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死にゆく勇者と戦う少女
第69話 最後の邂逅
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仲間の進軍で破壊された街並みを見つめながら、エヴァは不満そうな声を漏らした。
「全く……何故仲間は戦車や機動装甲の使用を許されて、我々は銃一丁しか与えられぬのだ」
「仕方ないですよ、それは」
隣で銃を構えながら歩いていたローランがエヴァの呟きを拾う。
「自分たちは一般兵なんですから……機動装甲なんて上等な武装に触れるわけがないじゃないですか」
「それもこれも、全部あの勇者が悪い!」
面白くなさそうに吐き捨てて、エヴァは目の前を睨んだ。
「あいつにはこの礼をたっぷりとしてやらねば気が収まらん! 今度会ったが百年目、完膚なきまでに叩きのめしてくれる!」
「……もう諦めましょうよぉ。勇者のことは犬にでも咬まれたと思って知らないふりをしておくのが正しいんじゃないかって自分は思うんですけど……」
「何を言っとるローラン! お前は悔しくないのか、あの若造にいいようにされたままで!」
「……貴方が調子に乗って勇者に関わったりしなければ、こんなことになることもなかったんですよ……」
ローランの呟きは、周囲で湧き起こる悲鳴に飲まれて消えていく。
エヴァは何もない虚空に向けて銃を撃ち、声を張り上げた。
「出て来い勇者! 今日こそ決着を着けてやる!」
「…………」
表通りから聞こえてくる声を耳にして、レオンは苦い顔をした。
ゆっくりと車椅子から立ち上がり、背凭れの後ろに引っ掛けていた自分の剣を手に取る。
それを慌ててナターシャが制した。
「およしよ、レオン。今のあんたの体で戦うなんてできるわけないじゃないか」
「……此処で僕が出て行かなかったら、奴らは街を目茶苦茶にする。それを黙って見過ごすわけにはいかない」
レオンは冒険者ギルドの外に出ようとした。
その前に立ち塞がり、ナターシャは厳しい顔をレオンへと向けた。
「レオン。あんたの気持ちは分かるけどね。あたしたちの気持ちも分かっておくれ」
彼女はレオンの肩をぐっと掴んだ。
「あたしたちはあんたに、こんな馬鹿なことで死んでほしくはないんだよ」
「……どいてくれ、ナターシャ」
肩を掴む手を掴んで、レオンは真面目な顔をして彼女に訴えた。
「僕は自分が勇者だからとか、そういうことを言うつもりはないけれど……僕のせいで人や街が蹂躙されているのなら、例え僕がどんな状態であったとしても、それを守るために戦わなくちゃいけない。勇者としてじゃなく、人として、動かなくちゃいけないんだよ」
それは、レオンの心の底からの訴えであった。
例え、自分がどうなったとしても、最後まで諦めずに戦う。
冒険者として同じ志を持っているナターシャは、それに反論することができなかった。
視線を伏せて、彼女は静かにレオンの肩から手を離した。
「……あんたは、今でも勇者なんだね」
呟いて、彼の前から一歩横にずれる。
大通りに続く道が、開かれる。
レオンはにこりともせずに、戸口をくぐりながら、言った。
「……ありがとう。ナターシャ」
彼は外に出ていった。
ナターシャは視線を伏せたまま、言った。
「分かってはいたけど……あんたは大馬鹿だよ。どうして、あたしたちのために生きるよって、一言でも言ってくれないんだい」
「……む」
エヴァは歩みを止めた。
目の前に立ち塞がる者が現れたのだ。
「……望み通りに出てきたぞ。今すぐ進軍をやめてビブリードに帰れ」
レオンは手にした剣の先を彼へと突きつけた。
「出てきおったな、勇者!」
銃を構えて、エヴァは一歩前に出る。
「貴様のせいで、我々は親衛騎団から一般兵に降格処分になったんだぞ! この責任、どう付けてくれるつもりだ!」
「……それは勇者のせいじゃなくて貴方の行動に問題があったからなんじゃ……」
ローランがぼそりと言ってくるが、エヴァの耳には届いていない。
エヴァはレオンを真っ向から睨みつけて、宣言した。
「この恨み、今こそこの場で晴らしてくれる! かかってこい勇者!」
「……これで最後だ」
レオンは静かに構えを取った。
「街のため……何よりアメルのために、僕は負けるわけにはいかない。必ず、お前たちを下す!」
「全く……何故仲間は戦車や機動装甲の使用を許されて、我々は銃一丁しか与えられぬのだ」
「仕方ないですよ、それは」
隣で銃を構えながら歩いていたローランがエヴァの呟きを拾う。
「自分たちは一般兵なんですから……機動装甲なんて上等な武装に触れるわけがないじゃないですか」
「それもこれも、全部あの勇者が悪い!」
面白くなさそうに吐き捨てて、エヴァは目の前を睨んだ。
「あいつにはこの礼をたっぷりとしてやらねば気が収まらん! 今度会ったが百年目、完膚なきまでに叩きのめしてくれる!」
「……もう諦めましょうよぉ。勇者のことは犬にでも咬まれたと思って知らないふりをしておくのが正しいんじゃないかって自分は思うんですけど……」
「何を言っとるローラン! お前は悔しくないのか、あの若造にいいようにされたままで!」
「……貴方が調子に乗って勇者に関わったりしなければ、こんなことになることもなかったんですよ……」
ローランの呟きは、周囲で湧き起こる悲鳴に飲まれて消えていく。
エヴァは何もない虚空に向けて銃を撃ち、声を張り上げた。
「出て来い勇者! 今日こそ決着を着けてやる!」
「…………」
表通りから聞こえてくる声を耳にして、レオンは苦い顔をした。
ゆっくりと車椅子から立ち上がり、背凭れの後ろに引っ掛けていた自分の剣を手に取る。
それを慌ててナターシャが制した。
「およしよ、レオン。今のあんたの体で戦うなんてできるわけないじゃないか」
「……此処で僕が出て行かなかったら、奴らは街を目茶苦茶にする。それを黙って見過ごすわけにはいかない」
レオンは冒険者ギルドの外に出ようとした。
その前に立ち塞がり、ナターシャは厳しい顔をレオンへと向けた。
「レオン。あんたの気持ちは分かるけどね。あたしたちの気持ちも分かっておくれ」
彼女はレオンの肩をぐっと掴んだ。
「あたしたちはあんたに、こんな馬鹿なことで死んでほしくはないんだよ」
「……どいてくれ、ナターシャ」
肩を掴む手を掴んで、レオンは真面目な顔をして彼女に訴えた。
「僕は自分が勇者だからとか、そういうことを言うつもりはないけれど……僕のせいで人や街が蹂躙されているのなら、例え僕がどんな状態であったとしても、それを守るために戦わなくちゃいけない。勇者としてじゃなく、人として、動かなくちゃいけないんだよ」
それは、レオンの心の底からの訴えであった。
例え、自分がどうなったとしても、最後まで諦めずに戦う。
冒険者として同じ志を持っているナターシャは、それに反論することができなかった。
視線を伏せて、彼女は静かにレオンの肩から手を離した。
「……あんたは、今でも勇者なんだね」
呟いて、彼の前から一歩横にずれる。
大通りに続く道が、開かれる。
レオンはにこりともせずに、戸口をくぐりながら、言った。
「……ありがとう。ナターシャ」
彼は外に出ていった。
ナターシャは視線を伏せたまま、言った。
「分かってはいたけど……あんたは大馬鹿だよ。どうして、あたしたちのために生きるよって、一言でも言ってくれないんだい」
「……む」
エヴァは歩みを止めた。
目の前に立ち塞がる者が現れたのだ。
「……望み通りに出てきたぞ。今すぐ進軍をやめてビブリードに帰れ」
レオンは手にした剣の先を彼へと突きつけた。
「出てきおったな、勇者!」
銃を構えて、エヴァは一歩前に出る。
「貴様のせいで、我々は親衛騎団から一般兵に降格処分になったんだぞ! この責任、どう付けてくれるつもりだ!」
「……それは勇者のせいじゃなくて貴方の行動に問題があったからなんじゃ……」
ローランがぼそりと言ってくるが、エヴァの耳には届いていない。
エヴァはレオンを真っ向から睨みつけて、宣言した。
「この恨み、今こそこの場で晴らしてくれる! かかってこい勇者!」
「……これで最後だ」
レオンは静かに構えを取った。
「街のため……何よりアメルのために、僕は負けるわけにはいかない。必ず、お前たちを下す!」
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