2 / 41
2 緑の婚約者
しおりを挟む
今日のパーティで、お兄様の婚約者が披露される。
「ギルお兄様、あのね、」
お兄様と婚約者の邪魔になりたくない。
だから、もう公爵家には来ない方がいいのかな? そう聞こうとしたのだけど、
「うん?」
私の方を向いて微笑むお兄様の瞳が、あんまりにも綺麗に青く輝いていたから、次の言葉を続けられなくなってしまう。
「ううん、何でもないの」
もう少しだけ。
お兄様が結婚するまでは、毎週のお茶会を続けたい。それくらいなら、婚約者の人も許してくれる?
だって、お兄様にとって、私はただの「妹」なんだから……。
「アリア。少しだけ待っててほしい。婚約したことで、父の許しが出たから……」
お兄様は私に顔を寄せて、内緒話をするようにささやいた。触れそうなほど近い綺麗な顔に、体がかっと熱くなる。
伯父様の許し? 何のこと? 言っていることが全然頭に入ってこない。吐息が耳に触れる。
「……だから、これからもっと一緒にいられるように……」
お兄様から薔薇の香りがする。ううん、これは庭園の薔薇。お兄様からじゃない。でも、あんまりにも甘く香るから、お兄様にくらくらする。
「ギルベルト様! こちらにいらしたのですのね!」
突然、甲高い声が響いて、私達はパッと距離を取った。
緑色のくねくねした髪を揺らしながら、青いドレスの女の人が走ってくる。きっと、お兄様の婚約者になったブリーゼ・ヴィント伯爵令嬢だ。
「皆が探し回ってましたのよ。って、何をしてるんですの!?」
ブリーゼさんは、お兄様と手を繋いだままの私を見て、緑色の目をつりあげた。
「ギルベルト様から離れなさいよ!」
ブリーゼさんが私の腕をつかんだ。そして、無理やりお兄様と引き離される。
「ブリーゼ嬢! 何をするんだ」
お兄様は私をかばうように立ち上がり、ブリーゼさんをにらみつけた。
「浮気なんて、あんまりですわ!」
「何を言ってるんだ!? 彼女は僕の従妹だ! 妹のような存在だ」
「従妹?! この子が? うそよ。だって、従妹は色なしだって言ってたじゃない……。だって、全然子供じゃないわ!」
「アリアは奇跡なんだよ。この年まで、元気に生きてくれている。髪と目も、白ではなく美しい銀色だ。僕の宝物だよ」
「そんな……。色なしは病弱で成長できないはず……」
「アリアは、健康だよ。でも、かわいそうな子なんだ。無色で、魔力なしだからって、苦しんでいる。両親を亡くして寂しい思いをしているんだ。彼女を守れるのは僕しかいない。君が僕と結婚するのなら、契約通り、彼女には優しくしてあげてほしい」
かわいそうな子。
ギルお兄様の言葉に、悲しくなる。私はかわいそうなの? 私が寂しい子だから、お兄様は優しくしてくれるの?
「でも……だって……色なしは、病弱で子供のうちに死ぬっていうから……だから私、承諾したのに」
「なんてひどいことを言うんだ!」
「ち、違うわ! あなたがいけないのよ。婚約発表の時間なのに、私のことを放って、こんな子と二人きりでいるなんて! みんなあなたを探してるのよ!」
「ああ……そんな時間か」
お兄様は顔をしかめてため息をついた。そして、私の頭をなでた。
「ごめん、アリア。もう行かないと。メイドにケーキを持って来させるから、ここでゆっくりして行くといいよ。また、来るからね」
そして、私の頭にキスを落として、パーティ会場に向って行った。
ブリーゼさんは小走りにその後を追いかける。
でも、途中で立ち止まり、振り返って、緑色の目で私をにらみつけた。
彼女の唇が「消えろ」と声を出さずに動いた。
魔力なしの無色の子は、すぐに死んでしまう。
魔力を持たないせいで、体が弱く、子供のうちに儚くなってしまうのだ。
今まで7歳を超えて生きられた子供はいなかった。
でも、私は無色だけど、魔力なしじゃない。だって、糸を染色できたもの。染色不可能の魔物蟹の糸を、鮮やかな薔薇の色に変えることができるのだから。
だから、本当は魔力があるんだと思う。
でも、……。
それが何になるっていうの?
