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戻りゆく記憶、失われゆく命
第55話 癒しきれない傷痕
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エヴァたちが街を蹂躙した爪痕は、そこかしこに痛々しく残っていた。
冒険者ギルドも、先の砲撃で入口が崩されてしまった。
それらを、レオンは全身で息をしながら見つめていた。
街に甚大な被害が出てしまったことを、悔いているのだ。
「レオン……」
レオンにそっと寄り添うアメル。
彼女はレオンの血だらけの足を見て、泣きそうな顔をしていた。
「……足……大丈夫?」
「……大丈夫だよ」
レオンは懸命に平静を取り繕って、微笑んだ。
「アメル、ラガンさんからハイポーションを貰ってきてくれないかな。このままだと、ちょっと動けそうにないんだ」
「うん、分かった」
アメルは頷いて、冒険者ギルドの中に入っていった。
そして幾分もせずに建物の中で沸き起こる声。
これは……非難の、声?
怪訝に思ったレオンは、よろめきながらも立ち上がり、足を引き摺って冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの中には、大勢の子供たちがいた。訓練場から避難してきていた子供たちだ。
皆アメルを遠巻きに見つめて、口々に声を上げている。
「こっちに来るな! 魔族!」
「お前のせいで母さんは死んだんだぞ! 母さんを返せ!」
アメルは困惑しきった顔をして、子供たちを見つめている。
レオンはびっくりして、アメルと子供たちの間に割って入った。
「一体……何の騒ぎなんだ」
「レオンさん!」
子供の一人がアメルを指差して、言った。
「こいつ、魔法を使った! 魔族の生き残りなんだ!」
「……!」
思いもよらぬ言葉にレオンは目を丸くする。
子供たちがこう言うのは、先のエヴァたちとの争いでアメルが破壊の力を使ったところを見たからだろう。
確かに魔族を知っている者から見たら、アメルのことを魔族だと勘違いするのも無理はない。
レオンは慌ててそれを否定した。
「アメルは魔族じゃない。確かにこの子には不思議な力があるけれど、僕たちと同じ人間なんだよ」
「嘘だ!」
「レオンさんが苦しんでるのもお前のせいなんだろ! レオンさんが早く死ねばいいって、そう思ってるんだろ!」
「違う……私は……」
アメルは何度もかぶりを振って、後ずさった。
目にうっすらと涙が浮かんでいる。
「此処から出ていけ、魔族!」
「そうだ、出ていけ!」
子供たちが声を揃えて出ていけと騒ぎ始める。
それを子供たちの後方で見ていたナターシャが制した。
「あんたたち、レオンが違うって言ってるじゃないか! 静かにおしよ!」
「みんな、落ち着いて……ッ!」
レオンは胸を掻き抱いて、その場に膝をついた。
背中を丸めて、歯を食いしばり、吐き出しそうになる悲鳴を必死に飲み込む。
子供たちは騒然となった。
「レオンさん!」
「やい、お前、レオンさんを呪うのを今すぐやめろ!」
「……違う、違うの!」
アメルは反論した。
しかし子供たちの罵倒はやまない。
彼女は表情を歪めると、一目散に逃げるように冒険者ギルドから飛び出していってしまった。
「アメル!」
慌ててその後を追いかけていくナターシャ。
レオンはその場に身を横たえて、口で息をしながら、子供たちの声を聞いていた。
彼らを宥めようにも、息が切れて声が出せない。
アメルは大丈夫なのだろうか。そう心配しながら、心臓の痛みと懸命に戦うのだった。
冒険者ギルドも、先の砲撃で入口が崩されてしまった。
それらを、レオンは全身で息をしながら見つめていた。
街に甚大な被害が出てしまったことを、悔いているのだ。
「レオン……」
レオンにそっと寄り添うアメル。
彼女はレオンの血だらけの足を見て、泣きそうな顔をしていた。
「……足……大丈夫?」
「……大丈夫だよ」
レオンは懸命に平静を取り繕って、微笑んだ。
「アメル、ラガンさんからハイポーションを貰ってきてくれないかな。このままだと、ちょっと動けそうにないんだ」
「うん、分かった」
アメルは頷いて、冒険者ギルドの中に入っていった。
そして幾分もせずに建物の中で沸き起こる声。
これは……非難の、声?
怪訝に思ったレオンは、よろめきながらも立ち上がり、足を引き摺って冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの中には、大勢の子供たちがいた。訓練場から避難してきていた子供たちだ。
皆アメルを遠巻きに見つめて、口々に声を上げている。
「こっちに来るな! 魔族!」
「お前のせいで母さんは死んだんだぞ! 母さんを返せ!」
アメルは困惑しきった顔をして、子供たちを見つめている。
レオンはびっくりして、アメルと子供たちの間に割って入った。
「一体……何の騒ぎなんだ」
「レオンさん!」
子供の一人がアメルを指差して、言った。
「こいつ、魔法を使った! 魔族の生き残りなんだ!」
「……!」
思いもよらぬ言葉にレオンは目を丸くする。
子供たちがこう言うのは、先のエヴァたちとの争いでアメルが破壊の力を使ったところを見たからだろう。
確かに魔族を知っている者から見たら、アメルのことを魔族だと勘違いするのも無理はない。
レオンは慌ててそれを否定した。
「アメルは魔族じゃない。確かにこの子には不思議な力があるけれど、僕たちと同じ人間なんだよ」
「嘘だ!」
「レオンさんが苦しんでるのもお前のせいなんだろ! レオンさんが早く死ねばいいって、そう思ってるんだろ!」
「違う……私は……」
アメルは何度もかぶりを振って、後ずさった。
目にうっすらと涙が浮かんでいる。
「此処から出ていけ、魔族!」
「そうだ、出ていけ!」
子供たちが声を揃えて出ていけと騒ぎ始める。
それを子供たちの後方で見ていたナターシャが制した。
「あんたたち、レオンが違うって言ってるじゃないか! 静かにおしよ!」
「みんな、落ち着いて……ッ!」
レオンは胸を掻き抱いて、その場に膝をついた。
背中を丸めて、歯を食いしばり、吐き出しそうになる悲鳴を必死に飲み込む。
子供たちは騒然となった。
「レオンさん!」
「やい、お前、レオンさんを呪うのを今すぐやめろ!」
「……違う、違うの!」
アメルは反論した。
しかし子供たちの罵倒はやまない。
彼女は表情を歪めると、一目散に逃げるように冒険者ギルドから飛び出していってしまった。
「アメル!」
慌ててその後を追いかけていくナターシャ。
レオンはその場に身を横たえて、口で息をしながら、子供たちの声を聞いていた。
彼らを宥めようにも、息が切れて声が出せない。
アメルは大丈夫なのだろうか。そう心配しながら、心臓の痛みと懸命に戦うのだった。
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