71 / 176
第71話 小さき者たちの意地
しおりを挟む
「バーストフレア!」
女神像の足首を狙ってシャオレンは魔術を撃つ。
茜色の光は女神像の足首に着弾し、弾けた。その衝撃で表面に薄く罅が入るが、砕くまでには至っていない。
「メテオレイン!」
マテリアさんが頭上に隕石の群れを召喚する。
岩の雨が女神像に降り注ぐ。頭に、肩に、足に燃え盛る岩が当たって砕け散り、地面に無数の岩の欠片が飛び散った。
女神像の顔が、マテリアさんの方に向いた。
目のない顔でどうやってものを見ているのかは分からないが、確かに女神像は彼女のことを見ていた。
顔が、閃光を生む。
咄嗟にその場を駆け出すマテリアさん。閃光は彼女が今し方立っていた場所を吹き飛ばし、大量の草と土を巻き上げた。
後一歩彼女が動くのが遅かったら、光は彼女をばらばらにしていただろう。
「ピットフォール!」
女神像の進行方向に向けて魔術を撃つフラウ。
女神像が歩む先の地面に、巨大な穴が空いた。
ピットフォールは落とし穴を掘る魔術で、普通はせいぜい一メートルくらいの穴しかできないものなのだが、かなり魔力を込めたのだろう。今フラウが掘った穴は、十メートル近くある女神像の全身が入るほどの大きさがあった。
女神像が、穴に踏み込む。
段差につまづいて、女神像が体勢を崩す。両手を地面についた格好になり、女神像の動きが止まった。
チャンスだ、が──穴は僕たちからしたらちょっとした崖のようなものなので、女神像に飛び移るには無理がある。距離が開きすぎているのだ。
アラグが叫んだ。
「シルカ! 来い!」
彼は駆け寄った僕を抱き抱えると、そのまま穴の縁まで走った。
「投げるぞ! 飛び移れ!」
「ええ!?」
びっくりしてアラグを見る僕。
彼は全身に勢いを付けて、僕を女神像めがけて投げつけた!
「うわぁぁ!?」
僕は女神像の腰に激突し、表面を滑るように転がり落ちた。
何とか手が引っ掛かる場所を見つけて、指を差し込んで力を込める。
僕は女神像の尻の辺りに抱き付く形で、女神像にくっついた。
女神像に接触することはできたが……落ちないように踏ん張ることで精一杯で、これでは錬金術を発動させることができない。
何とか、落ち着いて精神集中ができる箇所──肩辺りまで移動しなければ。
「シルカ! 大丈夫!?」
眼下から僕に呼びかけてくるフラウ。
僕は奥歯を噛み締めて、少しずつ女神像の表面を登っていった。
女神像が、穴から這い出る。
全身が揺れて、僕は思わず手を離しそうになった。
「くっ……!」
指先が痛い。腕が震える。手の甲が攣りそうだ。
何度も滑り落ちそうになりながら、僕は懸命に女神像の体を這い登った。
今の僕は、きっと滑稽な格好をしているのだろう。窓にへばりつく虫のように。
笑いたければ笑えばいいさ。僕にとってはそんなことなんて些細なことだ。
腰を、背を超えて、遂に僕は女神像の肩に到達した。
此処なら、足が付けられる。錬金術を使うことができる。
僕はふーっと息を吐いて精神を集中させ、両手を女神像の肩にしっかりと付けた。
そこに、女神像の右手が迫ってきた。
錬金術を使うことに気を取られていた僕は、迫り来る手の存在に気付くことに遅れ、
そのまま正面から攫うように、女神像の右手に掴まれてしまった。
女神像の足首を狙ってシャオレンは魔術を撃つ。
茜色の光は女神像の足首に着弾し、弾けた。その衝撃で表面に薄く罅が入るが、砕くまでには至っていない。
「メテオレイン!」
マテリアさんが頭上に隕石の群れを召喚する。
岩の雨が女神像に降り注ぐ。頭に、肩に、足に燃え盛る岩が当たって砕け散り、地面に無数の岩の欠片が飛び散った。
女神像の顔が、マテリアさんの方に向いた。
目のない顔でどうやってものを見ているのかは分からないが、確かに女神像は彼女のことを見ていた。
顔が、閃光を生む。
咄嗟にその場を駆け出すマテリアさん。閃光は彼女が今し方立っていた場所を吹き飛ばし、大量の草と土を巻き上げた。
後一歩彼女が動くのが遅かったら、光は彼女をばらばらにしていただろう。
「ピットフォール!」
女神像の進行方向に向けて魔術を撃つフラウ。
女神像が歩む先の地面に、巨大な穴が空いた。
ピットフォールは落とし穴を掘る魔術で、普通はせいぜい一メートルくらいの穴しかできないものなのだが、かなり魔力を込めたのだろう。今フラウが掘った穴は、十メートル近くある女神像の全身が入るほどの大きさがあった。
