17 / 78
第17話 女神仲間のアラキエル
しおりを挟む
まるでアラビアンナイトの世界から抜け出てきた姫君のような装束を身に着けたその女性は、ポニーテールに結った赤毛を揺らしながら、僕のことをじっと見つめていた。
何だか品定めをされているみたいだ。浴びせられる視線が鋭い。
「アラキエル」
女性を見てメネが声を上げる。
アラキエル……って、メネが言ってたラファニエルと仲良しの神様か?
何か、想像していたのと随分違うな。古き神々っていうから皆ラファニエルみたいにおしとやかな姿をしているものだと思ってたのに、彼女は随分と快活そうである。
神殿でゆったりと過ごすよりも外を自由に動き回っているような、そんな雰囲気だ。
「ラファニエルに聞いてはいたけど、本当に異世界人にこの世界の再生をやらせようとはな。大きな賭けに出たもんだな」
「キラは絶対にこの世界を元通りにしてくれるよ! メネはそう信じてる」
「随分信頼してんだな。そんな有能そうな男には見えねぇけどな、俺には」
アラキエルは肩を竦めた。
僕、そんなに頼りなく見えるかな?
まあ、周囲には同じ年頃の男子たちと比較したら何だかひ弱そうだって言われてたけどさ。
メネはぷうっと頬を膨らませて、腰に手を当てながらアラキエルの顔の前に移動した。
「キラのことを悪く言わないで!」
「分かった分かった。悪かったって。ちょっと思っただけだ、そんな目くじら立てるなよ」
アラキエルは後頭部に手をやって、髪をざあっと靡かせた。
手が元通り前に来ると、その手には茶色の卵が。
「アースタートルの卵だ。こいつが必要なんだろ」
僕の目の前まで来て、卵を手渡してくれる。
「あ……ありがとう」
僕は卵を受け取った。
アースタートルの卵は、レッドやメロンが生まれてきた卵と比較して殻が厚く硬そうな印象を受けた。
こんなに殻が厚くて、中の赤ちゃんはきちんと殻を破って生まれてこれるのかな。ちょっと心配だ。
「アースタートルは他のエルよりも生まれるのに時間がかかる。早いとこ揺り籠に置いてやった方がいいぜ」
「う、うん」
アラキエルに言われ、僕は生命の揺り籠に卵を置いた。
レッドやメロンは揺り籠に卵を置いて大体一日で生まれてきたから、少なくともそれ以上はかかるってことか。
時間がかかるのは別に構わない。生まれるのを待つ間に牧場作りをしたり、やることは色々あるからだ。
「キラ、っていったか」
生命の揺り籠に置いた卵を見つめていると、背後からアラキエルが名を呼んできた。
振り向くと、真面目な面持ちでこちらを見つめているアラキエルの姿が目に入った。
「俺たち神は下界に直接手を出しちゃならねぇって掟がある。この世界を救済するには、異世界から来た人間のお前に頼る以外に方法がねぇんだ。この世界のこと、宜しく頼んだぞ」
神が直接世界に干渉できたなら、わざわざ異世界から僕みたいな人間を召喚する必要もなかっただろう。
色々複雑な事情があるらしい。この世界にも、神様にも。
「もちろん、ただ救ってくれって言うつもりはねぇ。他の連中にも声を掛けて、できる範囲のことは協力してやるつもりだ。困ったことがあったら相談しろ、いいな」
「それならアラキエル、知ってたら教えてほしいんだけど──」
メネが、カエラのことをアラキエルに話した。
アラキエルは首をことりと傾けて、眉間に皺を寄せた。
「この世界の滅びを望んでる神、なぁ……俺の知ってる限りではそんな奴はいないけどな」
しばし唸って考えた後、分かったと頷いた。
「一応分かる範囲で調べといてやるよ」
「宜しくね」
カエラをけしかけているのが誰なのかが分かれば、神様たちの方で彼女を抑えてくれるかもしれない。
まあ……相手もそんな簡単に尻尾を出さないだろうから、望みは薄いけれど。
「じゃあ、俺は帰るぜ。あまり長いこと下界にいると他の連中がうるさいからな」
アラキエルはぴっと親指を立てて、笑った。
「いい牧場を作れよ! じゃあな」
その姿が、光に包まれて消えていく。
僕が瞬きをひとつした後には、彼女は完全にこの場から姿を消していた。
「アラキエルも期待してくれてる。頑張って牧場を大きくしていこうね」
「そうだね」
メネの言葉に、僕は相槌を打った。
この仕事には、ラファニエルやアラキエルだけじゃない、他の多くの神様の期待が寄せられているんだ。
皆の期待に応えられるように、もっと色々勉強していい牧場が作れるように頑張ろう。
とりあえず、今やるべきことは休息地作りだ。
「メネ、外に行こう。休息地を作らなきゃ」
僕はメネに呼びかけて、外に向かった。
何だか品定めをされているみたいだ。浴びせられる視線が鋭い。
「アラキエル」
女性を見てメネが声を上げる。
アラキエル……って、メネが言ってたラファニエルと仲良しの神様か?
