

21 テスト

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 運動会が終わると、タンポポ組は勉強漬けになった。

「もうっ、レティシアちゃん! ちゃんと宿題しなきゃダメでしょ」

「ごめんごめん。昨日ちょっと忙しくてね」

 昨夜は母様に、大量の雷の魔石を渡された。朝までに、全部補充しておいてほしいって。わざわざリョウ君が側にいない時を狙って言われたのは、秘密でやれってこと?

 いいよ。私は実の子供じゃないのに、この家に住ませてもらってるんだから、それぐらい平気だよ。

「レティシアちゃんは、もっと硬筆を練習しなきゃダメだよ。こんな文字を書いてると、テストで点を引かれちゃうよ」

 アニータちゃんに宿題を見せてもらいながら、私はため息をついた。

「ふう。だって、この蔦のクルクルの角度とか葉っぱの付き方とか、まねをするのは難しいよ」

「何言ってるの? こっち向きの葉っぱは、全然意味が変わってくるんだよ。それだと別の意味になっちゃうよ」

「ああ、もう分かんない!」

 この国の文字、どうにかしてほしい。

「でも、レティシアちゃんは算数は得意でしょ。わたし、繰り下がりの引き算がよくわからないの」

「そうだよね。数字に強いの? でも、たまに数字の表記をを間違えちゃってるよね」

 算数は、小学生レベルだから楽勝だよ。でも、この国の数字の表記は、やっぱり蔦文字だ。蔦についている葉っぱと実の数で数字の大きさを表す。ああ、前世と同じ10進法でよかった。

「テストが終わったら、夏休みだよね。アニータちゃんは領地に帰るの?」

「うん。領地の祭りに参加するんだよ。うちの領地には勇者が初めて魔物を倒した、始まりの村があるからね。毎年夏になると、「初めての魔物祭り」があるんだ。私、今年は聖女リシアの役をやらせてもらうの」

「わぁ、いいなぁ」

 始まりの村ね。RPGみたいで楽しそう。

「ルビアナちゃんはどうするの?」

「うちは商会が忙しくなるから、お母様と王都で過ごすと思うの。子供たちを集めてお茶会を開いたりする予定なのよ。レティシアちゃんも王都にいるのだったら、遊びに来てね」

「うん!」

 友達におよばれしちゃった!

「でも、レティシアちゃんはこのままだと、夏休みは補習だよ」

「そうね、もっとお勉強がんばってね」

 あああ、5歳から夏季補習って……。うん、がんばろう。


 家に帰ってからリョウ君に勉強を教えてもらってる。弟に教えてもらうなんて。姉さまの威厳が台無しだよ……。

「ぜったいテストに合格してね!」

 リョウ君は厳しい顔をした。

「補習になったら、オスカー君の領地に行けなくなっちゃう。僕、オスカー君の領地で、勇者の剣を見せてもらう約束をしたんだ」

 この前の休日に、オスカー様の家に行ったら、領地に遊びに来るように熱心に勧められた。リョウ君は大喜びだ。二人はオスカー君、リョウ君と呼び合い、身分を超えた友達になった。私にも、様をつけて呼ぶのはやめるようにオスカー様は言ったけど、私は将来平民になるつもりだから、そんな畏れ多いことはできないよ。

「もう、なんでこんなことも覚えられないの? 魔王を倒した後で光の精霊王が生まれたんだってば。魔王よりも光の精霊王が後、まちがえないで! ほら、次、さっさとやる!」

 厳しい。リョウ君、厳しすぎるよ。
 勇者の剣を見せてもらう約束をしたリョウ君は、人格が変わったように、スパルタ式の家庭教師になった。

「姉さま。まじめにやって! この教本は一刻もあったら覚えられるよね。歴代国王の名前を暗記するのぐらい簡単だよ。さぼっちゃだめだよ!」

 リョウ君……。みんな、君みたいに、一目見ただけで覚えられる瞬間記憶力を持ってないんだよ。姉さまの脳みそは、特に機能が悪いんですよ。お手柔らかに頼むよ。



 地獄のような一か月だった。

 生まれ変わる前も併せて、人生で一番勉強したように思う。


「終わったぁ~!」

 テスト期間終了。
 タンポポ組の仲間は、みんな晴れ晴れとした顔をしている。

「レティシアちゃん、どうだった?」

「うん、半分はできたよ。きっと合格点に届いてるよ!」

 なんとかなったよ。リョウ君の家庭教師のおかげだね。ありがとう、リョウ君。と、言おうとしたら、すぐ後ろから、

「姉さま、問い7の答え、何にした? あれはひっかけ問題だから、間違えて3番に丸を付けてないよね。それから、問い8、これは少しひねりが聞いた問題だった。でも、昨日僕が教えたことを覚えていたら解けたはずだよ。ああ、問い13は僕の予想が当たったよね。出題されると思っていたよ。100点とれて当然のテストだったね」

 リョウ君、君は嫌味な優等生にキャラ変してしまってるよ。後ろでポール君が、ちょっと引いてる。もうテストは終わったんだから、いつもの素直で優しいリョウ君、戻って来て。


「来週から夏休みですわね。レティシアちゃん、招待状を送るからお茶会に来てね」

「うん、行く行く」

「レティシアちゃん、ブラーク辺境伯領に行った帰りに、うちの領地にもよってくれるんでしょ? お祭りに間に合うように来てね」

「うん、行けそうだったら行くね」

「ふふ、寂しくなりますわ。2か月以上も、タンポポ組のみんなと会えないなんて」

「そんなのあっという間だよ。すぐに二学期になっちゃうよ」

「二学期はいよいよダンジョンデビューですわね。夏休みにも体力づくりをしないとですわ」

「そうよ、レティシアちゃんも辺境伯領でしっかり訓練してくるのよ。運動会の時みたいに、途中で蜘蛛の巣に引っかかったら、ダンジョンだと死ぬよ」

 アニータちゃんが怖いことを言ってくる。
 でも、私のことを心配してくれてるんだ。
 嬉しくなって、アニータちゃんにぎゅっと抱き付いた。

「夏休み、手紙書くね!」

「私も!」


 そうして、貴族学園の一学期は無事に終了した。

 100点取れて当然のテストは、68点。かろうじて赤点は免れた。リョウ君? 全教科100点だったよ。この天才児め。
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