女神像が、穴に踏み込む。
段差につまづいて、女神像が体勢を崩す。両手を地面についた格好になり、女神像の動きが止まった。
チャンスだ、が──穴は僕たちからしたらちょっとした崖のようなものなので、女神像に飛び移るには無理がある。距離が開きすぎているのだ。
アラグが叫んだ。
「シルカ! 来い!」
彼は駆け寄った僕を抱き抱えると、そのまま穴の縁まで走った。
「投げるぞ! 飛び移れ!」
「ええ!?」
びっくりしてアラグを見る僕。
彼は全身に勢いを付けて、僕を女神像めがけて投げつけた!
「うわぁぁ!?」
僕は女神像の腰に激突し、表面を滑るように転がり落ちた。
何とか手が引っ掛かる場所を見つけて、指を差し込んで力を込める。
僕は女神像の尻の辺りに抱き付く形で、女神像にくっついた。
女神像に接触することはできたが……落ちないように踏ん張ることで精一杯で、これでは錬金術を発動させることができない。
何とか、落ち着いて精神集中ができる箇所──肩辺りまで移動しなければ。
「シルカ! 大丈夫!?」
眼下から僕に呼びかけてくるフラウ。
僕は奥歯を噛み締めて、少しずつ女神像の表面を登っていった。
女神像が、穴から這い出る。
全身が揺れて、僕は思わず手を離しそうになった。
「くっ……!」
指先が痛い。腕が震える。手の甲が攣りそうだ。
何度も滑り落ちそうになりながら、僕は懸命に女神像の体を這い登った。
今の僕は、きっと滑稽な格好をしているのだろう。窓にへばりつく虫のように。
笑いたければ笑えばいいさ。僕にとってはそんなことなんて些細なことだ。
腰を、背を超えて、遂に僕は女神像の肩に到達した。
此処なら、足が付けられる。錬金術を使うことができる。
僕はふーっと息を吐いて精神を集中させ、両手を女神像の肩にしっかりと付けた。
そこに、女神像の右手が迫ってきた。
錬金術を使うことに気を取られていた僕は、迫り来る手の存在に気付くことに遅れ、
そのまま正面から攫うように、女神像の右手に掴まれてしまった。
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説
妹に婚約者を取られましたが、辺境で楽しく暮らしています
今川幸乃
ファンタジー
おいしい物が大好きのオルロンド公爵家の長女エリサは次期国王と目されているケビン王子と婚約していた。
それを羨んだ妹のシシリーは悪い噂を流してエリサとケビンの婚約を破棄させ、自分がケビンの婚約者に収まる。
そしてエリサは田舎・偏屈・頑固と恐れられる辺境伯レリクスの元に厄介払い同然で嫁に出された。
当初は見向きもされないエリサだったが、次第に料理や作物の知識で周囲を驚かせていく。
一方、ケビンは極度のナルシストで、エリサはそれを知っていたからこそシシリーにケビンを譲らなかった。ケビンと結ばれたシシリーはすぐに彼の本性を知り、後悔することになる。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです
もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。
この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ
知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ
しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。
「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」
と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
転生生活をまったり過ごしたいのに、自作キャラたちが私に世界征服を進めてくる件について
ihana
ファンタジー
生き甲斐にしていたゲームの世界に転生した私はまったり旅行でもしながら過ごすと決意する。ところが、自作のNPCたちが暴走に暴走を繰り返し、配下は増えるわ、世界中に戦争を吹っかけるわでてんてこ舞い。でもそんなの無視して私はイベントを進めていきます。そしたらどういうわけか、一部の人に慕われてまた配下が増えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる