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冒険者への道
第20話 追手、邂逅する
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「……おお」
先に沈黙を破ったのは黒い甲冑の男だった。
レオンたちの方を指差して、隣にいる黒い鎧姿の男に視線を向ける。
「人がいたぞ、ローラン! やはり我々がこちらの道を選んだのは間違いではなかったのだ!」
「何悠長に喜んでるんですか、エヴァ隊長……此処にいるってことは間違いなくアガヴェラの人間ってことなんですよ」
ローラン、と呼ばれた鎧の男は深々と溜め息をついた。
そんな部下の様子などお構いなしに、隊長──エヴァは親しげにレオンたちとの距離を詰めてきた。
「諸君。我々はこの地で人探しをしていてな。何か知っていたら教えてもらいたいのだが──」
黒い甲冑……胸に刻印されている獅子の横顔の紋章……
レオンは二人のことを観察して、唯一とも言える彼らの特徴に注目した。
……あれは、間違いない。ビブリード帝国の紋章だ。
遂に敵国の兵士が此処まで攻めてきたのかと、持っていた麻袋をその辺に転がして剣の柄に手を掛けた。
レオンが身構えたのを見たローランが、慌てて担いでいた銃を構える。
アメルはきょとんとしている。彼女にはビブリードの人間が自分にとって脅威になる存在であるという自覚がないのだろう。
そしてエヴァは、マイペースに話を続けている。
「我々はある娘を探している。銀の髪で、身長がこれくらいの娘なのだが──」
これくらい、と彼は左手を百五十センチくらいの高さに持ってきて、見せた。
それを見たレオンの目が、ちらりとアメルに向いた。
レオンの様子に気付いたローランも、釣られるようにアメルに視線を移す。
アメルの全身を上から下まで見つめて、呟いた。
「銀の髪の、娘……」
「そう。丁度そこの娘くらいの年頃で……」
エヴァはそこまで言って、はたと気付いたように、言葉を切った。
アメルに注目し、口を開く。
「……いた、な」
「!」
レオンはすらりと剣を抜いた。
アメルをこのまま相手に引き渡すわけにはいかない。明確な理由は分からなかったが、そのように心が警鐘を鳴らしてきたのだ。
エヴァは銃を片手で持ち、銃口をレオンに向けた。
「その娘をこちらに引き渡してもらおうか。その娘は元々我らビブリードのもの……拒む理由はないはずだ」
「敵国に言われて大人しく従う人間がいると思うのか」
レオンは怯まない。
真っ向から自分に向けられた銃口を見据えて、答えた。
「このまま帰るなら追わない。向かってくるなら遠慮なく抵抗させてもらう」
「威勢は一丁前だな。痛い目を見ないと理解はせんか」
エヴァは声を張り上げた。
「行け、ローラン! 奴を倒して娘を奪え!」
「何で自分から喧嘩売っておいて自分でやらないんですかぁ。少しは自分の言動に責任持って下さいよぉ……」
ローランが引き金に掛けた指に力を込める。
ぱぁんっ、と乾いた音が辺りにこだまする。
レオンは地面を蹴って、エヴァの懐に飛び込んだ。
彼の髪を掠めて宙を貫いた銃弾は後ろに立っていた木に命中し、皮を弾けさせた。
「アメル、この場から離れて!」
レオンは叫んで、右手の剣を真横に大きく振り抜いた。
先に沈黙を破ったのは黒い甲冑の男だった。
レオンたちの方を指差して、隣にいる黒い鎧姿の男に視線を向ける。
「人がいたぞ、ローラン! やはり我々がこちらの道を選んだのは間違いではなかったのだ!」
「何悠長に喜んでるんですか、エヴァ隊長……此処にいるってことは間違いなくアガヴェラの人間ってことなんですよ」
ローラン、と呼ばれた鎧の男は深々と溜め息をついた。
そんな部下の様子などお構いなしに、隊長──エヴァは親しげにレオンたちとの距離を詰めてきた。
「諸君。我々はこの地で人探しをしていてな。何か知っていたら教えてもらいたいのだが──」
黒い甲冑……胸に刻印されている獅子の横顔の紋章……
レオンは二人のことを観察して、唯一とも言える彼らの特徴に注目した。
……あれは、間違いない。ビブリード帝国の紋章だ。
遂に敵国の兵士が此処まで攻めてきたのかと、持っていた麻袋をその辺に転がして剣の柄に手を掛けた。
レオンが身構えたのを見たローランが、慌てて担いでいた銃を構える。
アメルはきょとんとしている。彼女にはビブリードの人間が自分にとって脅威になる存在であるという自覚がないのだろう。
そしてエヴァは、マイペースに話を続けている。
「我々はある娘を探している。銀の髪で、身長がこれくらいの娘なのだが──」
これくらい、と彼は左手を百五十センチくらいの高さに持ってきて、見せた。
それを見たレオンの目が、ちらりとアメルに向いた。
レオンの様子に気付いたローランも、釣られるようにアメルに視線を移す。
アメルの全身を上から下まで見つめて、呟いた。
「銀の髪の、娘……」
「そう。丁度そこの娘くらいの年頃で……」
エヴァはそこまで言って、はたと気付いたように、言葉を切った。
アメルに注目し、口を開く。
「……いた、な」
「!」
レオンはすらりと剣を抜いた。
アメルをこのまま相手に引き渡すわけにはいかない。明確な理由は分からなかったが、そのように心が警鐘を鳴らしてきたのだ。
エヴァは銃を片手で持ち、銃口をレオンに向けた。
「その娘をこちらに引き渡してもらおうか。その娘は元々我らビブリードのもの……拒む理由はないはずだ」
「敵国に言われて大人しく従う人間がいると思うのか」
レオンは怯まない。
真っ向から自分に向けられた銃口を見据えて、答えた。
「このまま帰るなら追わない。向かってくるなら遠慮なく抵抗させてもらう」
「威勢は一丁前だな。痛い目を見ないと理解はせんか」
エヴァは声を張り上げた。
「行け、ローラン! 奴を倒して娘を奪え!」
「何で自分から喧嘩売っておいて自分でやらないんですかぁ。少しは自分の言動に責任持って下さいよぉ……」
ローランが引き金に掛けた指に力を込める。
ぱぁんっ、と乾いた音が辺りにこだまする。
レオンは地面を蹴って、エヴァの懐に飛び込んだ。
彼の髪を掠めて宙を貫いた銃弾は後ろに立っていた木に命中し、皮を弾けさせた。
「アメル、この場から離れて!」
レオンは叫んで、右手の剣を真横に大きく振り抜いた。
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