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第1部 貴族学園編
10 運動会は護衛が必要?
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私の怪我が原因なのか、貴族学園では薔薇組とタンポポ組の生徒が出会わないように配慮をしてくれたみたい。王太子が外で遊んでいる時間には、タンポポ組は体育館で走り込みをすることになった。日差しが遮られる分だけ、少しはマシ?
「はあ、はあ」
でも、相変わらず私は体力がない。
「運動会ではモンスター役の者が、皆さんを追いかけて、ペンキをかけて攻撃します。これは契約獣のダンジョンで、モンスターに出会った時の予行演習ですからね。ペンキをかけられないように、速く走るんですよ」
普通の徒競走とは違って、なんかおもしろそうかも。
「本番の時と同じように、タンポポ組さんは、おうちの方に3名まで来てもらっても構いません。しっかり守ってもらいましょうね」
え? おうちの方3名? そんなの聞いてないですよ? どういうこと?
ルビアナちゃんたちに聞くと、
「うちは腕利きの冒険者を雇うの。えっ?! レティシアちゃんは予約してないの? 高ランク冒険者はすぐに予約が入るから、今からだと厳しいですわ」
「うちの場合は、いとこのお兄ちゃんと騎士団の同僚を雇うって言ってた。レティシアちゃんはお父さんがこないの?」
と、アニータちゃん。
「父様、来てくれるかな?」
リョウ君が期待したように、キラキラした目をしたけど、
「うーん。攻略に1年以上かかるって言ってたから、無理なんじゃない?」
うちの父様は1年に1回会えたらいい方だ。ずっと、ダンジョンに出稼ぎ中。
家に帰ってから母様に聞くと、無理だろうと言われた。
「私もクリス様の麗しい姿を早く見たいけど、全然連絡取れないのよねー。ダンジョンに入ったら、夢中になって、ずっと出てこない人だから。寂しいわねー」
母様の、のんびりとした返事に、私は焦った。
「って、どうしたらいいの? 1人につき3人の護衛役が必要ってことでしょ? 私とリョウ君の合わせて6人。今からギルドで申し込むの?」
「どうしよう。姉さま。強い冒険者が来てくれるかな?」
不安を全身で表した私達に向けて、母様はどうでも良さそうに答えた。
「ただの運動会よ。本当のモンスターが出るわけじゃないから、護衛役なんていなくても平気よ。ふふふ、たかがペンキ攻撃でしょ。怪我するわけじゃないし。もうっ、別にペンキで汚れるぐらいいいじゃない? 捨ててもいい服を着て行ってね」
「え?」
リョウ君は泣きそうに顔をしかめた。
たかが運動会かもしれないけど、負けたくないんだよ。1番を取りたいって思うんだよ、子供は。それなのに、母様は冷たすぎる。
「運動会の日は、魔道具の納期が迫ってるから、私は家で応援してるわね。二人でがんばってきてね!」
どうやら、運動会を見に来るつもりさえないみたいだ。私はいいんだけどね、でも、リョウくんが、紫の瞳いっぱいに涙をためてる。
私はリョウくんにぎゅっと抱きついた。
「大丈夫。姉さまがなんとかするから」
なんとかって何をしていいのか分からないけど、そう言って、慰めるしかなかった。家に帰ってこない父親と、子育てより仕事優先の母親。でも、リョウ君には姉さまがいるからね。私が守ってあげるんだから。
でも、どうしよう。
賢くない私にはよく分からない。とりあえず、護衛役を雇うためにメイドのメアリと一緒に、冒険者ギルドに行くことにした。母様はぶつくさ文句を言いながらも、お金を払うことに同意してくれた。でも、ギルドには一緒に行ってくれない。
「だって、冒険者って、汚くて、醜くて、乱暴で、礼儀を知らない卑しい平民ばかりなのよ。わたし、怖いわ」
いや、そういうあなたの夫も冒険者でしょう? そりゃあ、父様は元公爵令息だから礼儀作法はバッチリだけどね。それに、平民っていうけど、去年までは私達も平民だったじゃない? 母様は元伯爵令嬢だけど。ああ、もう、突っ込みたいけど、面倒だから黙っていよう。
「リョウ君はあなたと違って、可愛いくて素直だから、野蛮な冒険者に影響されないように、しっかり守ってあげてね。いいわね、レティちゃん」
「……うん」
母様にそう返事をしながらも、モヤモヤする気持ちが消えなかった。
「はあ、はあ」
でも、相変わらず私は体力がない。
「運動会ではモンスター役の者が、皆さんを追いかけて、ペンキをかけて攻撃します。これは契約獣のダンジョンで、モンスターに出会った時の予行演習ですからね。ペンキをかけられないように、速く走るんですよ」
普通の徒競走とは違って、なんかおもしろそうかも。
「本番の時と同じように、タンポポ組さんは、おうちの方に3名まで来てもらっても構いません。しっかり守ってもらいましょうね」
え? おうちの方3名? そんなの聞いてないですよ? どういうこと?
