22 / 78
第22話 エルにとっての救い
しおりを挟む
僕とメネが土の牧場作りをしていると、家の方から一人の女性がやって来た。
占い師のような格好をした黒髪の美女で、おっとりとした雰囲気が漂っている。
右手に黒い色をした卵を抱えているので、彼女が神様だということはすぐに分かった。
「順調に、エルの育成は進んでいるようですね──」
彼女は空を見上げて、言った。
「僅かですが……この地に精霊の力が満ちているのを感じます。これならば、この世界が復活を遂げる日もそう遠くはないでしょう……」
「クロムエル、来てくれたの?」
メネは親しげにクロムエルに近付いた。
ふふ、とクロムエルは笑って、メネに顔を向けた。
「ラファニエルに頼まれたのですよ……私のエルの卵を、貴女たちに渡してほしいと」
クロムエルはゆっくりと僕の傍まで歩いてくると、抱えている卵を差し出してきた。
「シャドウラビットの卵です……貴方たちの手で、立派なエルに育ててあげて下さい……」
シャドウラビット……兎か?
兎が卵から生まれちゃうんだ。兎って哺乳類だよね?
ま、まあエルだし。姿は関係ないか。
「ありがとうございます」
僕はクロムエルから卵を受け取った。
そんな僕を、クロムエルはじっと見つめている。
「?……何か?」
「この世界の救済のためにラファニエルが召喚したと聞いてはいましたが……こうして実際にお会いすると、普通の方と何ら変わりはないのですね……」
クロムエル曰く、異世界から召喚された人間は普通では考えられないような能力を持っているのが普通らしい。
やっぱり、召喚勇者って特別な存在なんだな。
普通あるはずの能力が何もないって時点で、僕は十分普通の異世界人じゃないのかもしれないけどさ。
「気に病むことはありませんよ……貴方は貴方らしく、エルたちと接してあげて下さい。エルたちにとっては、それが救いになるのですから……」
エルたちにとっての救い、か……
エルたちが僕のことをどう思っているのかは分からないけど、親しい存在として見てくれるように接していきたいものだ。
「私たちは、貴方たちを応援しています……どんな困難が訪れようとも、諦めずに、この地をエルと精霊で一杯にしていって下さい……」
困難、か。クロムエルも、カエラが牧場作りを妨害していることは知っているんだな。
何とかカエラに妨害するのを思い改めさせたいものだが……何かいい方法はないものか。
神界に帰っていくクロムエルを見送りながら、僕は思考を巡らせた。
──そして。ひとつの考えが、僕の中に浮かんだ。
牧場作りの作業を終えて家に戻った僕は、早速メネにその考えを伝えた。
「え? 魔法を使えるようになりたい?」
「うん」
僕は頷いた。
「この牧場は僕が守ってるんだってことを見せれば、カエラも少しは妨害するのを躊躇うと思うんだよ」
カエラが牧場作りを妨害してくる理由は、簡単。牧場を守る存在がいないからだ。
現状カエラは、メネが何とか追い払っている状況だ。それではカエラが何度も此処に来るのも無理はないと思うんだよね。
僕が魔法を使えるようになれば、カエラが作業を妨害してきた時に対抗するための武器になる。痛い目を見るかもしれないという危惧を抱かせることができれば、カエラも妨害するのを控えるようになると思うんだけど、どうだろう。
うーん、とメネは顎に手を当てて考え込んだ。
「力を誇示してカエラに妨害を思いとどまらせるっていう考えは置いといて……キラが魔法を使えるようになるかどうかは、ラファニエル次第だと思う。異世界から召喚した人間に特別な力を授けるかどうかは、召喚した神が決めることだから」
まあ、そうだろうね。召喚勇者が何もせずに特別な力を持つなんてことは普通ありえないことだと思うし。
けど、そうなると……ラファニエルに頼むことになるのか。
次にラファニエルが此処に来るのがいつになるかは分からないし、気の長い話になりそうだ。
「でも、キラが魔法を使えるようになるのはメネも賛成だよ。キラが魔法を使えるようになったら、畑作りとか、牧場作りの作業が今よりもずっと捗るようになるからね!」
メネは僕の目の前まで飛んできて、自分の胸を叩いた。
「今の話、メネからラファニエルにしておくね。返事が貰えるまでちょっと待っててもらえるかな?」
「うん。何だか厄介な話を振っちゃったみたいでごめんね」
「ううん、いいよ。キラを助けるのがメネのお仕事だし、このくらいのことは何てことないよ」
足下に、こつんという感触。
見ると、アースが僕の足を前足で踏んでこちらの顔をじっと見上げていた。
そういえば、アースにまだ御飯をあげてなかったね。お腹空いたって催促かな。
何でもすぐにできることだとは思わないし、今は目の前のことをひとつずつ確実にやっていこう。
とりあえず、アースの食事の世話だ。
僕はアースを抱き上げて、神果を保存しているキッチンへと向かった。
占い師のような格好をした黒髪の美女で、おっとりとした雰囲気が漂っている。
右手に黒い色をした卵を抱えているので、彼女が神様だということはすぐに分かった。
「順調に、エルの育成は進んでいるようですね──」
彼女は空を見上げて、言った。
「僅かですが……この地に精霊の力が満ちているのを感じます。これならば、この世界が復活を遂げる日もそう遠くはないでしょう……」
「クロムエル、来てくれたの?」
メネは親しげにクロムエルに近付いた。
ふふ、とクロムエルは笑って、メネに顔を向けた。
「ラファニエルに頼まれたのですよ……私のエルの卵を、貴女たちに渡してほしいと」
クロムエルはゆっくりと僕の傍まで歩いてくると、抱えている卵を差し出してきた。
「シャドウラビットの卵です……貴方たちの手で、立派なエルに育ててあげて下さい……」
シャドウラビット……兎か?
