上 下
34 / 87

第33話 肉巻きおにぎり

しおりを挟む
 おにぎりを作るのは御飯が熱いうちにやるのが鉄則だ。
 冷めると固くなるし、美味しくなくなるからな。
 炊きたての御飯は熱いが、そこは慣れるしかないので我慢しよう。慣れればすっと作れるようになるぞ。
 魔族は多少熱いのは平気なのか文句を言う奴はいなかったので、俺がおにぎりを握るやり方を見よう見真似で覚えてもらって早速作業に入ってもらった。
 まず、御飯を俵型に握り、中にチーズを入れる。チーズの量は基本的にお好みだが、後で食べた時に肉とチーズが同時に味わえるように今回は気持ち多めに入れた。
 チーズを入れて成形したら、薄切りにした肉を巻く。肉二枚分もあれば綺麗に米が隠れるように巻けるだろう。
 肉を巻いたら小麦粉を薄くまぶし、フライパンに油をひいておにぎりを焼いていく。この時に注意するのは、全体によく火が通るようにまんべんなくしっかりと焼くこと。肉に焼き色が付くのが大体の目安だ。
 おにぎりに火が通ったら、醤油、砂糖、みりんを加えて更に熱する。
 汁気がなくなったら完成だ。
 今回御飯は白いのを使ったが、味飯なんかにしても美味いと思うぞ。
 これを、俺たちは協力して大量に作っていった。
「いい匂いがするな」
 朝飯組に指示を飛ばしていたシーグレットがやって来た。
 彼は完成した肉巻きおにぎりに目を向けて一言、
「何だこりゃ……肉団子か?」
 おにぎりに手を伸ばし、しげしげと見つめた後に、ぱくり。
「むおっ」
 中からとろりと出てきたチーズに目を向けて、驚愕の声を漏らした。
「米とチーズを肉で巻いたのか! 甘いタレの味とチーズの味がいい具合に効いてやがるな、これは何個でもいけそうだぞ!」
「何個も食うなよ。兵士の弁当なんだからな」
 俺はぴしゃりと言い放った。
 釘を刺しておかないと遠慮なしに食うからな、シーグレットは。
 シーグレットは微妙に残念そうな顔をして俺の方を見た後、試食したおにぎりをきっちりと完食して料理人たちに言った。
「弁当作りの方は順調そうだな。まぁマオがいるから心配はしてねぇが……時間にきっちり間に合うように作れよ、分かったな」
「弁当作りの方は、って、朝飯の方は順調じゃないのかよ」
 俺が思わず突っ込むと、シーグレットは朝飯組の方をちらりと見て、言った。
「いや、今のところは問題は起きちゃいねぇよ。あいつらも此処で長いことやってきた料理人だからな、馴染みの料理は手馴れたもんだ」
 今回朝飯として作っているのはスクエアスープという料理らしい。
 サイコロの形に切った肉を焼いて、ジャガイモ、人参、玉葱なんかの野菜を煮込んで作ったスープに入れて作る料理なんだそうだ。
 肉は何を使ってもいいが、お勧めは牛系の魔物肉なんだとか。肉を焼いた時に染み出る脂がスープの味に深みを与えてくれるらしい。
 エメラルドスープみたいに変な料理かと思ったけど、意外と普通だったな。これなら変な警戒心を抱かずに食べることができそうだ。
 朝飯を食べる時のことを考えていたら、俺の腹が小さく鳴った。
 うん、腹減ったな。早いところ作業を終わらせて飯食おう。
 新たに炊き上がった御飯を一掴み手に取って、俺は黙々と作る作業に集中したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

最強魔導士となって国に尽くしたら、敵国王子様が離してくれなくなりました

Mee.
ファンタジー
 薔薇(ローザ)は彼氏なし歴=年齢の、陰キャOL。  ある日いつものようにゲームをしていると、突如としてゲームの世界へと迷い込んでしまった。そこで偶然グルニア帝国軍に拾われ『伝説の魔導士』として崇められるも、捕虜同然の扱いを受ける。  そして、放り出された戦場で、敵国ロスノック帝国の第二王子レオンに助けられた。  ゲームの中では極悪非道だったレオンだが、この世界のレオンは優しくて紳士的だった。敵国魔導士だったローザを温かく迎え入れ、魔法の使いかたを教える。ローザの魔法はぐんぐん上達し、文字通り最強魔導士となっていく。  ローザはレオンに恩返ししようと奮闘する。様々な魔法を覚え、飢饉に苦しむ人々のために野菜を育てようとする。  レオンはそんなローザに、特別な感情を抱き始めていた。そして、レオンの溺愛はエスカレートしていくのだった……

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

処理中です...