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死にゆく勇者と戦う少女
第75話 魂の力と共に
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吹き飛ばされた砲台が火を噴き、甲板に燃え移る。
衝撃と物音に気付いて甲板に顔を出した兵士に、司令官は急ぎ指示を出した。
「砲撃を開始しろ! 敵艦を撃ち落とせ!」
「り、了解!」
兵士が船内に戻り、船に装備されていた全ての砲台が相手方の飛空艇の方を向く。
アメルは奥歯を食いしばり、リヴニルたちを睨みつけた。
……お願い。私の中にある力よ、私たちを助けて!
ばがっ!
リヴニルの後方にある甲板が木っ端となって砕け散った。
そこに追撃を仕掛けるように、一斉に撃ち出される飛空艇からの砲撃。
砲弾は飛空艇の側面や甲板に命中し、大小様々な穴を空けた。
その中で、リヴニルは悠然と佇んでいる。
「サエル、敵艦は健在だぞ! お前の力なら、全てを塵にすることは容易いはずだろう!」
「…………」
サエルの視線がアガヴェラの飛空艇へと向く。
やらせない!
咄嗟にアメルは、掌を突き出してサエルの方へと翳していた。
ばちっ!
両者の間に、渦巻く光のようなものが生まれる。
それは次第に大きく膨れ上がりながら、彼女たちの視界を覆い隠していった。
真っ向から激突した破壊の力が、ぶつかり合って大きなエネルギーの塊と化したのだ。
放っている力の勢いが少しでも弱まった方に、膨れ上がったエネルギーは押し寄せていくだろう。
それを食らったら──おそらく、形は残らない。
「……うぅ……!」
ばちばちと掌の先で暴れ狂うエネルギーを睨みながら、アメルは呻く。
一方、サエルは涼しい顔をして甲板の先に佇んでいる。
単純な力比べでは、サエルの方に分があるようだ。
それを証明するかのように、エネルギーの塊はじりじりとアメルの方に迫ってきた。
……駄目……このままだと、私たち、みんな……!
目をぎゅっと閉じて、必死に掌を突き出す。
その掌に──ふわりと、何かが触れたような感覚を感じて、彼女は前を向いた。
エネルギーを必死に押し返そうとする、彼女の右手に。
見覚えのある手の幻影が寄り添っているのを、彼女は見たような気がした。
──アメル。君は、一人じゃない。それを忘れないで。
心の中に響く、レオンの声。
彼の微笑みが目の前に浮かんで、消えていく。
……レオン!
アメルはきっとエネルギーの塊を睨んで、吠えた。
「……あぁぁぁぁぁーっ!!」
ぐん、と溢れるほどの力が、彼女の中に生まれる。
それは目の前の光を押し返し、大きな波となって、ビブリード帝国の船を飲み込んだ。
「なっ……!」
リヴニルの声が吹き荒れる風の音に掻き消える。
限界まで膨れ上がった光を浴びた飛空艇は、爆発を起こして火を噴きながら粉々に砕け散っていった。
炭の欠片がばらばらと眼下の街に向かって落ちていく。それも途中で風に吹き散らされて、消える。
光が収まった後には。
何もない、穏やかな空がそこに広がっていた。
「…………」
アメルは肩で息をしながら、その場にぺたんと座り込んだ。
ビブリード帝国の船が消滅したという事実を目の当たりにして、司令官が歓喜の声を上げる。
「やった……ビブリードの船を沈めたぞ! 我々は、戦争に勝利したのだ!」
様子を見に来た兵士と抱き合って、戦の勝利を声高に叫びながら船の中へと姿を消す。
アメルは自分の掌を見下ろして、呟いた。
「……ありがとう……レオン」
飛空艇のプロペラの音が、勝利を告げるドラムの音のように鳴り響いていた。
衝撃と物音に気付いて甲板に顔を出した兵士に、司令官は急ぎ指示を出した。
「砲撃を開始しろ! 敵艦を撃ち落とせ!」
「り、了解!」
兵士が船内に戻り、船に装備されていた全ての砲台が相手方の飛空艇の方を向く。
アメルは奥歯を食いしばり、リヴニルたちを睨みつけた。
……お願い。私の中にある力よ、私たちを助けて!
ばがっ!
リヴニルの後方にある甲板が木っ端となって砕け散った。
そこに追撃を仕掛けるように、一斉に撃ち出される飛空艇からの砲撃。
砲弾は飛空艇の側面や甲板に命中し、大小様々な穴を空けた。
その中で、リヴニルは悠然と佇んでいる。
「サエル、敵艦は健在だぞ! お前の力なら、全てを塵にすることは容易いはずだろう!」
「…………」
サエルの視線がアガヴェラの飛空艇へと向く。
やらせない!
咄嗟にアメルは、掌を突き出してサエルの方へと翳していた。
ばちっ!
両者の間に、渦巻く光のようなものが生まれる。
それは次第に大きく膨れ上がりながら、彼女たちの視界を覆い隠していった。
真っ向から激突した破壊の力が、ぶつかり合って大きなエネルギーの塊と化したのだ。
放っている力の勢いが少しでも弱まった方に、膨れ上がったエネルギーは押し寄せていくだろう。
それを食らったら──おそらく、形は残らない。
「……うぅ……!」
ばちばちと掌の先で暴れ狂うエネルギーを睨みながら、アメルは呻く。
一方、サエルは涼しい顔をして甲板の先に佇んでいる。
単純な力比べでは、サエルの方に分があるようだ。
それを証明するかのように、エネルギーの塊はじりじりとアメルの方に迫ってきた。
……駄目……このままだと、私たち、みんな……!
目をぎゅっと閉じて、必死に掌を突き出す。
その掌に──ふわりと、何かが触れたような感覚を感じて、彼女は前を向いた。
エネルギーを必死に押し返そうとする、彼女の右手に。
見覚えのある手の幻影が寄り添っているのを、彼女は見たような気がした。
──アメル。君は、一人じゃない。それを忘れないで。
心の中に響く、レオンの声。
彼の微笑みが目の前に浮かんで、消えていく。
……レオン!
アメルはきっとエネルギーの塊を睨んで、吠えた。
「……あぁぁぁぁぁーっ!!」
ぐん、と溢れるほどの力が、彼女の中に生まれる。
それは目の前の光を押し返し、大きな波となって、ビブリード帝国の船を飲み込んだ。
「なっ……!」
リヴニルの声が吹き荒れる風の音に掻き消える。
限界まで膨れ上がった光を浴びた飛空艇は、爆発を起こして火を噴きながら粉々に砕け散っていった。
炭の欠片がばらばらと眼下の街に向かって落ちていく。それも途中で風に吹き散らされて、消える。
光が収まった後には。
何もない、穏やかな空がそこに広がっていた。
「…………」
アメルは肩で息をしながら、その場にぺたんと座り込んだ。
ビブリード帝国の船が消滅したという事実を目の当たりにして、司令官が歓喜の声を上げる。
「やった……ビブリードの船を沈めたぞ! 我々は、戦争に勝利したのだ!」
様子を見に来た兵士と抱き合って、戦の勝利を声高に叫びながら船の中へと姿を消す。
アメルは自分の掌を見下ろして、呟いた。
「……ありがとう……レオン」
飛空艇のプロペラの音が、勝利を告げるドラムの音のように鳴り響いていた。
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