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死にゆく勇者と戦う少女
第81話 最期の言葉
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「ただいま」
アメルは晴れやかな表情で冒険者ギルドへと帰還した。
手には、キラーボアの牙を持っている。
キラーボアを討伐した証として持ち帰った戦利品である。
アメルの様子を見て、ギルドカウンターにいたラガンは笑顔を浮かべながら彼女に言った。
「……その様子だと、無事に課題をやり遂げたみたいだな」
裏口の方をちらりと見て、彼は彼女にそちらに行くように促した。
「早くその討伐の証を見せてやりな。それで早いところあの二人を安心させてやれ」
「うん」
アメルは頷いて、キラーボアの牙をしっかりと胸に抱いて訓練場へと向かった。
裏口の扉を開くと、子供たちが訓練をする元気な声が聞こえてきた。
レオンとナターシャは、二人並んで訓練場の中心に佇んでいた。
こちらには背を向けているため、二人はアメルが帰ってきたことに気付いていない。
アメルはゆっくりと二人に歩み寄り、声を掛けた。
「ただいま」
「……お帰り」
ナターシャは目の前にやって来たアメルの全身を見て、苦笑した。
「その格好……大分苦戦したみたいだね。どうだい、キラーボアは手強かっただろう?」
アメルの服は、草の汁や土で大分汚れていた。地面の上を転がったりしていたから無理もない格好だろう。
アメルはシャツを引っ張りながら笑って、抱いていたキラーボアの牙を二人の前に差し出した。
「ちゃんと、やっつけたよ。私だけの力で」
「そうみたいだね。しっかりやり遂げたってあんたの顔に書いてあるからね」
ナターシャはアメルの頭を撫でて、微笑んだ。
「卒業試験、クリアだ。これであんたは立派な一人前の冒険者だよ」
おめでとう、と言われて、アメルは照れたように笑った。
視線をついと横にずらすと──
薄く開いた瞼の陰から覗く瞳で、前を見つめているレオンの顔が目に入った。
肘掛けに乗せた手は動かず、身じろぎもしない。表情はなく、何を考えているかが全く分からない。
それでも、言葉を掛ければ聞いてはいるはずだ。そう信じて、アメルは彼に話しかけた。
「……レオン」
キラーボアの牙を彼によく見えるように持って、彼女はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「私……冒険者になったよ。レオンとの約束、ちゃんと守ったよ」
「…………」
レオンの唇が僅かに動いた。
声は、ない。しかし彼は、確かに言葉を発していた。
『頑張ったね』
言い終えて、彼は薄く微笑んで──
そのまま息を静かに吐き、ゆっくりと、目を閉じた。
俯いたレオンを見て、ナターシャがそっと彼の首に指を当てる。
そのまま、しばしの時が流れ。
彼女は彼から手を離し、静かに、語りかけた。
「……この子は、これだけのことができるんだよ。……できるように、なったんだよ。あんたが一生懸命に教えたお陰でね」
前を向き、遠くの空を見つめる。
「……これで、安心だろ。心置きなく、眠ることができるだろ?……レオン」
彼女のその言葉が正しいことであると証明するかのように──
レオンは、優しげな微笑みを浮かべていた。
アメルは晴れやかな表情で冒険者ギルドへと帰還した。
手には、キラーボアの牙を持っている。
キラーボアを討伐した証として持ち帰った戦利品である。
アメルの様子を見て、ギルドカウンターにいたラガンは笑顔を浮かべながら彼女に言った。
「……その様子だと、無事に課題をやり遂げたみたいだな」
裏口の方をちらりと見て、彼は彼女にそちらに行くように促した。
「早くその討伐の証を見せてやりな。それで早いところあの二人を安心させてやれ」
「うん」
アメルは頷いて、キラーボアの牙をしっかりと胸に抱いて訓練場へと向かった。
裏口の扉を開くと、子供たちが訓練をする元気な声が聞こえてきた。
レオンとナターシャは、二人並んで訓練場の中心に佇んでいた。
こちらには背を向けているため、二人はアメルが帰ってきたことに気付いていない。
アメルはゆっくりと二人に歩み寄り、声を掛けた。
「ただいま」
「……お帰り」
ナターシャは目の前にやって来たアメルの全身を見て、苦笑した。
「その格好……大分苦戦したみたいだね。どうだい、キラーボアは手強かっただろう?」
アメルの服は、草の汁や土で大分汚れていた。地面の上を転がったりしていたから無理もない格好だろう。
アメルはシャツを引っ張りながら笑って、抱いていたキラーボアの牙を二人の前に差し出した。
「ちゃんと、やっつけたよ。私だけの力で」
「そうみたいだね。しっかりやり遂げたってあんたの顔に書いてあるからね」
ナターシャはアメルの頭を撫でて、微笑んだ。
「卒業試験、クリアだ。これであんたは立派な一人前の冒険者だよ」
おめでとう、と言われて、アメルは照れたように笑った。
視線をついと横にずらすと──
薄く開いた瞼の陰から覗く瞳で、前を見つめているレオンの顔が目に入った。
肘掛けに乗せた手は動かず、身じろぎもしない。表情はなく、何を考えているかが全く分からない。
それでも、言葉を掛ければ聞いてはいるはずだ。そう信じて、アメルは彼に話しかけた。
「……レオン」
キラーボアの牙を彼によく見えるように持って、彼女はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「私……冒険者になったよ。レオンとの約束、ちゃんと守ったよ」
「…………」
レオンの唇が僅かに動いた。
声は、ない。しかし彼は、確かに言葉を発していた。
『頑張ったね』
言い終えて、彼は薄く微笑んで──
そのまま息を静かに吐き、ゆっくりと、目を閉じた。
俯いたレオンを見て、ナターシャがそっと彼の首に指を当てる。
そのまま、しばしの時が流れ。
彼女は彼から手を離し、静かに、語りかけた。
「……この子は、これだけのことができるんだよ。……できるように、なったんだよ。あんたが一生懸命に教えたお陰でね」
前を向き、遠くの空を見つめる。
「……これで、安心だろ。心置きなく、眠ることができるだろ?……レオン」
彼女のその言葉が正しいことであると証明するかのように──
レオンは、優しげな微笑みを浮かべていた。
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