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39 虹色の聖女

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 聖女の杖を手に持ち、髪色と同じ魔力を注ぐ。
 初めは、リュカ様の金色。
 杖につけられた大きな虹色の魔石が黄金に輝く。

 それから、青の公爵の伯父様を見つめる。
 私の髪色は、青く染まる。

 貴族たちが息をのむ音が聞こえてくる。
 杖の魔石に触れると、青の魔力が混ざる。
 ぐるぐると金と青がまだらになって光りだす。

 そして次は、私をじっと見ている赤の公爵。
 さっと髪色を赤く染めると、公爵は歓声をあげた。

「さすが聖女だ! 我が家の赤も良くお似合いだ!」

 軽く会釈して、すぐに魔石に魔力を込める。
 金の上に赤と青の線が混じりあう。

 最後は緑。
 緑の公爵は私に深くお辞儀をした。
 ブリーゼさんよりも濃い緑色。
 私の髪は緑色に輝いて、そして、杖の魔石が完成する。

 緑が魔石に加わると、金色の上に虹ができた。
 キラキラ輝きながら、まぶしく光る。

 これが、聖女の杖の儀式。

 国王陛下に手渡した聖女の杖は、礼拝堂の天井に向けられる。
 そして光が溢れて、天上に虹がかかる。国の根幹の魔道具が動き出す。この国に魔物を通さない結界。そして、魔障を癒す浄化の光。

 これが、本来の建国の儀式。

 大歓声が止まない中、私はリュカ様のエスコートを受けて、舞台上に立つ。
 二人で、手をつないで貴族たちの前に立つ。リュカ様は私の頬にキスをした。

 聖女にして、第二王子の婚約者。それが今の私の立ち位置だ。


 ◇◇◇◇◇

 建国祭の一月前、養子縁組の手続きが終わった後で、公爵家に行った。久しぶりのお兄様とのお茶会。今は書類上では兄と妹になった。

「アリア。これからはずっと一緒だよ。王族に嫁がなくても大丈夫。僕が必ず守ってあげるよ」

 お兄様は、笑顔を浮かべて私に手を伸ばす。体をひねってそれを避けると、お兄様は驚いたように目を見張った。そして傷ついたように私を見る。ずきりと胸が痛んだ。大好きな大切なお兄様。

「私はもう、色なしのかわいそうな妹じゃないのよ。聖女には専属の騎士団がつくわ」

 お兄様を傷つけたくはない。でも、言わないと。
 私はお兄様の青い瞳をまっすぐに見て告げた。

「だからもう、お兄様に守ってもらう必要はないの」

「そんなことはない! アリアのことを守れるのは僕だけだ! いつだって、アリアは僕だけのモノだ!」

「私は、お兄様モノじゃない!」

 お兄様が大声を出すので、私も叫んだ。

「私は、もっといろんなことを経験したいの! たくさんの人に出会って、成長したいの! 家に閉じこもっているのは、もう、うんざり!」

「だめだ! アリアが聖女になったなら、まわりは危険ばかりだ。聖女を狙う者も大勢いる。この前の商人のような輩が、アリアを傷つける。頼むから、そんな危ないことをしないでくれ」

「いやよ! 私の人生は私が決めるわ。もう、放っておいて」

 お兄様の手を振り払って、私は後ろに下がった。

「……ごめんなさい」

 小さくつぶやいて、くるりと背を向ける。
 お兄様のことは大好きだけれど、このまま一緒にいるのはきっと良くない。私にとっても、お兄様にとっても。

 今すぐお兄様の腕の中に戻って、優しい眼差しで見つめられたい。いつものように、甘やかしてもらいたい。
 そんな感情を押し殺して、私はお兄様とお別れする。

 ごめんなさい。ごめんなさい。
 お兄様。……ずっと、大好き。




 王宮の部屋に戻ると、リュカ様が待っていてくれた。
 両手を広げて私を迎えてくれる。
 私はその腕の中に飛び込んで、こらえていた涙をこぼした。

「私、リュカ様の求婚を受けます」

 そう言うと、リュカ様は、金色の笑顔になって、私の唇にキスをした。
 初めての口づけは、涙の味がした。

 きっと、私はこの人を好きになる。

 だって、彼は今の私を求めてくれるから。
 私はもう、家に閉じこもって泣いていた色なしの女の子じゃない。今の私には、涙を拭いて、先に進む力がある。

 リュカ様の黄金の目に映っているのは、かわいそうな色なしの女の子なんかじゃなくて、聖女として活躍しようとする女の子だから。
 私は、今の自分の方が好きだから。
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