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冒険者への道
第13話 ハンバーグとスープリゾット
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料亭『金麦と葡萄の揺り籠』。
リンドルの街唯一の料亭は、夜になると酒場になる一面を持つ酒の品揃えも豊富な店だ。
街の住民だけではなく冒険者も多く足を運ぶ、人気の食事処なのである。
昼食時ということもあって、店は多くの客で賑わっていた。
レオンとアメルが座っているのは、店の奥の方にあるテーブル席だ。
アメルは手元のメニューを真剣な顔をして見つめていた。
レオンはその様子を、微笑みながら眺めている。
「……色々な料理がたくさんあって、悩んじゃう」
「此処はメニューが豊富だからね。どれも美味しいから悩むよね」
彼はメニューのある一点を指差した。
「悩んだ時は、素直に店のお勧めを注文するといいかもね。まずハズレがないからじっくり料理の味を楽しめると思うよ」
「……お勧め……」
店のお勧めには、季節の野菜をたっぷり使ったハンバーグとあった。
挽き肉に細かくした野菜をたっぷり混ぜ入れてじっくりと焼き上げた、特製のソースで頂くハンバーグだ。
がっつりと肉をそのまま頂くステーキなんかと比較したら、同じ肉料理でも女性や子供が食べやすいメニューかもしれない。
アメルは言った。
「……私、ハンバーグって食べたことないかもしれない」
「そうなのかい?」
それは意外だ、と言いたげな視線を彼女に向けるレオン。
「それなら、是非食べるといいよ。此処のハンバーグは本当に美味しいから、きっと好きになれるよ」
「うん」
アメルは頷いて、メニューをレオンに渡した。
「レオンがそう言うなら、ハンバーグにする」
「それじゃあ、僕は……」
レオンはしばし無言になってメニューを物色した後、魚介のスープリゾットを選んだ。
パンより米が食べたい気分なんだよね、と言って彼は笑っていた。
傍を通りかかった店員に料理を注文して、静かに待つ。
待っている間、アメルはしきりに店内の様子を見回していた。
木造の店内は、あちこちに植物が飾られてまるで自然の中にいるような雰囲気を作り出していた。
壁に掛かっている時計やランプなどの小物なんかも、雰囲気に合わせて自然素材で作られたものを使用している。
テーブルは大きな丸太を縦割りにして誂えられた随分とワイルドな形の一品だ。
これで店内を野鳥なんかが飛んでいたら、まさに森の中の店、といった装いの店になったことだろう。
「リンドルの森のスナイプバードなんだけどさ……」
周囲の席に座っている冒険者たちの会話が、ちらほらと聞こえてくる。
いつか自分も人とああいう話をするようになるのかな、と思いながら、アメルは手元にある水をこくんと飲んだ。
「お待たせしました」
店員が料理を運んできた。
出来立てのハンバーグは、ソースの香りの湯気が立った実に美味しそうな一品だった。
付け合わせとして添えられているブロッコリーと人参も色鮮やかだ。
スープリゾットは、小さな海老やイカ、ホタテがたっぷり入った賑やかな見た目の料理だった。
米の一粒一粒がスープを吸ってふっくらとしている。さらさらとしたトマトベースのスープは、スパイスが効いており食欲を掻き立てる香りがしている。
レオンはスプーンを手に取り、アメルに笑いかけた。
「さ、冷めないうちに頂こう」
アメルはフォークとナイフを手繰り寄せて、小さく喉を鳴らした。
「……いただきます」
それから二人は、料亭自慢の料理を心行くまで堪能した。
運動をして空腹になっていたこともあって、アメルは大きなハンバーグを残さずぺろりと完食したのだった。
リンドルの街唯一の料亭は、夜になると酒場になる一面を持つ酒の品揃えも豊富な店だ。
街の住民だけではなく冒険者も多く足を運ぶ、人気の食事処なのである。
昼食時ということもあって、店は多くの客で賑わっていた。
レオンとアメルが座っているのは、店の奥の方にあるテーブル席だ。
アメルは手元のメニューを真剣な顔をして見つめていた。
レオンはその様子を、微笑みながら眺めている。
「……色々な料理がたくさんあって、悩んじゃう」
「此処はメニューが豊富だからね。どれも美味しいから悩むよね」
彼はメニューのある一点を指差した。
「悩んだ時は、素直に店のお勧めを注文するといいかもね。まずハズレがないからじっくり料理の味を楽しめると思うよ」
「……お勧め……」
店のお勧めには、季節の野菜をたっぷり使ったハンバーグとあった。
挽き肉に細かくした野菜をたっぷり混ぜ入れてじっくりと焼き上げた、特製のソースで頂くハンバーグだ。
がっつりと肉をそのまま頂くステーキなんかと比較したら、同じ肉料理でも女性や子供が食べやすいメニューかもしれない。
アメルは言った。
「……私、ハンバーグって食べたことないかもしれない」
「そうなのかい?」
それは意外だ、と言いたげな視線を彼女に向けるレオン。
「それなら、是非食べるといいよ。此処のハンバーグは本当に美味しいから、きっと好きになれるよ」
「うん」
アメルは頷いて、メニューをレオンに渡した。
「レオンがそう言うなら、ハンバーグにする」
「それじゃあ、僕は……」
レオンはしばし無言になってメニューを物色した後、魚介のスープリゾットを選んだ。
パンより米が食べたい気分なんだよね、と言って彼は笑っていた。
傍を通りかかった店員に料理を注文して、静かに待つ。
待っている間、アメルはしきりに店内の様子を見回していた。
木造の店内は、あちこちに植物が飾られてまるで自然の中にいるような雰囲気を作り出していた。
壁に掛かっている時計やランプなどの小物なんかも、雰囲気に合わせて自然素材で作られたものを使用している。
テーブルは大きな丸太を縦割りにして誂えられた随分とワイルドな形の一品だ。
これで店内を野鳥なんかが飛んでいたら、まさに森の中の店、といった装いの店になったことだろう。
「リンドルの森のスナイプバードなんだけどさ……」
周囲の席に座っている冒険者たちの会話が、ちらほらと聞こえてくる。
いつか自分も人とああいう話をするようになるのかな、と思いながら、アメルは手元にある水をこくんと飲んだ。
「お待たせしました」
店員が料理を運んできた。
出来立てのハンバーグは、ソースの香りの湯気が立った実に美味しそうな一品だった。
付け合わせとして添えられているブロッコリーと人参も色鮮やかだ。
スープリゾットは、小さな海老やイカ、ホタテがたっぷり入った賑やかな見た目の料理だった。
米の一粒一粒がスープを吸ってふっくらとしている。さらさらとしたトマトベースのスープは、スパイスが効いており食欲を掻き立てる香りがしている。
レオンはスプーンを手に取り、アメルに笑いかけた。
「さ、冷めないうちに頂こう」
アメルはフォークとナイフを手繰り寄せて、小さく喉を鳴らした。
「……いただきます」
それから二人は、料亭自慢の料理を心行くまで堪能した。
運動をして空腹になっていたこともあって、アメルは大きなハンバーグを残さずぺろりと完食したのだった。
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