28 / 33
28 失望
しおりを挟む
神殿に帰ってからは、ずっとベッドの中で過ごした。メアリーが心配そうに私に話しかけたけれど、それすらも、うっとうしく感じて、返事もしなかった。
ただ、もってきた食事を無理やり口に入れて、眠るだけ。そんな日が三日続くと、聖水を必要とする神殿長に命じられたメアリーが聖なる泉の水の入った小瓶を部屋に持ってきた。しぶしぶ手に取って握りしめた。
でも、ビンは光らずに、聖水ができることはなかった。
魔力が尽きてしまったのか?
驚いたメアリーが神殿長に報告に行った。
お見舞いに来た神殿長は、私の体を気遣うよりも聖水のことばかり心配していた。どうやっても作れないと言うと失望した表情で部屋を出て行った。
何日たっても私の魔力が戻らず、聖水が作れない。
神殿長は部屋に来なくなった。だから、もう、神殿を出よう。聖水すら作れなくなった私には何の価値もないでしょう?
私は侯爵家に戻ることを考えた。
父母に会うのは嫌だった。
でも、神殿に残って、市街地に出た魔物を退治した王子とその横で活躍したオディットの話を聞くのは、もっと嫌だった。
神殿を出る時には、メアリーには田舎に帰ってもらうことにした。幼馴染との婚約が整ったと言っていたもの。こんな私についている必要はないわ。最後に一つだけお願いをして、侯爵家に帰る時に別れた。涙を浮かべて別れの言葉を言うメアリーに、私も一緒になって泣いた。彼女の明るさと率直さに今まで何度も助けられていた。
久しぶりに帰ったデュボア侯爵家は、あまりいい状態じゃなかった。父は私を優しく気遣っていたけれど、イライラと使用人に当たり散らしていた。ゴシップ誌に私のことが悪く書かれているらしい。メイドの立ち話を聞いたら、私が治療院で使った聖水の代金を神殿騎士が取り立てに来たらしい。平民は払えずに借金奴隷になったとか。私は守銭奴聖女と呼ばれ、評判が下落していた。代わりに、無料で治療魔法を使って癒すオディットの評判が上がっている。
母が私を慰めに付きまとうかと思ったけれど、母も部屋にこもりきりで食事にも来ない。セドリックの声が聞こえないように、離れで生活しているそうだ。
私が戻って来た時も、警戒するかのように遠くから私を見るだけだった。
私は自室に閉じこもって、リリアーヌの日記の続きを書いた。
目覚めてから、今までのことを。毎日の気持ちの変化を。
そうして過ごしているうちに、婚約披露パーティの日が来た。
侍女に豪華なドレスを着せられて、久しぶりに部屋の外へ出た。
大丈夫。最後に会った時に、アルフ様は私を愛していると言ってくれた。私は彼の婚約者よ。王子妃になるの。魔力が戻らなかったら大聖女にはなれないけれど、魔力譲渡しなくてすむからこれでよかったのよ。
私はアルフ様と一緒になって、幸せになるの。
アルフ様は迎えに来てくれなかった。でも、王宮の馬車を送ってくれたわ。だから、アルフ様のくれた青いドレスを身にまとって、私は一人で王宮へ行くことにした。父と母には後から来るように伝えて。
まさかそこで、断罪が行われるなんて、知らずに。
断罪は王宮の控室でアルフ様とオディットによって行われた。
妹の魔力譲渡と魔力核の移植手術の罪で私は裁かれた。
元執事の日記が証拠らしい。
もう、何も考えたくない。
疲れてしまった。
修道院に入り、謝罪しながら一生を過ごすのならば、侯爵家を罪に問わないというアルフ様の提案は断った。
なぜ、私一人が犠牲にならないといけないの?
もう、全てを明らかにしてしまおう。これ以上、秘密を抱えてリリアーヌとして生きるのは疲れた。
私は裁判を望んだ。
ただ、もってきた食事を無理やり口に入れて、眠るだけ。そんな日が三日続くと、聖水を必要とする神殿長に命じられたメアリーが聖なる泉の水の入った小瓶を部屋に持ってきた。しぶしぶ手に取って握りしめた。
でも、ビンは光らずに、聖水ができることはなかった。
魔力が尽きてしまったのか?
驚いたメアリーが神殿長に報告に行った。
お見舞いに来た神殿長は、私の体を気遣うよりも聖水のことばかり心配していた。どうやっても作れないと言うと失望した表情で部屋を出て行った。
何日たっても私の魔力が戻らず、聖水が作れない。
神殿長は部屋に来なくなった。だから、もう、神殿を出よう。聖水すら作れなくなった私には何の価値もないでしょう?
