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第20話 魔物との遭遇
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ぷちん、ぷちん。
籠に、収穫した神果を入れていく。
もう何度もやっていることなので慣れたものだ。
僕が神果を収穫している間、メネは隣の敷地を魔法で耕していた。
彼女は新しい神果を植えるための畑を作っているのだ。
僕は立ち上がって、メネに声を掛けた。
「メネ、新しい神果の種ってどんなやつ? 家から持って来なきゃ」
「メネが持ってくるよ、大丈夫」
「そう?」
「……きゃっ!」
唐突に、メネが悲鳴を上げた。
何事かと、僕は籠をその場に置いてメネがいる隣の畑に向かった。
「どうしたの?」
「あ、あれ……」
メネは畑を指差した。
耕しかけの畑の中央。そこに、土だらけの毛の塊のようなものが転がっていた。
大きさはバスケットボールよりも一回り大きいくらい。時折もぞもぞと動き、鋭い爪が生えた脚がちらりと土の陰から覗く。
その出で立ちは、何だかもぐらに似ているような気がする。
「何あれ?」
「ロックモール! 何処でも穴だらけにしちゃう魔物だよ!」
へぇ……魔物なんているんだ。
魔法が存在する世界だから、そういう生き物がいても不思議じゃないなとは思ってたけど。
何でもこれは、土のある場所になら何処にでも生息している魔物で、岩のような固いものでも、その爪で粉砕してしまうほどの強い力を持っているらしい。
性格は、比較的温厚。人を見ても、こちらがちょっかいをかけない限りは襲ってくることはないそうだ。
それなら僕たちの身の危険はなさそうだけど、畑を作ろうとしている場所にいるのはちょっと邪魔だな。
「んもー、何でこんな場所にいるの!」
「畑の外に追い出したら?」
「そんなことをしても、またすぐに戻ってきちゃうよ。ロックモールはふかふかな土が大好きなの、此処に耕した土があるって分かってるから、居心地がいい場所に戻ってきちゃう」
ふかふかな土が大好きな生き物か……
……よし、それなら。
僕は畑に入った。
「ちょっとごめんね」
ロックモールを両手で抱き上げる。
ロックモールはのったりとした動きで僕の方に顔を上げてくるが、暴れる様子は全くない。
僕はロックモールを抱えた状態で畑の外へ。
少し離れた位置で立ち止まり、メネを呼んだ。
「メネ、此処をちょっと深めに掘ってくれる?」
足先でとんとんと地面を叩く。
小首を傾げたメネが、地面を見た。
「いいけど、何するの?」
「この子はふかふかな土が好きなんでしょ? 此処が居心地のいい場所だったら、わざわざ抜け出して畑に戻ってくることはないと思うんだ」
「……成程」
僕の言わんとしていることを理解したようだ。メネは頷くと、僕の目の前に深さ一メートルくらいの大きめの穴を魔法で掘ってくれた。
僕は穴の中心にロックモールを静かに下ろした。
丸くなったまま動かないロックモールに、土をふんわりと掛けていく。
もぐらって基本的に土の中にいるから、この子も土の中にいる方が落ち着くと思うんだよね。
穴を元通り埋めて、これでよし、と手をはたきながら僕は立ち上がった。
「これで大丈夫だよ」
「キラ、発想が凄いね。魔物を殺さずに対処するなんて、人間の発想としてはなかなかないよ」
メネが感心した目でこちらを見ている。
人間は、普通は魔物を殺してしまうらしい。そうしないと自分たちの身の安全が脅かされるからだ。
これが凶暴な魔物だったら、僕もそうしたかもしれない。
だけど。
「大人しいって分かってる生き物なら、わざわざ殺す必要はないと思うよ。僕たちがやっているのは魔物の駆除じゃなくてエルの牧場作りなんだから」
「……そっか」
メネは優しく微笑んだ。
「キラはいい牧場主になれるね」
そう、かな?
