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38 青の一族
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リュカ様と入れ替わるように、ルルーシア様が部屋に入ってきた。
良かった。元気そうだ。どこもケガをしていない?
「あなた、聖女だったんですってね」
「それは……、そう言われましたけど」
正直、聖女がどういう存在なのか、よくわからない。光の魔法と三大魔法を使えたってことぐらいしか。
「聖女の髪色は金であり、青で赤で緑。そう伝わっているわ。今のあなたはお兄様と同じ黄金だけれど、紫にもなったんでしょう?」
「あ、はい」
毒紫蝶の紫色に染めた。私に触った人は、毒紫蝶に触ったかのようにかゆくて苦しんだ。手を切り落としたバルザック家の使用人を見て、ちょっとやりすぎたかなって思ったけど。
「……やっぱり、色なしじゃなかったのね」
小さな声が聞こえた。
そこには悲しみが溢れていた。
ルルーシア様は私の肩を掴んだ。
「ルルーシア様?」
「ねえ、あなたの力で私に魔力を与えることはできないの? 聖女は魔力を奪うだけでなく、与えることもできたそうよ」
「それは……」
「王族の金色はあなたには必要ないでしょう? 渡しなさい」
肩にかかったルルーシア様の髪を手に取り、願う。
――ルルーシア様が魔法を使えるようになりますように
でも、何も起きない。
私には、ルルーシア様の悩みを解決することはできない。
「ふふ、やっぱり役立たずよね。あなたなんて侍女失格よ! いいわ、クビよ。色なしじゃない侍女なんて、いらないわ! あは、あはは」
ルルーシア様は、笑いながら部屋から出て行った。私は、その姿をただ黙って見ているしかできなかった。
まるで、以前の自分の姿を見ているみたいで、心がとても痛かった。無価値の色なしと言われていた時、どうしようもなくつらかった。ルルーシア様のために何かしたかったけど、私にはどうすることもできない。
侍女は降ろされたけれど、私は王宮に滞在して魔障の浄化をすることになった。
魔法の使えないルルーシア様の代わりに、聖女として浄化する。
そして、教育を受け、建国祭では聖女としてお披露目されることになった。
「久しぶりだな」
来客は青い髪のブラウローゼ公爵だった。伯父様と話をするのは、お父様の葬式以来だ。
「おまえが聖女になったことで、おまえの母親の罪は許された。それで、私の娘として養子縁組が整った」
伯父様は養女になる書類にサインさせるために来たのだ。
「お母様の罪?」
「そうだ。国王の側妃になるのを断り、子爵と駆け落ち結婚した罪だ」
「でも、王様が初めにお母様との婚約を破棄したんでしょう? お母様を捨てて、王妃様を選んだくせに。それなのに、そんなのおかしい」
「それが王族だ。金の魔力を持つ王族は、どんなことをしても許される。おまえは今まで、平民同然の暮らしをしてきたから何も知らないのだ。今後、聖女として生きるなら、私が後ろ盾になろう」
書類の中に、子爵の叔父のサインがあった。私に対する一切の権利を放棄すると。
「聖女が身内になったら、利用価値があるから養女にするの?」
子爵は厄介者の私を喜んで手放したの? それとも、ようやく価値が出てきたけれど、公爵家に逆らえないから?
どうでもいいことが気になった。
「それだけではない。子爵はおまえの世話を全くしていなかったからな」
「でも、子爵の叔父様は、私の生活費を出してくれてたわ」
メイドのマーサを雇う費用。それに、食料品を買うお金も銀行に振り込まれていた。
「何を言っている? 知らないのか? それらは全てギルベルトの金だ」
お兄様が?
「ギルベルトは、おまえを『妹』として館に招いた日から、自分に割り当てられた予算をおまえに使っていた」
うそ。
お兄様は、いつだって優しくて、私のことを心配してくれて。それだけじゃなくて、私が今まで生きてこられたのは、全部お兄様のおかげなの?
「色なしでなく聖女ならば、結婚することも可能だ。しかし、リュカ王子の求婚の返事をしていないと聞いた」
お兄様のことで頭がいっぱいになる。目の前のお兄様と同じ青い髪を見つめた。
「王族との婚姻が嫌ならば、力になろう。妹の時は守れなかったからな。それに、今の王族は以前ほど権力を持っていない」
さらりと、髪に触れる。伯父様の目の前で、私の髪色は青く染まった。いつもあこがれていた、空よりも蒼い、お兄様と同じ色に。
良かった。元気そうだ。どこもケガをしていない?