ルビアナちゃんたちに聞くと、
「うちは腕利きの冒険者を雇うの。えっ?! レティシアちゃんは予約してないの? 高ランク冒険者はすぐに予約が入るから、今からだと厳しいですわ」
「うちの場合は、いとこのお兄ちゃんと騎士団の同僚を雇うって言ってた。レティシアちゃんはお父さんがこないの?」
と、アニータちゃん。
「父様、来てくれるかな?」
リョウ君が期待したように、キラキラした目をしたけど、
「うーん。攻略に1年以上かかるって言ってたから、無理なんじゃない?」
うちの父様は1年に1回会えたらいい方だ。ずっと、ダンジョンに出稼ぎ中。
家に帰ってから母様に聞くと、無理だろうと言われた。
「私もクリス様の麗しい姿を早く見たいけど、全然連絡取れないのよねー。ダンジョンに入ったら、夢中になって、ずっと出てこない人だから。寂しいわねー」
母様の、のんびりとした返事に、私は焦った。
「って、どうしたらいいの? 1人につき3人の護衛役が必要ってことでしょ? 私とリョウ君の合わせて6人。今からギルドで申し込むの?」
「どうしよう。姉さま。強い冒険者が来てくれるかな?」
不安を全身で表した私達に向けて、母様はどうでも良さそうに答えた。
「ただの運動会よ。本当のモンスターが出るわけじゃないから、護衛役なんていなくても平気よ。ふふふ、たかがペンキ攻撃でしょ。怪我するわけじゃないし。もうっ、別にペンキで汚れるぐらいいいじゃない? 捨ててもいい服を着て行ってね」
「え?」
リョウ君は泣きそうに顔をしかめた。
たかが運動会かもしれないけど、負けたくないんだよ。1番を取りたいって思うんだよ、子供は。それなのに、母様は冷たすぎる。
「運動会の日は、魔道具の納期が迫ってるから、私は家で応援してるわね。二人でがんばってきてね!」
どうやら、運動会を見に来るつもりさえないみたいだ。私はいいんだけどね、でも、リョウくんが、紫の瞳いっぱいに涙をためてる。
私はリョウくんにぎゅっと抱きついた。
「大丈夫。姉さまがなんとかするから」
なんとかって何をしていいのか分からないけど、そう言って、慰めるしかなかった。家に帰ってこない父親と、子育てより仕事優先の母親。でも、リョウ君には姉さまがいるからね。私が守ってあげるんだから。
でも、どうしよう。
賢くない私にはよく分からない。とりあえず、護衛役を雇うためにメイドのメアリと一緒に、冒険者ギルドに行くことにした。母様はぶつくさ文句を言いながらも、お金を払うことに同意してくれた。でも、ギルドには一緒に行ってくれない。
「だって、冒険者って、汚くて、醜くて、乱暴で、礼儀を知らない卑しい平民ばかりなのよ。わたし、怖いわ」
いや、そういうあなたの夫も冒険者でしょう? そりゃあ、父様は元公爵令息だから礼儀作法はバッチリだけどね。それに、平民っていうけど、去年までは私達も平民だったじゃない? 母様は元伯爵令嬢だけど。ああ、もう、突っ込みたいけど、面倒だから黙っていよう。
「リョウ君はあなたと違って、可愛いくて素直だから、野蛮な冒険者に影響されないように、しっかり守ってあげてね。いいわね、レティちゃん」
「……うん」
母様にそう返事をしながらも、モヤモヤする気持ちが消えなかった。
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