面と向かってそんなことを言われると、照れちゃうな。
「さっ、お仕事の続きしよ! もう少しで土を耕し終わるから、そうしたら種蒔きしようね!」
こうして魔物の対処も無事に済んだ僕たちは、畑仕事を再開したのだった。
籠に、収穫した神果を入れていく。
もう何度もやっていることなので慣れたものだ。
僕が神果を収穫している間、メネは隣の敷地を魔法で耕していた。
彼女は新しい神果を植えるための畑を作っているのだ。
僕は立ち上がって、メネに声を掛けた。
「メネ、新しい神果の種ってどんなやつ? 家から持って来なきゃ」
「メネが持ってくるよ、大丈夫」
「そう?」
「……きゃっ!」
唐突に、メネが悲鳴を上げた。
何事かと、僕は籠をその場に置いてメネがいる隣の畑に向かった。
「どうしたの?」
「あ、あれ……」
メネは畑を指差した。
耕しかけの畑の中央。そこに、土だらけの毛の塊のようなものが転がっていた。
大きさはバスケットボールよりも一回り大きいくらい。時折もぞもぞと動き、鋭い爪が生えた脚がちらりと土の陰から覗く。
その出で立ちは、何だかもぐらに似ているような気がする。
「何あれ?」
「ロックモール! 何処でも穴だらけにしちゃう魔物だよ!」
へぇ……魔物なんているんだ。
魔法が存在する世界だから、そういう生き物がいても不思議じゃないなとは思ってたけど。
何でもこれは、土のある場所になら何処にでも生息している魔物で、岩のような固いものでも、その爪で粉砕してしまうほどの強い力を持っているらしい。
性格は、比較的温厚。人を見ても、こちらがちょっかいをかけない限りは襲ってくることはないそうだ。
それなら僕たちの身の危険はなさそうだけど、畑を作ろうとしている場所にいるのはちょっと邪魔だな。
「んもー、何でこんな場所にいるの!」
「畑の外に追い出したら?」
「そんなことをしても、またすぐに戻ってきちゃうよ。ロックモールはふかふかな土が大好きなの、此処に耕した土があるって分かってるから、居心地がいい場所に戻ってきちゃう」
ふかふかな土が大好きな生き物か……
……よし、それなら。
僕は畑に入った。
「ちょっとごめんね」
ロックモールを両手で抱き上げる。
ロックモールはのったりとした動きで僕の方に顔を上げてくるが、暴れる様子は全くない。
僕はロックモールを抱えた状態で畑の外へ。
少し離れた位置で立ち止まり、メネを呼んだ。
「メネ、此処をちょっと深めに掘ってくれる?」
足先でとんとんと地面を叩く。
小首を傾げたメネが、地面を見た。
「いいけど、何するの?」
「この子はふかふかな土が好きなんでしょ? 此処が居心地のいい場所だったら、わざわざ抜け出して畑に戻ってくることはないと思うんだ」
「……成程」
僕の言わんとしていることを理解したようだ。メネは頷くと、僕の目の前に深さ一メートルくらいの大きめの穴を魔法で掘ってくれた。
僕は穴の中心にロックモールを静かに下ろした。
丸くなったまま動かないロックモールに、土をふんわりと掛けていく。
もぐらって基本的に土の中にいるから、この子も土の中にいる方が落ち着くと思うんだよね。
穴を元通り埋めて、これでよし、と手をはたきながら僕は立ち上がった。
「これで大丈夫だよ」
「キラ、発想が凄いね。魔物を殺さずに対処するなんて、人間の発想としてはなかなかないよ」
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人間は、普通は魔物を殺してしまうらしい。そうしないと自分たちの身の安全が脅かされるからだ。
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だけど。
「大人しいって分かってる生き物なら、わざわざ殺す必要はないと思うよ。僕たちがやっているのは魔物の駆除じゃなくてエルの牧場作りなんだから」
「……そっか」
メネは優しく微笑んだ。
「キラはいい牧場主になれるね」
そう、かな?
面と向かってそんなことを言われると、照れちゃうな。
「さっ、お仕事の続きしよ! もう少しで土を耕し終わるから、そうしたら種蒔きしようね!」
こうして魔物の対処も無事に済んだ僕たちは、畑仕事を再開したのだった。
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