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第5話 お使い

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 冒険者ギルドの仕事は、おおまかに分けて三つある。
 ひとつは、冒険者が持ち込んだ魔物の解体。死骸を骨や皮などの武具や錬金薬の材料になる素材に分ける作業だ。
 これは解体士を中心に行われる仕事で、ギルドに併設された専用の作業場で行われる。
 ひとつは、素材の売買。魔物の解体によって得た素材やダンジョンで出土した道具などを冒険者から買い取ったり、逆に冒険者に販売したりする業務だ。
 鑑定士が担うのは素材や道具の鑑定作業である。此処で出た結果によって動く金額が変わるので、鑑定士としては力の入る活躍の場と言えるだろう。
 ひとつは、冒険者への仕事の斡旋。街から寄せられた依頼を仕事クエストとして紹介する仕事だ。
 お使い同然の簡単な依頼から凶悪な魔物の討伐依頼まで、その内容は多岐に渡る。実力に伴わない依頼クエストを受注させないように冒険者を見定めるのがギルドの役割で、此処でも鑑定士の能力が力を発揮する。受注希望者がその依頼を受けるに相応しい実力を持っているかどうかを鑑定し、希望者の力量でこなせる仕事のレベルを明らかに超えている場合はそれを伝えるのだ。
 これは未来のある冒険者が無茶をして死んでしまう可能性を少しでも減らすためだけではなく、役不足の人間を派遣して仕事の依頼人に迷惑を掛けてしまうのを防ぐためでもある。冒険者ギルドとて決して意地悪をしているわけではないのだ。
 ──こんな感じで、一見暇そうに見える鑑定士もギルド内では多くの役目を担っていて多忙なのである。
 だからギルドを留守にしてダンジョンに潜ってる場合じゃないんだって。本当に。
 僕がいない間、鑑定依頼が殺到したらどうするつもりなんだろう。全部翌日に回すつもりなのか?

「……ふぅ」

 僕は椅子の背凭れに身体を預けて大きく伸びをした。
 壁に掛けられた時計は、二本の針はどちらも頂点付近を指している。
 そろそろ昼休憩の時間だな。
 昼御飯に何を食べるか考えないと。
 その辺の出店で済ませても良いのだけど、さっきの問答で微妙に疲れたから軽食をつまむだけだと物足りない感じがするし。今回はちゃんとした食事処でゆっくり腰を落ち着けて食べたいかもしれない。
 食事処で注文するなら、やっぱり定食系かな。一品ものじゃなくて主菜に副菜その他諸々揃ってる満足セットだ。
 肉は昨日食べたし、たまには魚料理とかどうだろう。
 白身魚がたっぷり入ったシチューとサラダ、パンのセットとか……ああ、考えただけで唾が湧いてくる。

「イオちゃーん」

 などと考えを巡らせているところに、階下からヘンゼルさんの呼び声が。
 僕は眼鏡を外して作業場を出た。
 階段を下りて一階のギルドカウンターへ向かうと、カウンターの奥でヘンゼルさんがおいでおいでと手招きをしている様子が見える。

「何ですか?」
「貴方、お昼御飯で外に出るでしょ? そのついでに、これを裁縫ギルドに届けてきてくれないかしら」

 言いながらヘンゼルさんが取り出したのは、一抱えほどの大きさの麻袋。
 受け取ると、ずしりとした重みが手に伝わってくる。

「これは?」
「頼まれてた絹糸よ。クロウラーの繭玉が買取で在庫に入ったから、やっと工面できたのよ」

 クロウラーとは巨大な芋虫の魔物だ。何かの幼虫らしいのだが、その成虫の姿が何なのかは未だ謎に包まれている。
 所構わず糸を吐くので迷惑極まりない魔物なのだが、その糸が高品質の絹糸になるとかで服飾関係の職人の間で重宝されているらしい。
 確かに、裁縫ギルドなら欲しがる素材だ。

「分かりました」
「宜しくね」

 僕はヘンゼルさんから預かった荷物を片手に、ギルドの外に出た。
 天頂で輝く太陽の光が眩しい。肌寒さも幾分か和らいで、ぽかぽかとした陽気が心地良く感じられる。
 裁縫ギルドも調理ギルドも、向かう方向は同じだ。先に裁縫ギルドに届け物をして、それから昼食で良いだろう。
 腕の中の麻袋を抱え直し、通りに沿って歩を進めていく。
 行き交う人々の大半は冒険者だ。大きな剣を背負った騎士、骨董品のような形状の杖を携えた魔道士、実に様々な人がいる。
 それだけ街が冒険者のお陰で活性化しているという何よりの証だ。
 街が活性化するのは住人にとっても有難いことで、街では冒険者の受け入れを積極的に行っている。
 冒険者ギルドが街に存在しているかどうかは、実は地味に重要なことなのだ。
 冒険者ギルドは大抵の町村にはあって当たり前の施設ではあるんだけど、たまに物凄い辺境にある小さい集落みたいな場所にはないこともあるらしいから。そういう場所だと仕事の斡旋どころか魔物の素材の取引もできないことが多いので、冒険者にとっては結構不便なんだとか。そういう場所には長居せずにさっさと他所のギルドがある町へと移動してしまうそうだ。
 ラニーニャは冒険者ギルドだけじゃなくて色々と揃ってる街だから、恵まれてるよね。本当に。
 この街に産まれて良かったって本当にそう思う。
 ──お、裁縫ギルドが見えてきた。
 外観はガラス張りの大きな展示用スペースを備えた店、という雰囲気の建物だ。展示用スペースには煌びやかな装束を着せられたトルソーが幾つも飾られており、傍らに小さな札が立てられている。その札には『当裁縫ギルド所属の裁縫師が製作しました』と書かれていた。
 修行中の裁縫師の作品か……凄いな。普通に店で販売していてもおかしくない完成度だ。
 さて。ギルドマスターはいるかな?

「こんにちはー」

 僕は戸口のところで挨拶をしてから、裁縫ギルドの玄関口をくぐり抜けた。
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