何か、想像していたのと随分違うな。古き神々っていうから皆ラファニエルみたいにおしとやかな姿をしているものだと思ってたのに、彼女は随分と快活そうである。
神殿でゆったりと過ごすよりも外を自由に動き回っているような、そんな雰囲気だ。
「ラファニエルに聞いてはいたけど、本当に異世界人にこの世界の再生をやらせようとはな。大きな賭けに出たもんだな」
「キラは絶対にこの世界を元通りにしてくれるよ! メネはそう信じてる」
「随分信頼してんだな。そんな有能そうな男には見えねぇけどな、俺には」
アラキエルは肩を竦めた。
僕、そんなに頼りなく見えるかな?
まあ、周囲には同じ年頃の男子たちと比較したら何だかひ弱そうだって言われてたけどさ。
メネはぷうっと頬を膨らませて、腰に手を当てながらアラキエルの顔の前に移動した。
「キラのことを悪く言わないで!」
「分かった分かった。悪かったって。ちょっと思っただけだ、そんな目くじら立てるなよ」
アラキエルは後頭部に手をやって、髪をざあっと靡かせた。
手が元通り前に来ると、その手には茶色の卵が。
「アースタートルの卵だ。こいつが必要なんだろ」
僕の目の前まで来て、卵を手渡してくれる。
「あ……ありがとう」
僕は卵を受け取った。
アースタートルの卵は、レッドやメロンが生まれてきた卵と比較して殻が厚く硬そうな印象を受けた。
こんなに殻が厚くて、中の赤ちゃんはきちんと殻を破って生まれてこれるのかな。ちょっと心配だ。
「アースタートルは他のエルよりも生まれるのに時間がかかる。早いとこ揺り籠に置いてやった方がいいぜ」
「う、うん」
アラキエルに言われ、僕は生命の揺り籠に卵を置いた。
レッドやメロンは揺り籠に卵を置いて大体一日で生まれてきたから、少なくともそれ以上はかかるってことか。
時間がかかるのは別に構わない。生まれるのを待つ間に牧場作りをしたり、やることは色々あるからだ。
「キラ、っていったか」
生命の揺り籠に置いた卵を見つめていると、背後からアラキエルが名を呼んできた。
振り向くと、真面目な面持ちでこちらを見つめているアラキエルの姿が目に入った。
「俺たち神は下界に直接手を出しちゃならねぇって掟がある。この世界を救済するには、異世界から来た人間のお前に頼る以外に方法がねぇんだ。この世界のこと、宜しく頼んだぞ」
神が直接世界に干渉できたなら、わざわざ異世界から僕みたいな人間を召喚する必要もなかっただろう。
色々複雑な事情があるらしい。この世界にも、神様にも。
「もちろん、ただ救ってくれって言うつもりはねぇ。他の連中にも声を掛けて、できる範囲のことは協力してやるつもりだ。困ったことがあったら相談しろ、いいな」
「それならアラキエル、知ってたら教えてほしいんだけど──」
メネが、カエラのことをアラキエルに話した。
アラキエルは首をことりと傾けて、眉間に皺を寄せた。
「この世界の滅びを望んでる神、なぁ……俺の知ってる限りではそんな奴はいないけどな」
しばし唸って考えた後、分かったと頷いた。
「一応分かる範囲で調べといてやるよ」
「宜しくね」
カエラをけしかけているのが誰なのかが分かれば、神様たちの方で彼女を抑えてくれるかもしれない。
まあ……相手もそんな簡単に尻尾を出さないだろうから、望みは薄いけれど。
「じゃあ、俺は帰るぜ。あまり長いこと下界にいると他の連中がうるさいからな」
アラキエルはぴっと親指を立てて、笑った。
「いい牧場を作れよ! じゃあな」
その姿が、光に包まれて消えていく。
僕が瞬きをひとつした後には、彼女は完全にこの場から姿を消していた。
「アラキエルも期待してくれてる。頑張って牧場を大きくしていこうね」
「そうだね」
メネの言葉に、僕は相槌を打った。
この仕事には、ラファニエルやアラキエルだけじゃない、他の多くの神様の期待が寄せられているんだ。
皆の期待に応えられるように、もっと色々勉強していい牧場が作れるように頑張ろう。
とりあえず、今やるべきことは休息地作りだ。
「メネ、外に行こう。休息地を作らなきゃ」
僕はメネに呼びかけて、外に向かった。
0
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。
仰木 あん
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。
実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。
たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。
そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。
そんなお話。
フィクションです。
名前、団体、関係ありません。
設定はゆるいと思われます。
ハッピーなエンドに向かっております。
12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。
登場人物
アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳
キース=エネロワ;公爵…二十四歳
マリア=エネロワ;キースの娘…五歳
オリビエ=フュルスト;アメリアの実父
ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳
エリザベス;アメリアの継母
ステルベン=ギネリン;王国の王
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる