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23 苦いココア
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管理人室で、シリィさんは温かいココアを入れてくれた。
「不愉快な所を見てしまったわね。でもね、それでも、私たち人間には精霊の協力が必要なの。精霊の膨大な魔力を結界装置に使うことで、多くの人の命が守られているの」
シリイさんはココアを一口飲んでから、静かに言った。
ゆっくりと、私に言い聞かせるように、この世界の言い分を語った。
「異世界から召喚した女性だけが、精霊の対価となる聖力を持っている。だから、私たちは異世界人を利用する。でもね、あなた達を無理やりさらってきたわけじゃないわ。いつでも、戻れると説明しているでしょ」
知ってる。分かってる。最初に説明してもらった。
希望者は元の世界に戻れるって。死ぬ瞬間に。元の世界で死ぬか、この世界で生きるか選べって。
「ほとんどの精霊は、聖女を大切にして、良好な関係を築いてるわ。お互いに相手を尊重しあっているのよ」
それも、知ってる。スズさんのセミの精霊は、私をかばってくれた。スズさんのことを、心から心配していた。とても、優しくて、いい精霊だった。
「でもね、一部の精霊、特に貴族は難しいこともあるわ。彼らは、矜持が高いから、聖女の聖力にしか価値を見出さない」
そう、それがこの寮に住む聖女の契約精霊。
「その中でも、特に男爵と準男爵の精霊は、決闘という名の殺し合いで、その地位を得るから、とても好戦的なのよ」
そう、だね。彼らにとって、聖女は聖力を取り込むための道具なんだ。ロビーにいた精霊にとっては、聖女は聖力を得るために利用する使い捨ての存在。
シリイさんは、先輩たちが酷い扱いを受けてるのを知ってて黙認してる。あの精霊が言ってたみたいに、元の世界では処刑される所を召喚で救ったから仕方ないって? 犯罪者だから、そんな扱い当然って?
でも、それでも……。
ううん、違う。お互い様だ。私達、聖女だって対価をもらってる。贅沢な暮らしをもらってるんだ。本当は死ぬはずだったのに、命を助けてもらった。生活も保証してもらえる。貴族と契約したら、贅沢な部屋で豪華な食事ができる。それが交換条件。それが契約で、この世界の決まり。
この世界で生きてくって決めたから、ここのルールに合わせなきゃ。でも、でも。
「後宮って何?」
一番引っかかるのがこれだった。
シリィさんは気まずそうな顔をした。
「後宮のことは、人間には知らされないの」
「シリイさんが知ってることだけでも、教えて」
あの日、召喚された時、女性は1年生クラスの人数25人よりも、もっといた。
私が気づいていないって思ってるかもしれないけど、私は数字が得意。一瞬で数えることができる。
28人。いたのは28人だ。
てっきり、死を覚悟して、元の世界に帰還したんだって思っていたけど。
「召喚者の中から聖力がAランクの女性を精霊界に送る。これが、聖女召喚に魔力を貸してもらう条件なのよ。おそらく彼女たちは、精霊王の後宮に入っていると思われるわ」
しぶしぶ、シリィさんは機密情報を話した。
「契約書には、精霊界に送るのは『Aランクの聖女』としか書いてない。……だからあなたはここにいるのよ」
私は、Sランク。ふざけた数値のSが3つ並ぶ。確かにAランクじゃない。
「後宮がどんなところなのか、後宮に行った聖女がどうなるのかは、人間には知らされないのよ」
ため息をついたシリィさんは、つらそうな顔をした。
「それでも、精霊の協力が必要で、私たちリヴァンデール同盟国は毎年、聖女召喚を行う。これは決まったことなのよ」
甘いはずのココアは苦かった。
私は運がよかったのだろうか。
口外無用で。
シリィさんと約束をして、部屋に帰った。
すこし、整理する時間が必要だった。
「不愉快な所を見てしまったわね。でもね、それでも、私たち人間には精霊の協力が必要なの。精霊の膨大な魔力を結界装置に使うことで、多くの人の命が守られているの」
シリイさんはココアを一口飲んでから、静かに言った。
ゆっくりと、私に言い聞かせるように、この世界の言い分を語った。
「異世界から召喚した女性だけが、精霊の対価となる聖力を持っている。だから、私たちは異世界人を利用する。でもね、あなた達を無理やりさらってきたわけじゃないわ。いつでも、戻れると説明しているでしょ」
知ってる。分かってる。最初に説明してもらった。
希望者は元の世界に戻れるって。死ぬ瞬間に。元の世界で死ぬか、この世界で生きるか選べって。
「ほとんどの精霊は、聖女を大切にして、良好な関係を築いてるわ。お互いに相手を尊重しあっているのよ」
それも、知ってる。スズさんのセミの精霊は、私をかばってくれた。スズさんのことを、心から心配していた。とても、優しくて、いい精霊だった。
「でもね、一部の精霊、特に貴族は難しいこともあるわ。彼らは、矜持が高いから、聖女の聖力にしか価値を見出さない」
そう、それがこの寮に住む聖女の契約精霊。
「その中でも、特に男爵と準男爵の精霊は、決闘という名の殺し合いで、その地位を得るから、とても好戦的なのよ」
そう、だね。彼らにとって、聖女は聖力を取り込むための道具なんだ。ロビーにいた精霊にとっては、聖女は聖力を得るために利用する使い捨ての存在。
シリイさんは、先輩たちが酷い扱いを受けてるのを知ってて黙認してる。あの精霊が言ってたみたいに、元の世界では処刑される所を召喚で救ったから仕方ないって? 犯罪者だから、そんな扱い当然って?
でも、それでも……。
ううん、違う。お互い様だ。私達、聖女だって対価をもらってる。贅沢な暮らしをもらってるんだ。本当は死ぬはずだったのに、命を助けてもらった。生活も保証してもらえる。貴族と契約したら、贅沢な部屋で豪華な食事ができる。それが交換条件。それが契約で、この世界の決まり。
この世界で生きてくって決めたから、ここのルールに合わせなきゃ。でも、でも。
「後宮って何?」
一番引っかかるのがこれだった。
シリィさんは気まずそうな顔をした。
「後宮のことは、人間には知らされないの」
「シリイさんが知ってることだけでも、教えて」
あの日、召喚された時、女性は1年生クラスの人数25人よりも、もっといた。
私が気づいていないって思ってるかもしれないけど、私は数字が得意。一瞬で数えることができる。
28人。いたのは28人だ。
てっきり、死を覚悟して、元の世界に帰還したんだって思っていたけど。
「召喚者の中から聖力がAランクの女性を精霊界に送る。これが、聖女召喚に魔力を貸してもらう条件なのよ。おそらく彼女たちは、精霊王の後宮に入っていると思われるわ」
しぶしぶ、シリィさんは機密情報を話した。
「契約書には、精霊界に送るのは『Aランクの聖女』としか書いてない。……だからあなたはここにいるのよ」
私は、Sランク。ふざけた数値のSが3つ並ぶ。確かにAランクじゃない。
「後宮がどんなところなのか、後宮に行った聖女がどうなるのかは、人間には知らされないのよ」
ため息をついたシリィさんは、つらそうな顔をした。
「それでも、精霊の協力が必要で、私たちリヴァンデール同盟国は毎年、聖女召喚を行う。これは決まったことなのよ」
甘いはずのココアは苦かった。
私は運がよかったのだろうか。
口外無用で。
シリィさんと約束をして、部屋に帰った。
すこし、整理する時間が必要だった。
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