78 / 82
死にゆく勇者と戦う少女
第78話 キラーボア
しおりを挟む
キラーボアはリンドルの街と隣街を繋ぐ街道沿いに出没するという。
受注書で得た情報を元に、アメルは討伐対象であるキラーボアの姿を懸命に探した。
キラーボアは体長二メートルを超える巨大な猪だ。その巨体で繰り出される突進は、か弱い人間の骨など一瞬で折ってしまう。
アメルも訓練のお陰で大分体が出来上がってきたとはいえ、基本は少女の体だ。キラーボアの体当たりを食らったら無傷では済まないだろう。
相手に気付かれるよりも前に相手を発見し、気配を悟られないように接近し、急所である首に一撃を加える。
それが、アメルが立てた作戦だ。
それを無事に遂行できるかどうかは、彼女の索敵能力にかかっている。
絶対に、このお仕事をやり遂げるんだ。
小さな決意を胸に秘め、彼女は双剣を手に街道を進んでいった。
遠くの空を横切っていく鳥の群れ。
強めの風が吹き、彼女の足下をざあっと撫でつけて遠くへと翔けていく。
平和だ。
本当に、こんな場所にそんな凶悪な魔物が棲んでいるのかな……
彼女がそう思い始めた頃。
前方に黒い影の塊のようなものの存在を見つけて、彼女は立ち止まった。
緩く弧を描いた乳白色の牙。
短い黒い毛並みに埋もれた、黒々とした眼。
遠目からでも強靭であることが分かる、筋肉質の脚。
間違いない──問題の、キラーボアだ。
キラーボアは鼻をふんふんと鳴らしながら、地面の匂いを一生懸命に嗅いでいる。
アメルの存在に気付いている様子はない。
猪って鼻がいいから……風上に立たないようにしなきゃ……
アメルは風の向きに注意しながら、少しずつキラーボアの死角に回って近付いていった。
そして、後十メートルというところまで接近した時。
急に、キラーボアが地面の匂いを嗅ぐのをやめて顔を上げた。
びくっとして身を縮めるアメル。
キラーボアは落ち着きなく辺りをきょろきょろと見回している。
大丈夫だ。まだアメルの存在には気付いていない。
アメルはほっとして、鞄から噴煙玉を取り出した。
それを右手に持ちながら、再度キラーボアとの距離を詰めていく。
後五メートル。三メートル。
今だ!
アメルは噴煙玉を爪で擦り、キラーボアの鼻先めがけて勢い良く投げつけた!
ぶしゅーっと噴き出た煙がキラーボアの視界を覆い隠す。
突然の煙の発生に驚いたのだろう、キラーボアが鳴き声を上げながらたじろいだ。
その隙に、双剣を構えたアメルがキラーボアの首を狙って突進していく!
振りかぶった右の双剣を、キラーボアの首に突き立てる。
ざぐっ、と鈍い音がして双剣の刃はキラーボアの首に深く潜り込んだ。
ぷぎゃああ、とキラーボアが悲鳴を上げた。
大きく身を捩って暴れ、辺りに充満する煙を振り払いながらアメルの方を向く。
怒りを秘めた黒い目が、アメルのことを睨みつける。
アメルは奥歯を噛み締めて、キラーボアの首から双剣を引き抜き構えを取った。
受注書で得た情報を元に、アメルは討伐対象であるキラーボアの姿を懸命に探した。
キラーボアは体長二メートルを超える巨大な猪だ。その巨体で繰り出される突進は、か弱い人間の骨など一瞬で折ってしまう。
アメルも訓練のお陰で大分体が出来上がってきたとはいえ、基本は少女の体だ。キラーボアの体当たりを食らったら無傷では済まないだろう。
相手に気付かれるよりも前に相手を発見し、気配を悟られないように接近し、急所である首に一撃を加える。
それが、アメルが立てた作戦だ。
それを無事に遂行できるかどうかは、彼女の索敵能力にかかっている。
絶対に、このお仕事をやり遂げるんだ。
小さな決意を胸に秘め、彼女は双剣を手に街道を進んでいった。
遠くの空を横切っていく鳥の群れ。
強めの風が吹き、彼女の足下をざあっと撫でつけて遠くへと翔けていく。
平和だ。
本当に、こんな場所にそんな凶悪な魔物が棲んでいるのかな……
彼女がそう思い始めた頃。
前方に黒い影の塊のようなものの存在を見つけて、彼女は立ち止まった。
緩く弧を描いた乳白色の牙。
短い黒い毛並みに埋もれた、黒々とした眼。
遠目からでも強靭であることが分かる、筋肉質の脚。
間違いない──問題の、キラーボアだ。
キラーボアは鼻をふんふんと鳴らしながら、地面の匂いを一生懸命に嗅いでいる。
アメルの存在に気付いている様子はない。
猪って鼻がいいから……風上に立たないようにしなきゃ……
アメルは風の向きに注意しながら、少しずつキラーボアの死角に回って近付いていった。
そして、後十メートルというところまで接近した時。
急に、キラーボアが地面の匂いを嗅ぐのをやめて顔を上げた。
びくっとして身を縮めるアメル。
キラーボアは落ち着きなく辺りをきょろきょろと見回している。
大丈夫だ。まだアメルの存在には気付いていない。
アメルはほっとして、鞄から噴煙玉を取り出した。
それを右手に持ちながら、再度キラーボアとの距離を詰めていく。
後五メートル。三メートル。
今だ!
アメルは噴煙玉を爪で擦り、キラーボアの鼻先めがけて勢い良く投げつけた!
ぶしゅーっと噴き出た煙がキラーボアの視界を覆い隠す。
突然の煙の発生に驚いたのだろう、キラーボアが鳴き声を上げながらたじろいだ。
その隙に、双剣を構えたアメルがキラーボアの首を狙って突進していく!
振りかぶった右の双剣を、キラーボアの首に突き立てる。
ざぐっ、と鈍い音がして双剣の刃はキラーボアの首に深く潜り込んだ。
ぷぎゃああ、とキラーボアが悲鳴を上げた。
大きく身を捩って暴れ、辺りに充満する煙を振り払いながらアメルの方を向く。
怒りを秘めた黒い目が、アメルのことを睨みつける。
アメルは奥歯を噛み締めて、キラーボアの首から双剣を引き抜き構えを取った。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる