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第18話 全てのことには意味がある
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休息地は、牧場とは違い特別な場所だ。
そのため、作り方も牧場とは異なり、特別な手順を踏む。
まずは、敷地に埋める属性石の準備だ。
牧場を作る時は一種類を選んで使うが、休息地は全種類の属性石を使う。
これは、休息地は全てのエルにとって過ごしやすい場所でなければならないというのが理由らしい。
埋め方も牧場を作る時とは違い、埋め方があった。
八角形の頂点を打つように、円形に埋めるのだ。
これは、属性石の力が均等に休息地に広まるように考慮された配置なのだそうだ。
属性石を埋めたら、特別な木の苗を円の中心地点に植える。
これはラガオの宿木といって、属性石の魔力を吸収して敷地内に広めてくれる木なんだとか。
僕はメネと協力しながら、休息地作りの下準備を進めていった。
「木、植え終わったよ」
「それじゃあ、魔法を掛けるよ」
メネはラガオの宿木に向けて手を翳した。
小さな掌が、ほんのりと光り──
ばちん、と火花が散って、メネはびくっとして手を引っ込めた。
頭上に目を向けると、そこには掌を翳したカエラの姿が。
「させないわよ」
「邪魔しないで!」
メネはカエラの目の前に行き、彼女を睨んだ。
カエラは抗議するメネを涼しげな顔で見つめて、右手を横に向けて伸ばした。
掌中に、棒状の光が出現する。
それは、一瞬のうちに彼女の身の丈ほどある黒い鎌となった。
「私を追い返したかったら実力行使で来なさい。貴女のこの世界を救うという覚悟、どれほどのものか私が確かめてあげる」
鎌を両手で握り、振り上げるカエラ。
メネは表情を険しくして、カエラから距離を置いた。
これ以上は会話にならないと判断したのか、右手で横一文字を描く。
彼女の手が描いた軌跡が光の帯となり、それは白い棒となった。
「カエラ! どうしてメネたちの邪魔をするの!? 下界が滅びたら困るのは、下界に住む生き物だけじゃなくて神界も同じなんだよ!」
「貴女たちは知らないのよ。この世界が何故滅びたのか。この滅びに何の意味があるのか。それを知らないで世界を再生させるなんてよく言えたものね」
カエラは鎌を勢い良く振り下ろした。
鎌の刃は、咄嗟にメネが眼前で構えた棒に弾かれてがちんと音を立てた。
カエラは本気でメネを叩きのめす気だ。
こんな争いなんて馬鹿げてる。止めないと!
僕は慌てて二人の間に割って入り、二人を掴んで引き離した。
「ちょっと待ってよ、此処で二人が争うことに何の意味があるのさ!」
「!……ちょっと、離して……」
カエラが僕の手の中でもがいている。
やはり、武装しているとはいえ小さな妖精だ。彼女の体には、僕の手を無理矢理押し退けるほどの腕力はないらしい。
僕はカエラの顔をじっと見つめて、言った。
「この世界の救済は、僕たちが自己満足でやってることじゃない。大勢の神様が期待してくれてることなんだ。意味があることだって、僕は思ってる」
カエラの目が僕の顔に向く。
彼女の黒い瞳に、僕の顔が映っている。
僕は目を逸らさずに、彼女を説得するつもりで言葉を続けた。
「妨害するのはやめてくれないか。お願いだ」
「……離して」
静かにカエラは言った。
僕の指がぐいっと見えない力で引っ張られる。彼女が魔法で僕の手を無理矢理引き剥がしたらしい。
鎌を掌中から消し去って、彼女はふうっと溜め息にも似た息を吐いた。
「神界の神たちには分からないのよ。全てが動き出してからでは遅いというのに。全く、呆れたものだわ」
「……?」
「……それは貴方も一緒よ。言われるままに世界の再生を請け負うなんて、少しは考えてほしいものね」
カエラは僕から離れ、空高く舞い上がった。
「今日のところは此処までにしておいてあげる」
僕とメネを一瞥し、彼女は遠くの空へと去っていった。
僕は、彼女が残した言葉の意味を考えていた。
この世界が滅びたことに意味があるって……一体、どういうことなんだろう?