私の髪と目の色は、「色なし」の銀色。セレスト子爵家の娘なら、水の魔力を持つのが当然のことなのに。私は、ただ、魔物蟹の糸に色を付ける魔法が使えるだけ。
恥ずかしくて、そんなことは誰にも言えない。
ポシェットから白い糸を取り出す。
早く全部染めてしまおう。白色なんて、大きらい。
綺麗な薔薇の色に、全ての糸を染めつくそう。
無色なんかじゃない鮮やかな色に、全部変えてやるんだから。
「ギルお兄様、あのね、」
お兄様と婚約者の邪魔になりたくない。
だから、もう公爵家には来ない方がいいのかな? そう聞こうとしたのだけど、
「うん?」
私の方を向いて微笑むお兄様の瞳が、あんまりにも綺麗に青く輝いていたから、次の言葉を続けられなくなってしまう。
「ううん、何でもないの」
もう少しだけ。
お兄様が結婚するまでは、毎週のお茶会を続けたい。それくらいなら、婚約者の人も許してくれる?
だって、お兄様にとって、私はただの「妹」なんだから……。
「アリア。少しだけ待っててほしい。婚約したことで、父の許しが出たから……」
お兄様は私に顔を寄せて、内緒話をするようにささやいた。触れそうなほど近い綺麗な顔に、体がかっと熱くなる。
伯父様の許し? 何のこと? 言っていることが全然頭に入ってこない。吐息が耳に触れる。
「……だから、これからもっと一緒にいられるように……」
お兄様から薔薇の香りがする。ううん、これは庭園の薔薇。お兄様からじゃない。でも、あんまりにも甘く香るから、お兄様にくらくらする。
「ギルベルト様! こちらにいらしたのですのね!」
突然、甲高い声が響いて、私達はパッと距離を取った。
緑色のくねくねした髪を揺らしながら、青いドレスの女の人が走ってくる。きっと、お兄様の婚約者になったブリーゼ・ヴィント伯爵令嬢だ。
「皆が探し回ってましたのよ。って、何をしてるんですの!?」
ブリーゼさんは、お兄様と手を繋いだままの私を見て、緑色の目をつりあげた。
「ギルベルト様から離れなさいよ!」
ブリーゼさんが私の腕をつかんだ。そして、無理やりお兄様と引き離される。
「ブリーゼ嬢! 何をするんだ」
お兄様は私をかばうように立ち上がり、ブリーゼさんをにらみつけた。
「浮気なんて、あんまりですわ!」
「何を言ってるんだ!? 彼女は僕の従妹だ! 妹のような存在だ」
「従妹?! この子が? うそよ。だって、従妹は色なしだって言ってたじゃない……。だって、全然子供じゃないわ!」
「アリアは奇跡なんだよ。この年まで、元気に生きてくれている。髪と目も、白ではなく美しい銀色だ。僕の宝物だよ」
「そんな……。色なしは病弱で成長できないはず……」
「アリアは、健康だよ。でも、かわいそうな子なんだ。無色で、魔力なしだからって、苦しんでいる。両親を亡くして寂しい思いをしているんだ。彼女を守れるのは僕しかいない。君が僕と結婚するのなら、契約通り、彼女には優しくしてあげてほしい」
かわいそうな子。
ギルお兄様の言葉に、悲しくなる。私はかわいそうなの? 私が寂しい子だから、お兄様は優しくしてくれるの?
