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第24話 悪戯坊主
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てしてし、てしてし。
誰かが僕の顔を叩いている。
メネ? そんなに叩かなくたって今起きるよ。
僕は閉じていた瞼をゆっくりと開けた。
視界に最初に飛び込んできたのは、真っ黒な毛の塊だった。
メネじゃなかった。
僕が上体を起こすと、それはぽんぽんと跳ねるボールのように僕の顔から下りた。
「おはよう、クロ」
クロは耳をぴんと立てて、僕の顔をじっと見上げている。
クロは、昨日生まれたシャドウラビットの子だ。
見た目は真っ黒な毛並みの兎で、背中に小さな蝙蝠の翼が生えているのが特徴だ。
あの卵からこんな可愛い兎が生まれてくるんだもの、違和感が凄くて生まれてきた時は思わず見入っちゃったよ。
僕がベッドから降りると、クロはぴょんぴょんと床を跳ねて部屋を出て行ってしまった。
「おはよう」
着替えてリビングに行くと、メネはテーブルの上で食事を並べているところだった。
今日の朝御飯は……パンと、スープか。赤い色をしてるからミネストローネかな?
「おはよう、キラ。今呼びに行こうって思ってたところだよ」
「クロに起こされたよ」
僕は後頭部を掻いて、席に着いた。
観葉植物が並んだ、いつものリビングの風景。それを見つめながら、ふと疑問に思い、言う。
「あれ、クロは?」
僕より先に部屋を出たはずのクロの姿がない。
メネは小首を傾げた。
「この部屋には来なかったよ? 寝室にいたんじゃないの?」
「僕が起きたらすぐに部屋を出ていったよ。てっきり此処に来てると思ったのに」
……何か嫌な予感が。
僕が周囲をぐるりと見回した、その直後だった。
部屋の外から、がしゃんと何かをひっくり返した音が聞こえてきた。
これは……キッチンだ。
「!……また」
僕は慌ててキッチンに向かった。
そして、目の前の惨状に頭を抱えたのだった。
床一面にぶちまけられた神果。床にひっくり返った籠。横倒しになったピクルスの入った瓶。
瓶の傍で後足で立っているクロの姿。
「あーもう、またやった!」
「うわ、凄いね」
呆気に取られているメネを入口に残して、僕は大股でキッチンに入った。
床に散らばった神果を踏まないように注意しながらクロに近付いて、両手で抱き上げる。
「もー、悪戯しちゃ駄目って言ったじゃないか。めっ!」
クロは僕の顔を見つめながら、鼻をひくひくさせている。
僕の説教を聞いているんだかいないんだか分からない顔だ。
……こりゃ、また同じことやるな。
クロはアースと違って物怖じしない性格なのだが、好奇心旺盛すぎてしょっちゅう悪戯をするのが困りものだ。
こうして神果の入った籠をひっくり返すのはもちろん、観葉植物の鉢を倒したり、生命の揺り籠に飛び込んで床を水浸しにしたり、やりたい放題なのである。
早いところ牧場を作ってそちらに移した方がいいと思って速攻で牧場作りに着手したのだが、完成するまではまだ少し時間がかかるし……
大人になってもこの悪戯癖が抜けなかったらどうしよう。
「神果は大丈夫? 潰れてない?」
メネが近付いてきて、床に落ちている籠を拾った。
「……潰れてないね。良かった。拾っちゃうね」
「もう、お前はキッチンに入っちゃ駄目だよ! リビングに行くよ」
僕はクロを抱えてキッチンを出た。
のんびり朝御飯も食べてられないよ。本当に困ったものだね、この子は。
誰かが僕の顔を叩いている。
メネ? そんなに叩かなくたって今起きるよ。
僕は閉じていた瞼をゆっくりと開けた。
視界に最初に飛び込んできたのは、真っ黒な毛の塊だった。
メネじゃなかった。
僕が上体を起こすと、それはぽんぽんと跳ねるボールのように僕の顔から下りた。
「おはよう、クロ」
クロは耳をぴんと立てて、僕の顔をじっと見上げている。
クロは、昨日生まれたシャドウラビットの子だ。
見た目は真っ黒な毛並みの兎で、背中に小さな蝙蝠の翼が生えているのが特徴だ。
あの卵からこんな可愛い兎が生まれてくるんだもの、違和感が凄くて生まれてきた時は思わず見入っちゃったよ。
僕がベッドから降りると、クロはぴょんぴょんと床を跳ねて部屋を出て行ってしまった。
「おはよう」
着替えてリビングに行くと、メネはテーブルの上で食事を並べているところだった。
今日の朝御飯は……パンと、スープか。赤い色をしてるからミネストローネかな?
「おはよう、キラ。今呼びに行こうって思ってたところだよ」
「クロに起こされたよ」
僕は後頭部を掻いて、席に着いた。
観葉植物が並んだ、いつものリビングの風景。それを見つめながら、ふと疑問に思い、言う。
「あれ、クロは?」
僕より先に部屋を出たはずのクロの姿がない。
メネは小首を傾げた。
「この部屋には来なかったよ? 寝室にいたんじゃないの?」
「僕が起きたらすぐに部屋を出ていったよ。てっきり此処に来てると思ったのに」
……何か嫌な予感が。
僕が周囲をぐるりと見回した、その直後だった。
部屋の外から、がしゃんと何かをひっくり返した音が聞こえてきた。
これは……キッチンだ。
「!……また」
僕は慌ててキッチンに向かった。
そして、目の前の惨状に頭を抱えたのだった。
床一面にぶちまけられた神果。床にひっくり返った籠。横倒しになったピクルスの入った瓶。
瓶の傍で後足で立っているクロの姿。
「あーもう、またやった!」
「うわ、凄いね」
呆気に取られているメネを入口に残して、僕は大股でキッチンに入った。
床に散らばった神果を踏まないように注意しながらクロに近付いて、両手で抱き上げる。
「もー、悪戯しちゃ駄目って言ったじゃないか。めっ!」
クロは僕の顔を見つめながら、鼻をひくひくさせている。
僕の説教を聞いているんだかいないんだか分からない顔だ。
……こりゃ、また同じことやるな。
クロはアースと違って物怖じしない性格なのだが、好奇心旺盛すぎてしょっちゅう悪戯をするのが困りものだ。
こうして神果の入った籠をひっくり返すのはもちろん、観葉植物の鉢を倒したり、生命の揺り籠に飛び込んで床を水浸しにしたり、やりたい放題なのである。
早いところ牧場を作ってそちらに移した方がいいと思って速攻で牧場作りに着手したのだが、完成するまではまだ少し時間がかかるし……
大人になってもこの悪戯癖が抜けなかったらどうしよう。
「神果は大丈夫? 潰れてない?」
メネが近付いてきて、床に落ちている籠を拾った。
「……潰れてないね。良かった。拾っちゃうね」
「もう、お前はキッチンに入っちゃ駄目だよ! リビングに行くよ」
僕はクロを抱えてキッチンを出た。
のんびり朝御飯も食べてられないよ。本当に困ったものだね、この子は。
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