私は侯爵家に戻ることを考えた。
父母に会うのは嫌だった。
でも、神殿に残って、市街地に出た魔物を退治した王子とその横で活躍したオディットの話を聞くのは、もっと嫌だった。
神殿を出る時には、メアリーには田舎に帰ってもらうことにした。幼馴染との婚約が整ったと言っていたもの。こんな私についている必要はないわ。最後に一つだけお願いをして、侯爵家に帰る時に別れた。涙を浮かべて別れの言葉を言うメアリーに、私も一緒になって泣いた。彼女の明るさと率直さに今まで何度も助けられていた。
久しぶりに帰ったデュボア侯爵家は、あまりいい状態じゃなかった。父は私を優しく気遣っていたけれど、イライラと使用人に当たり散らしていた。ゴシップ誌に私のことが悪く書かれているらしい。メイドの立ち話を聞いたら、私が治療院で使った聖水の代金を神殿騎士が取り立てに来たらしい。平民は払えずに借金奴隷になったとか。私は守銭奴聖女と呼ばれ、評判が下落していた。代わりに、無料で治療魔法を使って癒すオディットの評判が上がっている。
母が私を慰めに付きまとうかと思ったけれど、母も部屋にこもりきりで食事にも来ない。セドリックの声が聞こえないように、離れで生活しているそうだ。
私が戻って来た時も、警戒するかのように遠くから私を見るだけだった。
私は自室に閉じこもって、リリアーヌの日記の続きを書いた。
目覚めてから、今までのことを。毎日の気持ちの変化を。
そうして過ごしているうちに、婚約披露パーティの日が来た。
侍女に豪華なドレスを着せられて、久しぶりに部屋の外へ出た。
大丈夫。最後に会った時に、アルフ様は私を愛していると言ってくれた。私は彼の婚約者よ。王子妃になるの。魔力が戻らなかったら大聖女にはなれないけれど、魔力譲渡しなくてすむからこれでよかったのよ。
私はアルフ様と一緒になって、幸せになるの。
アルフ様は迎えに来てくれなかった。でも、王宮の馬車を送ってくれたわ。だから、アルフ様のくれた青いドレスを身にまとって、私は一人で王宮へ行くことにした。父と母には後から来るように伝えて。
まさかそこで、断罪が行われるなんて、知らずに。
断罪は王宮の控室でアルフ様とオディットによって行われた。
妹の魔力譲渡と魔力核の移植手術の罪で私は裁かれた。
元執事の日記が証拠らしい。
もう、何も考えたくない。
疲れてしまった。
修道院に入り、謝罪しながら一生を過ごすのならば、侯爵家を罪に問わないというアルフ様の提案は断った。
なぜ、私一人が犠牲にならないといけないの?
もう、全てを明らかにしてしまおう。これ以上、秘密を抱えてリリアーヌとして生きるのは疲れた。
私は裁判を望んだ。
26
お気に入りに追加
1,094
あなたにおすすめの小説
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。
そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。
悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。
「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」
こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。
新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!?
⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】
小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」
私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。
退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?
案の定、シャノーラはよく理解していなかった。
聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……
幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】
小平ニコ
恋愛
「パメラが熱を出したから、今日は約束の場所に行けなくなった。今度埋め合わせするから許してくれ」
ジョセフはそう言って、婚約者である私とのデートをキャンセルした。……いったいこれで、何度目のドタキャンだろう。彼はいつも、体の弱い幼馴染――パメラを優先し、私をないがしろにする。『埋め合わせするから』というのも、口だけだ。
きっと私のことを、適当に謝っておけば何でも許してくれる、甘い女だと思っているのだろう。
いい加減うんざりした私は、ジョセフとの婚約関係を終わらせることにした。パメラは嬉しそうに笑っていたが、ジョセフは大いにショックを受けている。……それはそうでしょうね。私のお父様からの援助がなければ、ジョセフの家は、貴族らしい、ぜいたくな暮らしを続けることはできないのだから。
聖水を作り続ける聖女 〜 婚約破棄しておきながら、今さら欲しいと言われても困ります!〜
手嶋ゆき
恋愛
「ユリエ!! お前との婚約は破棄だ! 今すぐこの国から出て行け!」
バッド王太子殿下に突然婚約破棄されたユリエ。
さらにユリエの妹が、追い打ちをかける。
窮地に立たされるユリエだったが、彼女を救おうと抱きかかえる者がいた——。
※一万文字以内の短編です。
※小説家になろう様など他サイトにも投稿しています。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる