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第1部 貴族学園編
9 勇者の遺産
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怪我をして帰ってきた私を、母様は心配してくれた。でも、相手が王太子の取り巻きだって告げると、怯えられた。
「もう~っ、ちゃんと目立たないようにしてよ。あなたの生まれを知られたら、何をされるか……ああ、こわいこわい。リョウ君まで被害に合うかもしれないでしょう? 分かってるの? もう、本当に……。絶対、王族には関わらないって約束して」
でも、向こうから絡んでくるんだよ。王太子は紫の瞳に劣等感を持ってるし、そんなの私のせいじゃないのに。なんで、私ばっかり我慢しなきゃいけないの? 勝手なことをしたのは王族でしょう?
心の中で不満があふれてくる。でも、口に出したら私を引き取ってくれた母様を困らせてしまう。唇をぎゅっと噛んで我慢する。母様はそんな私に気が付かずに、机の上の紙の束をめくった。
「それよりも、ね、レティちゃん。お願い。運動会の時の保護者お茶会なんだけど、冷たいものを出すようにって公爵夫人から手紙が来たの。氷の魔石がたりないから、魔力を補充してもらえる?」
「……うん、でも、ちゃんと料金はとったほうがいいよ。母様は都合よく使われてると思う。魔石がタダで手に入れられるって知られたら、要求がどんどん大きくなるから」
「えー、えっと。でもね、公爵夫人がね、……」
母様はもじもじと指を絡ませた。私は黙って、目の前にあるお茶会の予算書にゼロを一個足した。氷の魔石は高級品だ。氷の魔力の持ち主が少ないためだ。平民には、ほぼいない。
実は私は、転生者特典なのか魔力チートで、どの魔石にも補充できるんだよね。やったね。これだけは転生してよかったって思えるよ。魔力も多いしね。将来平民になっても1人で生きていけるよね。
ただし、魔法を使うには杖が必要で、その杖は魔法学校に入学しないともらえない。私の唯一のチートな特技は、今の所、母様の手伝いの魔石補充でしか活躍できてない。
翌日の貴族学園の帰り道、いつにも増してハードな走り込みに疲れた私たちは、迎えに来たメイドと一緒に貸馬車まで歩いて帰っていた。門の前で止まっていた馬車から声がかかった。
「レティシアちゃん! リョウ君」
誰? 馬車から顔を出していたのは黒髪のイケメン園児、ブラーク辺境伯爵家のオスカー様だ!
「ちょっと話があるんだ。乗ってくれる?」
上級貴族様に逆らうことなんてできない。私はリョウ君と手をつないで、御者が用意してくれた踏み台を使って馬車に乗り込んだ。
ふかふかのクッションのある椅子に座るように促される。
馬車の窓の外では、護衛らしき体格の良い騎士が背中を向けて立っているのが見えた。
「なんのご用ですか?」
リョウ君が私の手をぎゅっと握って聞いた。
「ああ、ごめん。ちょっと、聞きたいことがあって。その、傷は大丈夫?」
「あ、はい」
私の額には、まだガーゼが貼ってある。王太子の取り巻きに石を投げられた怪我だってことは、目撃者がいたから噂になっている。
「目の色のことでトラブルになったそうだね。気にしなくていいよ。俺たち辺境伯家も黒髪黒目だから、マッキントン侯爵家にいろいろ言われ続けているんだ」
「……はい」
うーん、それとこれはちょっと違うんだけどな。
マッキントン侯爵家の先祖の女魔法使いと、辺境伯の先祖の女騎士は、ともに勇者パーティの仲間だった。そして、二人とも、勇者の子を生んだ。つまり、勇者ハーレムのメンバーだったのね。子孫の代になっても、どちらが勇者の正妻だったかって議論でいがみ合っているとか。
「それでさ、君たちの父は、勇者の遺産を探している冒険者なんだろう? マッキントン侯爵夫人が、遺産を見つけたら取り上げようとしているらしいけど、あの家には渡さないでほしいんだ」
え? 用事ってそんなこと? 彼もうちの父が手に入れるかどうかわからない伝説の遺産がお目当てなの? ちょっとかっこいいって思ってたのに、なんだか残念。
「勇者の遺産は、見つけた者に受け継がれるって勇者の書に書いてあります! 父様が見つけたら、それは父様のものです!」
勇者のことなら譲れないと、いつもは穏やかなリョウ君が、オスカー様に言い返した。