兎が卵から生まれちゃうんだ。兎って哺乳類だよね?
ま、まあエルだし。姿は関係ないか。
「ありがとうございます」
僕はクロムエルから卵を受け取った。
そんな僕を、クロムエルはじっと見つめている。
「?……何か?」
「この世界の救済のためにラファニエルが召喚したと聞いてはいましたが……こうして実際にお会いすると、普通の方と何ら変わりはないのですね……」
クロムエル曰く、異世界から召喚された人間は普通では考えられないような能力を持っているのが普通らしい。
やっぱり、召喚勇者って特別な存在なんだな。
普通あるはずの能力が何もないって時点で、僕は十分普通の異世界人じゃないのかもしれないけどさ。
「気に病むことはありませんよ……貴方は貴方らしく、エルたちと接してあげて下さい。エルたちにとっては、それが救いになるのですから……」
エルたちにとっての救い、か……
エルたちが僕のことをどう思っているのかは分からないけど、親しい存在として見てくれるように接していきたいものだ。
「私たちは、貴方たちを応援しています……どんな困難が訪れようとも、諦めずに、この地をエルと精霊で一杯にしていって下さい……」
困難、か。クロムエルも、カエラが牧場作りを妨害していることは知っているんだな。
何とかカエラに妨害するのを思い改めさせたいものだが……何かいい方法はないものか。
神界に帰っていくクロムエルを見送りながら、僕は思考を巡らせた。
──そして。ひとつの考えが、僕の中に浮かんだ。
牧場作りの作業を終えて家に戻った僕は、早速メネにその考えを伝えた。
「え? 魔法を使えるようになりたい?」
「うん」
僕は頷いた。
「この牧場は僕が守ってるんだってことを見せれば、カエラも少しは妨害するのを躊躇うと思うんだよ」
カエラが牧場作りを妨害してくる理由は、簡単。牧場を守る存在がいないからだ。
現状カエラは、メネが何とか追い払っている状況だ。それではカエラが何度も此処に来るのも無理はないと思うんだよね。
僕が魔法を使えるようになれば、カエラが作業を妨害してきた時に対抗するための武器になる。痛い目を見るかもしれないという危惧を抱かせることができれば、カエラも妨害するのを控えるようになると思うんだけど、どうだろう。
うーん、とメネは顎に手を当てて考え込んだ。
「力を誇示してカエラに妨害を思いとどまらせるっていう考えは置いといて……キラが魔法を使えるようになるかどうかは、ラファニエル次第だと思う。異世界から召喚した人間に特別な力を授けるかどうかは、召喚した神が決めることだから」
まあ、そうだろうね。召喚勇者が何もせずに特別な力を持つなんてことは普通ありえないことだと思うし。
けど、そうなると……ラファニエルに頼むことになるのか。
次にラファニエルが此処に来るのがいつになるかは分からないし、気の長い話になりそうだ。
「でも、キラが魔法を使えるようになるのはメネも賛成だよ。キラが魔法を使えるようになったら、畑作りとか、牧場作りの作業が今よりもずっと捗るようになるからね!」
メネは僕の目の前まで飛んできて、自分の胸を叩いた。
「今の話、メネからラファニエルにしておくね。返事が貰えるまでちょっと待っててもらえるかな?」
「うん。何だか厄介な話を振っちゃったみたいでごめんね」
「ううん、いいよ。キラを助けるのがメネのお仕事だし、このくらいのことは何てことないよ」
足下に、こつんという感触。
見ると、アースが僕の足を前足で踏んでこちらの顔をじっと見上げていた。
そういえば、アースにまだ御飯をあげてなかったね。お腹空いたって催促かな。
何でもすぐにできることだとは思わないし、今は目の前のことをひとつずつ確実にやっていこう。
とりあえず、アースの食事の世話だ。
僕はアースを抱き上げて、神果を保存しているキッチンへと向かった。
0
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
慟哭の時
レクフル
ファンタジー
物心ついた時から、母と二人で旅をしていた。
各地を周り、何処に行くでもなく旅をする。
気づいたらそうだったし、何の疑問も持たなくて、ただ私は母と旅を続けていた。
しかし、母には旅をする理由があった。
そんな日々が続いたある日、母がいなくなった。
私は一人になったのだ。
誰にも触れられず、人と関わる事を避けて生きていた私が急に一人になって、どう生きていけばいいのか……
それから母を探す旅を始める。
誰にも求められず、触れられず、忘れ去られていき、それでも生きていく理由等あるのだろうか……?
私にあるのは異常な力だけ。
普通でいられるのなら、こんな力等無くていいのだ。
だから旅をする。
私を必要としてくれる存在であった母を探すために。
私を愛してくれる人を探すために……
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる