【完結】見えるのは私だけ?〜真実の愛が見えたなら〜

白崎りか

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2 運命の出会い

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 うそつき令嬢。

 そんな不名誉なあだ名を持つ私は、伯爵家の長女だ。
 由緒正しい家門に生まれた17歳の私が、30歳の成り上がり男爵に嫁ぐことになったのには、理由がある。
 我がバイレット伯爵家は、曽祖父の時代に王女が降嫁したほど歴史ある名門だ。王家の色を持つ私が誕生した時、父は、王族に嫁がせられるのではと期待した。
 だから、7歳の私を着飾って、王妃の主催した婚約者選びのお茶会に連れて行った。

 そこで、私は運命を変える相手、王太子様と出会ってしまった。

 今から10年前のあの日の出来事が、全てを変えたのだ。

 銀色の髪に紫の瞳。百人の兵で1万の敵を倒した建国王と同じ色を持つ私たち二人は、目があった瞬間に息をするのを忘れるほどに夢中になって見つめ合った。周りの雑音が全く聞こえなくなるくらい。ただ静かに、二人だけの世界を作っていた。

 言葉にしなくても分かる。彼は、私のことを分かってくれている。私の置かれたつらい状況を。実母が死んだ後、継母にいじめられている日々を。全部、彼だけは分かってくれるのだ。この世界でただ一人、彼だけは、私のことを理解してくれる。

 だって、私にも、彼のことが良く分かるのだから。彼は私と同じだから。

「まあ、まあ、なあに? そんなに見つめ合っちゃって。あらあら、エドワードはソフィアちゃんにひとめぼれしちゃったの?」

 空気を読まない王妃の発言が、私達を引き離した。

「畏れ多いことでございます。我が娘を気に入ってくださってなによりです」

 父が私の前にきて、にやにやと笑った。「絶対に、なんとしても王太子に気に入られて婚約者になるのだ」馬車の中でずっとそう言われていた。

「あら、そう? でもね、今日は、エドワードのために女の子をいっぱい呼んであげたのよ。やっぱり一番優れた子を選びたいじゃない? そうだわ、相性占いをしてもらうのはどうかしら? 市井で流行っている霊能者を連れて来てるのよ」

 王妃はこんな風に、平民を王宮に連れ込んで娯楽にふけっていた。この日のお茶会には、守護霊占いをするという霊能者を呼んでいた。

 私たちの目の前に現れた、卑しい霊能者は王妃にこびるように両手をすり合わせてお辞儀した。

「私の息子と一番相性の良い女の子を選んでちょうだい。 婚約者にふさわしいのは、家柄ももちろんだけど、守護霊との相性も大切でしょう?」

 暗に、伯爵令嬢の私では家格が低いと王妃は告げているのだ。

「もちろんでございます。さすが、美の女神を守護霊に持つ王妃様のおっしゃる通りです。さて、こちらのお嬢様は……」

 安物の服で着飾った偽霊能者は、私を眇めた目でじっと見てから告げた。

「こちらのお嬢様の守護霊は、かわいらしいウサギですね。とても小さくて愛らしい守護霊ですが、王太子様の守護霊と並ぶと……」

 王妃の意を汲んで、彼は私の守護霊を、取るに足らない小さいウサギと告げた。

「なにしろ王太子様の守護霊は、伝説の騎士様ですからね。初代国王の隣で何千もの敵を倒したという勇ましい黒騎士様。王太子様にふさわしい守護霊です。一方、こちらのご令嬢の守護霊のウサギは、黒騎士様の霊気にあてられて、怯えて震えあがってますよ」

「まあ、それはダメね。ウサギちゃんがかわいそうだわ。ざぁんねん。うふふ。いくら見た目が良くても守護霊がウサギじゃ……」

 王妃は面白そうに笑った。

「……ちがい、ます」

 本当は、黙っておくべきだったのに。
 言うべきじゃなかったのに。
 でも、当時、7歳だった幼い私には、どうしても我慢できなかったのだ。王太子様の後ろで、ものすごく悲しそうな顔でパチパチとまばたきする人が、私に訴えかけるから。
 それに、……私の守護霊をウサギだって言われたことに、腹が立っていたから。
 だから、言ってしまった。

「ちがいます! 王太子様の守護霊は、黒騎士様じゃないです!」

 王妃の言葉を、大声で遮ってしまったのだ。

「王太子様をお守りしているのは、女の人です! 騎士様じゃなくて、ピンク色の髪をした女の人です!」

「何を言っている? 黙りなさい」

 隣にいた父があわてて私を止めようとするけれど、言葉は口からあふれ出した後だった。

「ふわふわしたピンク色の髪に、水色の瞳の女の人です。王太子様の背中にくっついています! それに、」

 鼻と口から真っ黒な血を流して、王妃様をにらんでいます。

 そう続けようとした私の口を、父が無理やりふさいだ。

「ピンクの髪に水色の瞳ですって?!」

 王妃は、ものすごく恐ろしい顔になった。

「無礼者! 自分が婚約者に選ばれないからと言って、世迷言を申すうそつきな娘め! 兵よ、この娘をとらえなさい!」

 近衛兵が王妃の命令に従い、近づいてくる。護衛騎士のリオンが私を守るように前に立ち、剣に手をかけた。

 緊迫した状況を止めたのは、王太子様だった。

「母上、幼い令嬢のただの失言ですよ。そんなに目くじらを立てることもないでしょう」

「まあ、何を言うの? あなたが侮辱されたのよ。わたくしの息子の守護霊が、卑しい身分の女だなんて失礼なことを言う者には、処分が必要よ」

「僕の守護霊は、黒騎士なんでしょう? そうだよね、そこの霊能者、女性の霊はここにはいないよね」

 真っすぐに紫色の瞳を向けて、王太子様は、霊能者を問い詰めた。

「も、もちろんでございます。王太子様の守護霊は伝説の黒騎士様です。女性の霊など、どこにもいません!」

 床に頭をつけるほど低くお辞儀をして、霊能者は震えながら答えた。満足そうにうなずくと、王太子様は銀色の髪をかき上げた。

「母上、幼い子供は、大人のまねをするものです。彼女はただ、霊能者のまねをして、幽霊が見えると言ってみたくなったのでしょう。許してやりましょうよ」

「そう? あなたがそう言うのなら……。でも、わたくし、とっても不愉快になったわ。幽霊が見えるなんて嘘をつく子とは、もう二度と会いたくないわ」

 王太子様のおかげで私は処分を免れた。
 それでも、この日から10年間、王妃に嫌われたうそつき令嬢として、社交界に出ることは一切許されず、継母と父から虐げられる日々を過ごすことになった。
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