「あなた、聖女だったんですってね」
「それは……、そう言われましたけど」
正直、聖女がどういう存在なのか、よくわからない。光の魔法と三大魔法を使えたってことぐらいしか。
「聖女の髪色は金であり、青で赤で緑。そう伝わっているわ。今のあなたはお兄様と同じ黄金だけれど、紫にもなったんでしょう?」
「あ、はい」
毒紫蝶の紫色に染めた。私に触った人は、毒紫蝶に触ったかのようにかゆくて苦しんだ。手を切り落としたバルザック家の使用人を見て、ちょっとやりすぎたかなって思ったけど。
「……やっぱり、色なしじゃなかったのね」
小さな声が聞こえた。
そこには悲しみが溢れていた。
ルルーシア様は私の肩を掴んだ。
「ルルーシア様?」
「ねえ、あなたの力で私に魔力を与えることはできないの? 聖女は魔力を奪うだけでなく、与えることもできたそうよ」
「それは……」
「王族の金色はあなたには必要ないでしょう? 渡しなさい」
肩にかかったルルーシア様の髪を手に取り、願う。
――ルルーシア様が魔法を使えるようになりますように
でも、何も起きない。
私には、ルルーシア様の悩みを解決することはできない。
「ふふ、やっぱり役立たずよね。あなたなんて侍女失格よ! いいわ、クビよ。色なしじゃない侍女なんて、いらないわ! あは、あはは」
ルルーシア様は、笑いながら部屋から出て行った。私は、その姿をただ黙って見ているしかできなかった。
まるで、以前の自分の姿を見ているみたいで、心がとても痛かった。無価値の色なしと言われていた時、どうしようもなくつらかった。ルルーシア様のために何かしたかったけど、私にはどうすることもできない。
侍女は降ろされたけれど、私は王宮に滞在して魔障の浄化をすることになった。
魔法の使えないルルーシア様の代わりに、聖女として浄化する。
そして、教育を受け、建国祭では聖女としてお披露目されることになった。
「久しぶりだな」
来客は青い髪のブラウローゼ公爵だった。伯父様と話をするのは、お父様の葬式以来だ。
「おまえが聖女になったことで、おまえの母親の罪は許された。それで、私の娘として養子縁組が整った」
伯父様は養女になる書類にサインさせるために来たのだ。
「お母様の罪?」
「そうだ。国王の側妃になるのを断り、子爵と駆け落ち結婚した罪だ」
「でも、王様が初めにお母様との婚約を破棄したんでしょう? お母様を捨てて、王妃様を選んだくせに。それなのに、そんなのおかしい」
「それが王族だ。金の魔力を持つ王族は、どんなことをしても許される。おまえは今まで、平民同然の暮らしをしてきたから何も知らないのだ。今後、聖女として生きるなら、私が後ろ盾になろう」
書類の中に、子爵の叔父のサインがあった。私に対する一切の権利を放棄すると。
「聖女が身内になったら、利用価値があるから養女にするの?」
子爵は厄介者の私を喜んで手放したの? それとも、ようやく価値が出てきたけれど、公爵家に逆らえないから?
どうでもいいことが気になった。
「それだけではない。子爵はおまえの世話を全くしていなかったからな」
「でも、子爵の叔父様は、私の生活費を出してくれてたわ」
メイドのマーサを雇う費用。それに、食料品を買うお金も銀行に振り込まれていた。
「何を言っている? 知らないのか? それらは全てギルベルトの金だ」
お兄様が?
「ギルベルトは、おまえを『妹』として館に招いた日から、自分に割り当てられた予算をおまえに使っていた」
うそ。
お兄様は、いつだって優しくて、私のことを心配してくれて。それだけじゃなくて、私が今まで生きてこられたのは、全部お兄様のおかげなの?
「色なしでなく聖女ならば、結婚することも可能だ。しかし、リュカ王子の求婚の返事をしていないと聞いた」
お兄様のことで頭がいっぱいになる。目の前のお兄様と同じ青い髪を見つめた。
「王族との婚姻が嫌ならば、力になろう。妹の時は守れなかったからな。それに、今の王族は以前ほど権力を持っていない」
さらりと、髪に触れる。伯父様の目の前で、私の髪色は青く染まった。いつもあこがれていた、空よりも蒼い、お兄様と同じ色に。
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