よしよし、よく言った。そのとおりだよね。でもね、見つけてもいない遺産のことで、なんでこんなに色々言われるんだろう。うんざりだよ。
「ああ、もちろん。君たちの父親から取り上げようなんて思ってない。ただ、マッキントン侯爵の手には絶対に渡さないでほしいんだ」
オスカー様は頭に手をやり、前髪をかき上げた。
「スカラ・マッキントンが王太子に言っていたんだ。君たちの父親が勇者の遺産を見つけたら、マッキントン家の物になるから、その功績で、自分が未来の王太子妃になるって。ベアトリス嬢は婚約者候補に過ぎないって」
黒真珠の瞳が私達をまっすぐに見た。
「マッキントンが未来の王妃になることに、うちは反対しているんだ」
おいおい、ちょっと、待ってよ。冷静に考えてほしい。なんで見つかってもいない、あるかどうかも分からない勇者の遺産が、王妃になるかどうかと関係するの? 一言、言わずにはいられない。
「でも、500年以上も前のことですよね。勇者が遺産を残したっていう言い伝えも、でたらめかもしれないし。うちの父が発見するかどうかなんて分からないです」
思わず反論してしまったけど、それに対してオスカー様は、黒い瞳をきらめかせながら、静かに語った。
「いや、君たちの父親なら可能性があるってみんなが噂してる。紫眼で魔力の強い冒険者。契約獣の狼と一緒にダンジョンにもぐる姿は、勇者の遺産を継ぐのにふさわしいって。それと、勇者の遺産はちゃんとあるよ。うちには勇者が残した書き付けがあるんだ。光の精霊王が、勇者の遺産を守っているって書かれてるんだ」
「姉さま、遺産は絶対にあるよ! もし、父様が見つけられなくても、ぼくが絶対見つけるよ」
リョウ君がオスカー様の言葉に強くうなずいて、目をキラキラさせて言った。5歳の子供が宝探しにあこがれるのは、別にいいんだけどね……。
「分かりました。マッキントン侯爵家には渡さないように、父に伝えておきます」
とりあえず、こう言っとけばいいだろう。
オスカー様は私の言葉に、にっこりと笑顔を見せた。
「ありがとう。そのお礼っていうのじゃないけど、良かったら、今度我が家に遊びに来てほしい。勇者の書き付けを見せてあげる」
「絶対行きます!」
私が口を開く前に、リョウ君がすばやく返事した。
「もう~っ、ちゃんと目立たないようにしてよ。あなたの生まれを知られたら、何をされるか……ああ、こわいこわい。リョウ君まで被害に合うかもしれないでしょう? 分かってるの? もう、本当に……。絶対、王族には関わらないって約束して」
でも、向こうから絡んでくるんだよ。王太子は紫の瞳に劣等感を持ってるし、そんなの私のせいじゃないのに。なんで、私ばっかり我慢しなきゃいけないの? 勝手なことをしたのは王族でしょう?
心の中で不満があふれてくる。でも、口に出したら私を引き取ってくれた母様を困らせてしまう。唇をぎゅっと噛んで我慢する。母様はそんな私に気が付かずに、机の上の紙の束をめくった。
「それよりも、ね、レティちゃん。お願い。運動会の時の保護者お茶会なんだけど、冷たいものを出すようにって公爵夫人から手紙が来たの。氷の魔石がたりないから、魔力を補充してもらえる?」
「……うん、でも、ちゃんと料金はとったほうがいいよ。母様は都合よく使われてると思う。魔石がタダで手に入れられるって知られたら、要求がどんどん大きくなるから」
「えー、えっと。でもね、公爵夫人がね、……」
母様はもじもじと指を絡ませた。私は黙って、目の前にあるお茶会の予算書にゼロを一個足した。氷の魔石は高級品だ。氷の魔力の持ち主が少ないためだ。平民には、ほぼいない。
実は私は、転生者特典なのか魔力チートで、どの魔石にも補充できるんだよね。やったね。これだけは転生してよかったって思えるよ。魔力も多いしね。将来平民になっても1人で生きていけるよね。
ただし、魔法を使うには杖が必要で、その杖は魔法学校に入学しないともらえない。私の唯一のチートな特技は、今の所、母様の手伝いの魔石補充でしか活躍できてない。
翌日の貴族学園の帰り道、いつにも増してハードな走り込みに疲れた私たちは、迎えに来たメイドと一緒に貸馬車まで歩いて帰っていた。門の前で止まっていた馬車から声がかかった。
「レティシアちゃん! リョウ君」
誰? 馬車から顔を出していたのは黒髪のイケメン園児、ブラーク辺境伯爵家のオスカー様だ!
「ちょっと話があるんだ。乗ってくれる?」
上級貴族様に逆らうことなんてできない。私はリョウ君と手をつないで、御者が用意してくれた踏み台を使って馬車に乗り込んだ。
ふかふかのクッションのある椅子に座るように促される。
馬車の窓の外では、護衛らしき体格の良い騎士が背中を向けて立っているのが見えた。
「なんのご用ですか?」
リョウ君が私の手をぎゅっと握って聞いた。
「ああ、ごめん。ちょっと、聞きたいことがあって。その、傷は大丈夫?」
「あ、はい」
私の額には、まだガーゼが貼ってある。王太子の取り巻きに石を投げられた怪我だってことは、目撃者がいたから噂になっている。
「目の色のことでトラブルになったそうだね。気にしなくていいよ。俺たち辺境伯家も黒髪黒目だから、マッキントン侯爵家にいろいろ言われ続けているんだ」
「……はい」
うーん、それとこれはちょっと違うんだけどな。
マッキントン侯爵家の先祖の女魔法使いと、辺境伯の先祖の女騎士は、ともに勇者パーティの仲間だった。そして、二人とも、勇者の子を生んだ。つまり、勇者ハーレムのメンバーだったのね。子孫の代になっても、どちらが勇者の正妻だったかって議論でいがみ合っているとか。
「それでさ、君たちの父は、勇者の遺産を探している冒険者なんだろう? マッキントン侯爵夫人が、遺産を見つけたら取り上げようとしているらしいけど、あの家には渡さないでほしいんだ」
え? 用事ってそんなこと? 彼もうちの父が手に入れるかどうかわからない伝説の遺産がお目当てなの? ちょっとかっこいいって思ってたのに、なんだか残念。
「勇者の遺産は、見つけた者に受け継がれるって勇者の書に書いてあります! 父様が見つけたら、それは父様のものです!」
勇者のことなら譲れないと、いつもは穏やかなリョウ君が、オスカー様に言い返した。
よしよし、よく言った。そのとおりだよね。でもね、見つけてもいない遺産のことで、なんでこんなに色々言われるんだろう。うんざりだよ。
「ああ、もちろん。君たちの父親から取り上げようなんて思ってない。ただ、マッキントン侯爵の手には絶対に渡さないでほしいんだ」
オスカー様は頭に手をやり、前髪をかき上げた。
「スカラ・マッキントンが王太子に言っていたんだ。君たちの父親が勇者の遺産を見つけたら、マッキントン家の物になるから、その功績で、自分が未来の王太子妃になるって。ベアトリス嬢は婚約者候補に過ぎないって」
黒真珠の瞳が私達をまっすぐに見た。
「マッキントンが未来の王妃になることに、うちは反対しているんだ」
おいおい、ちょっと、待ってよ。冷静に考えてほしい。なんで見つかってもいない、あるかどうかも分からない勇者の遺産が、王妃になるかどうかと関係するの? 一言、言わずにはいられない。
「でも、500年以上も前のことですよね。勇者が遺産を残したっていう言い伝えも、でたらめかもしれないし。うちの父が発見するかどうかなんて分からないです」
思わず反論してしまったけど、それに対してオスカー様は、黒い瞳をきらめかせながら、静かに語った。
「いや、君たちの父親なら可能性があるってみんなが噂してる。紫眼で魔力の強い冒険者。契約獣の狼と一緒にダンジョンにもぐる姿は、勇者の遺産を継ぐのにふさわしいって。それと、勇者の遺産はちゃんとあるよ。うちには勇者が残した書き付けがあるんだ。光の精霊王が、勇者の遺産を守っているって書かれてるんだ」
「姉さま、遺産は絶対にあるよ! もし、父様が見つけられなくても、ぼくが絶対見つけるよ」
リョウ君がオスカー様の言葉に強くうなずいて、目をキラキラさせて言った。5歳の子供が宝探しにあこがれるのは、別にいいんだけどね……。
「分かりました。マッキントン侯爵家には渡さないように、父に伝えておきます」
とりあえず、こう言っとけばいいだろう。
オスカー様は私の言葉に、にっこりと笑顔を見せた。
「ありがとう。そのお礼っていうのじゃないけど、良かったら、今度我が家に遊びに来てほしい。勇者の書き付けを見せてあげる」
「絶対行きます!」
私が口を開く前に、リョウ君がすばやく返事した。
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