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第132話 小さな弟子の大きな決意
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自室にて。僕は黙々と、明日ダンジョン調査に着て行くローブの準備をしていた。
台所から、夕飯を作っているラフィナの鼻歌が聞こえてくる。
全く……ラフィナのせいでとんでもないことになった。
怒ってやろうかとも思ったが、怒ったところで状況が変わるわけでもないので、そこは我慢した。
それに万が一泣かれでもしたら、僕が彼女を苛めているなんて変な噂が立つかもしれないし……
それにしても、明日のダンジョン調査。
ラフィナも行くって言ってたけど、彼女はダンジョンが危険な場所だって理解してないのだろうか。
いくら冒険者たちが護衛してくれるとはいっても、魔物と相対するのは少なからず恐怖を感じることだと思うんだけど。
……僕が臆病なだけなのかな。
そう思うと、ちょっぴり自分が情けなくなった。
「師匠、食事ができました」
「あ……うん。ありがとう」
ローブをハンガーに吊るして壁に掛けて、リビングに向かう。
夕飯のメニューはロールキャベツだった。キャベツが良い色をしていて実に美味そうな一品だ。
僕も今まで一人暮らしをしていた身だから料理はそこそこできる方だが、ここまで手の込んだ料理を作ることはない。
腹が膨れればいいやって考え方だったから、どうしても簡単な男の料理になっちゃうんだよね。
「相変わらず料理が上手いね」
「これでもお屋敷で働いていたことがあるので、料理の腕には自信があります」
えへんと胸を張るラフィナ。
僕はラフィナからフォークを受け取って、席に着いた。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきまーす」
フォークでロールキャベツに切れ目を入れる。
さくりとキャベツが裂けて、中から汁が溢れる肉が顔を覗かせた。
よく見ると、肉の中に細かく刻んだ野菜が入っている。
野菜を入れて具をかさ増ししたのか。よく考えてるなぁ。
一口サイズにロールキャベツを切り分けて、口へと運ぶ。
キャベツの甘味と肉の旨味が絶妙なバランスで互いを引き立て合っている。これは次々と頬張りたくなる美味さだ。
ロールキャベツを食べながら、僕はラフィナに尋ねた。
「明日……本気で付いて来るつもりなの?」
「はい! 何処までも師匠にお供するつもりです!」
口の中のものを飲み込んで返事するラフィナ。
僕は小さな溜め息をついて、言った。
「あのね、ダンジョンは危険な場所なんだよ。いくら冒険者さんが守ってくれるといっても、絶対に危険がないわけじゃないんだ。分かってる?」
「それは、分かってます。冒険者だった両親から、色々聞いているので」
でも、と彼女は言った。
「世界を渡り歩く錬金術師になるために、色々な経験をしたいんです。ダンジョンで活躍する師匠を見て、ダンジョンで錬金術師が働くにはどうすればいいのかを学びたいんです」
……本当に、勉強熱心だね。この子は。
学ぶために危険な場所にも行こうとする、そのやる気と熱意には脱帽するよ。
そこまで言うのなら、僕もこれ以上は言わないことにしておこう。
彼女の本気がどれほどのものなのか、見せてもらおうじゃないか。
「……分かった。ラフィナがそれだけの決意を持ってるのなら、僕はこれ以上は言わないでおく。自分の行動にしっかり責任を持って、学びたいことを学びなさい」
「はい!」
彼女は僕の言葉に嬉しそうに返事をして、大きな口でロールキャベツを頬張った。
調査で僕がどれだけ役に立つかは分からないけど、錬金術師として働いている姿をしっかりと彼女に見せよう。
明日は自分なりに頑張ろう、と小さく決意して、僕はロールキャベツを口に運んだ。
台所から、夕飯を作っているラフィナの鼻歌が聞こえてくる。
全く……ラフィナのせいでとんでもないことになった。
怒ってやろうかとも思ったが、怒ったところで状況が変わるわけでもないので、そこは我慢した。
それに万が一泣かれでもしたら、僕が彼女を苛めているなんて変な噂が立つかもしれないし……
それにしても、明日のダンジョン調査。
ラフィナも行くって言ってたけど、彼女はダンジョンが危険な場所だって理解してないのだろうか。
いくら冒険者たちが護衛してくれるとはいっても、魔物と相対するのは少なからず恐怖を感じることだと思うんだけど。
……僕が臆病なだけなのかな。
そう思うと、ちょっぴり自分が情けなくなった。
「師匠、食事ができました」
「あ……うん。ありがとう」
ローブをハンガーに吊るして壁に掛けて、リビングに向かう。
夕飯のメニューはロールキャベツだった。キャベツが良い色をしていて実に美味そうな一品だ。
僕も今まで一人暮らしをしていた身だから料理はそこそこできる方だが、ここまで手の込んだ料理を作ることはない。
腹が膨れればいいやって考え方だったから、どうしても簡単な男の料理になっちゃうんだよね。
「相変わらず料理が上手いね」
「これでもお屋敷で働いていたことがあるので、料理の腕には自信があります」
えへんと胸を張るラフィナ。
僕はラフィナからフォークを受け取って、席に着いた。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきまーす」
フォークでロールキャベツに切れ目を入れる。
さくりとキャベツが裂けて、中から汁が溢れる肉が顔を覗かせた。
よく見ると、肉の中に細かく刻んだ野菜が入っている。
野菜を入れて具をかさ増ししたのか。よく考えてるなぁ。
一口サイズにロールキャベツを切り分けて、口へと運ぶ。
キャベツの甘味と肉の旨味が絶妙なバランスで互いを引き立て合っている。これは次々と頬張りたくなる美味さだ。
ロールキャベツを食べながら、僕はラフィナに尋ねた。
「明日……本気で付いて来るつもりなの?」
「はい! 何処までも師匠にお供するつもりです!」
口の中のものを飲み込んで返事するラフィナ。
僕は小さな溜め息をついて、言った。
「あのね、ダンジョンは危険な場所なんだよ。いくら冒険者さんが守ってくれるといっても、絶対に危険がないわけじゃないんだ。分かってる?」
「それは、分かってます。冒険者だった両親から、色々聞いているので」
でも、と彼女は言った。
「世界を渡り歩く錬金術師になるために、色々な経験をしたいんです。ダンジョンで活躍する師匠を見て、ダンジョンで錬金術師が働くにはどうすればいいのかを学びたいんです」
……本当に、勉強熱心だね。この子は。
学ぶために危険な場所にも行こうとする、そのやる気と熱意には脱帽するよ。
そこまで言うのなら、僕もこれ以上は言わないことにしておこう。
彼女の本気がどれほどのものなのか、見せてもらおうじゃないか。
「……分かった。ラフィナがそれだけの決意を持ってるのなら、僕はこれ以上は言わないでおく。自分の行動にしっかり責任を持って、学びたいことを学びなさい」
「はい!」
彼女は僕の言葉に嬉しそうに返事をして、大きな口でロールキャベツを頬張った。
調査で僕がどれだけ役に立つかは分からないけど、錬金術師として働いている姿をしっかりと彼女に見せよう。
明日は自分なりに頑張ろう、と小さく決意して、僕はロールキャベツを口に運んだ。
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