左手がもぞもぞと動いた。メネが身を捩っているのだ。
「キラ、もう大丈夫だから離して」
「あ……ああ、ごめんね」
僕は手の力を緩めた。
僕の束縛から逃れたメネが全身を伸ばしながら、カエラが去っていった方向を見つめた。
「どんな理由があったとしても、メネたちはこの世界を救うことを諦めちゃいけないの。世界が滅んでいい理由なんてないんだから」
ぱっとスイッチが切り替わったかのように、彼女は笑顔を僕に向けた。
「さ、休息地作りの続きだよ。エルたちのために、立派な場所にしようね!」
言ってラガオの苗木に魔法を掛ける。
この苗木が立派な木に成長して休息地が出来上がるまでには三日ほどかかるらしい。
カエラの言葉の意味は気になるけど、今の僕にとっては立派な牧場を作ってエルを育てることが使命なんだ。
いつかカエラにも認められるような仕事をしよう。そう心に決めて、僕はラガオの苗木に魔法が掛けられる様子を静かに見守ったのだった。
そのため、作り方も牧場とは異なり、特別な手順を踏む。
まずは、敷地に埋める属性石の準備だ。
牧場を作る時は一種類を選んで使うが、休息地は全種類の属性石を使う。
これは、休息地は全てのエルにとって過ごしやすい場所でなければならないというのが理由らしい。
埋め方も牧場を作る時とは違い、埋め方があった。
八角形の頂点を打つように、円形に埋めるのだ。
これは、属性石の力が均等に休息地に広まるように考慮された配置なのだそうだ。
属性石を埋めたら、特別な木の苗を円の中心地点に植える。
これはラガオの宿木といって、属性石の魔力を吸収して敷地内に広めてくれる木なんだとか。
僕はメネと協力しながら、休息地作りの下準備を進めていった。
「木、植え終わったよ」
「それじゃあ、魔法を掛けるよ」
メネはラガオの宿木に向けて手を翳した。
小さな掌が、ほんのりと光り──
ばちん、と火花が散って、メネはびくっとして手を引っ込めた。
頭上に目を向けると、そこには掌を翳したカエラの姿が。
「させないわよ」
「邪魔しないで!」
メネはカエラの目の前に行き、彼女を睨んだ。
カエラは抗議するメネを涼しげな顔で見つめて、右手を横に向けて伸ばした。
掌中に、棒状の光が出現する。
それは、一瞬のうちに彼女の身の丈ほどある黒い鎌となった。
「私を追い返したかったら実力行使で来なさい。貴女のこの世界を救うという覚悟、どれほどのものか私が確かめてあげる」
鎌を両手で握り、振り上げるカエラ。
メネは表情を険しくして、カエラから距離を置いた。
これ以上は会話にならないと判断したのか、右手で横一文字を描く。
彼女の手が描いた軌跡が光の帯となり、それは白い棒となった。
「カエラ! どうしてメネたちの邪魔をするの!? 下界が滅びたら困るのは、下界に住む生き物だけじゃなくて神界も同じなんだよ!」
「貴女たちは知らないのよ。この世界が何故滅びたのか。この滅びに何の意味があるのか。それを知らないで世界を再生させるなんてよく言えたものね」
カエラは鎌を勢い良く振り下ろした。
鎌の刃は、咄嗟にメネが眼前で構えた棒に弾かれてがちんと音を立てた。
カエラは本気でメネを叩きのめす気だ。
こんな争いなんて馬鹿げてる。止めないと!
僕は慌てて二人の間に割って入り、二人を掴んで引き離した。
「ちょっと待ってよ、此処で二人が争うことに何の意味があるのさ!」
「!……ちょっと、離して……」
カエラが僕の手の中でもがいている。
やはり、武装しているとはいえ小さな妖精だ。彼女の体には、僕の手を無理矢理押し退けるほどの腕力はないらしい。
僕はカエラの顔をじっと見つめて、言った。
「この世界の救済は、僕たちが自己満足でやってることじゃない。大勢の神様が期待してくれてることなんだ。意味があることだって、僕は思ってる」
カエラの目が僕の顔に向く。
彼女の黒い瞳に、僕の顔が映っている。
僕は目を逸らさずに、彼女を説得するつもりで言葉を続けた。
「妨害するのはやめてくれないか。お願いだ」
「……離して」
静かにカエラは言った。
僕の指がぐいっと見えない力で引っ張られる。彼女が魔法で僕の手を無理矢理引き剥がしたらしい。
鎌を掌中から消し去って、彼女はふうっと溜め息にも似た息を吐いた。
「神界の神たちには分からないのよ。全てが動き出してからでは遅いというのに。全く、呆れたものだわ」
「……?」
「……それは貴方も一緒よ。言われるままに世界の再生を請け負うなんて、少しは考えてほしいものね」
カエラは僕から離れ、空高く舞い上がった。
「今日のところは此処までにしておいてあげる」
僕とメネを一瞥し、彼女は遠くの空へと去っていった。
僕は、彼女が残した言葉の意味を考えていた。
この世界が滅びたことに意味があるって……一体、どういうことなんだろう?
左手がもぞもぞと動いた。メネが身を捩っているのだ。
「キラ、もう大丈夫だから離して」
「あ……ああ、ごめんね」
僕は手の力を緩めた。
僕の束縛から逃れたメネが全身を伸ばしながら、カエラが去っていった方向を見つめた。
「どんな理由があったとしても、メネたちはこの世界を救うことを諦めちゃいけないの。世界が滅んでいい理由なんてないんだから」
ぱっとスイッチが切り替わったかのように、彼女は笑顔を僕に向けた。
「さ、休息地作りの続きだよ。エルたちのために、立派な場所にしようね!」
言ってラガオの苗木に魔法を掛ける。
この苗木が立派な木に成長して休息地が出来上がるまでには三日ほどかかるらしい。
カエラの言葉の意味は気になるけど、今の僕にとっては立派な牧場を作ってエルを育てることが使命なんだ。
いつかカエラにも認められるような仕事をしよう。そう心に決めて、僕はラガオの苗木に魔法が掛けられる様子を静かに見守ったのだった。
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