「でも……だって……色なしは、病弱で子供のうちに死ぬっていうから……だから私、承諾したのに」
「なんてひどいことを言うんだ!」
「ち、違うわ! あなたがいけないのよ。婚約発表の時間なのに、私のことを放って、こんな子と二人きりでいるなんて! みんなあなたを探してるのよ!」
「ああ……そんな時間か」
お兄様は顔をしかめてため息をついた。そして、私の頭をなでた。
「ごめん、アリア。もう行かないと。メイドにケーキを持って来させるから、ここでゆっくりして行くといいよ。また、来るからね」
そして、私の頭にキスを落として、パーティ会場に向って行った。
ブリーゼさんは小走りにその後を追いかける。
でも、途中で立ち止まり、振り返って、緑色の目で私をにらみつけた。
彼女の唇が「消えろ」と声を出さずに動いた。
魔力なしの無色の子は、すぐに死んでしまう。
魔力を持たないせいで、体が弱く、子供のうちに儚くなってしまうのだ。
今まで7歳を超えて生きられた子供はいなかった。
でも、私は無色だけど、魔力なしじゃない。だって、糸を染色できたもの。染色不可能の魔物蟹の糸を、鮮やかな薔薇の色に変えることができるのだから。
だから、本当は魔力があるんだと思う。
でも、……。
それが何になるっていうの?
私の髪と目の色は、「色なし」の銀色。セレスト子爵家の娘なら、水の魔力を持つのが当然のことなのに。私は、ただ、魔物蟹の糸に色を付ける魔法が使えるだけ。
恥ずかしくて、そんなことは誰にも言えない。
ポシェットから白い糸を取り出す。
早く全部染めてしまおう。白色なんて、大きらい。
綺麗な薔薇の色に、全ての糸を染めつくそう。
無色なんかじゃない鮮やかな色に、全部変えてやるんだから。
3
お気に入りに追加
395
あなたにおすすめの小説
捨てられ聖女の私が本当の幸せに気付くまで
海空里和
恋愛
ラヴァル王国、王太子に婚約破棄されたアデリーナ。
さらに、大聖女として国のために瘴気を浄化してきたのに、見えない功績から偽りだと言われ、国外追放になる。
従者のオーウェンと一緒に隣国、オルレアンを目指すことになったアデリーナ。しかし途中でラヴァルの騎士に追われる妊婦・ミアと出会う。
目の前の困っている人を放っておけないアデリーナは、ミアを連れて隣国へ逃げる。
そのまた途中でフェンリルの呼びかけにより、負傷したイケメン騎士を拾う。その騎士はなんと、隣国オルレアンの皇弟、エクトルで!?
素性を隠そうとオーウェンはミアの夫、アデリーナはオーウェンの愛人、とおかしな状況に。
しかし聖女を求めるオルレアン皇帝の命令でアデリーナはエクトルと契約結婚をすることに。
未来を諦めていたエクトルは、アデリーナに助けられ、彼女との未来を望むようになる。幼い頃からアデリーナの側にいたオーウェンは、それが面白くないようで。
アデリーナの本当に大切なものは何なのか。
捨てられ聖女×拗らせ従者×訳アリ皇弟のトライアングルラブ!
※こちら性描写はございませんが、きわどい表現がございます。ご了承の上お読みくださいませ。
【完結】初恋の騎士様の事が忘れられないまま、帝国の公爵様に嫁ぐことになりました
るあか
恋愛
リーズレット王女は、幼少期に一緒に遊んでくれていた全身鎧の騎士に恋をしていた。
しかし、その騎士は姉のマーガレットに取られてリーズレットのもとからいなくなってしまう。
それでもその初恋が忘れられないまま月日は流れ、ついに彼女の恐れていた事態が次々と訪れる。
一途に初恋の騎士を想い続けてきた彼女に待っていたものは……。
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです
じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」
アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。
金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。
私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
竜神に愛された令嬢は華麗に微笑む。〜嫌われ令嬢? いいえ、嫌われているのはお父さまのほうでしてよ。〜
石河 翠
恋愛
侯爵令嬢のジェニファーは、ある日父親から侯爵家当主代理として罪を償えと脅される。
それというのも、竜神からの預かりものである宝石に手をつけてしまったからだというのだ。
ジェニファーは、彼女の出産の際に母親が命を落としたことで、実の父親からひどく憎まれていた。
執事のロデリックを含め、家人勢揃いで出かけることに。
やがて彼女は別れの言葉を告げるとためらいなく竜穴に身を投げるが、実は彼女にはある秘密があって……。
虐げられたか弱い令嬢と思いきや、メンタル最強のヒロインと、彼女のためなら人間の真似事もやぶさかではないヒロインに激甘なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:4950419)をお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる