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ニューゲーム
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目覚めると、そこは真っ暗な空間の中だった。
いや、目覚めるというのは語弊があるか。
今、俺の意識はVR機器を経由してゲームのプログラムと接続した状態にある。正常に接続が完了したから、認識できる世界が『こちら側』にシフトしただけという話だ。
周囲が真っ暗というのは、初めてダイブ型のVRゲームをプレイする時のお約束というやつだな。
今の俺は、この世界での『肉体』……所謂アバターというものを所有していない状態だからだ。
中には現実世界での姿がそのまま仮のアバターとして反映されるゲームもあるけど、ラインカネーション・フェスティバルにはそういうプログラムは組まれていないみたいだな。
まあ、肉体が存在してないんだからできるはずがないのだが、こういう場合は何もせずにその場で待っていればいい。
すると、自然と何処からか──
「ようこそ、ラインカネーション・フェスティバルの世界へ! 私がシステムの解説兼チュートリアルの案内を担当させて頂きます!」
目の前に、握り拳ほどの大きさの光が現れた。
光そのものが声の主の本体なのか、光の中に肉体を形成しているものの輪郭は見えない。
「まずは、私の名前と容姿を設定して頂きます。一度決定したら変更することはできませんので、よく考えて貴方だけの案内人を作って下さいね!」
案内人の言葉が終わると同時に、目の前にウィンドウが開いて一人分のアバター映像と共に大量の項目が現れた。
このウィンドウがタッチパネルになっていて、これに実際に手で触れてシステムを操作するようだ。
表示されているのは、全てアバター作成に関する項目だが……成程。
一通り項目の内容を確認して、俺は理解する。
どうやらこのゲームのアバター作成は、予め性別ごとに用意された幾つかの雛形データから好きなものを選択して、そこから更に好みの形にパーツをカスタマイズしていくタイプのシステムになっているようだ。
例えば、目ならこういう形がいい、瞳はこういう色がいい、鼻は、口は、女性アバターなら胸の大きさは……という感じで、サイズを調整して決めていくという感じだ。
パーツの設定を変更すると、リアルタイムでそれが目の前の試作アバターに反映される。これを確認しながら、自分の理想通りの姿を作っていくわけだな。
因みに、種族は選択項目にはない。一応項目として表示はされているんだけど、操作はできない仕様になっている。
あくまでこのゲームの主人公は『蛮神を倒して世界を滅びの未来から救うために外の世界から訪れた英雄』という肩書きを持っているため、人間以外の種族は設定上ありえない、ということなんだろうな。それが案内人にも適用されているってわけだ。
案内人の種族は……神の使い。
神の使いと言われて真っ先に浮かぶのは天使みたいな奴なんだが、アバターデータの内容を見るに、どちらかと言うと妖精に近い容姿を持つ存在のようだ。
設定項目に『翼の種類』というものがあるんだが、殆どが昆虫の翅……一応鳥っぽい翼もあるにはあるものの、蝶とかトンボとか、そういう類の翼ばかりだから。中には植物の蔓とか蔦みたいなやつもあるし……これって翼じゃないと思うんだが、どういう扱いなんだろう。
まあ、深くは考える必要はないな。そういう仕様だから、その程度の認識で十分だ。
多分これ、案内人の容姿を作らせることによってアバター製作システムの操作方法に慣れてもらおうという、これも一種のチュートリアルなんだろう。
別にアバター製作なんてわざわざチュートリアルする必要ないんじゃないかとは思うが。カーソルを合わせたらヘルプが表示されるとか、そういう仕様で十分だったんじゃなかろうか。
とりあえず、アバター作りを始めよう。
──三十分ほど費やしただろうか。ひとまず、案内人のアバターは完成した。
容姿データのベースが、妖精……人間の肩乗りほどのサイズに設定されているからか、身長のサイズを最大まで引っ張っても人間の頭以上の大きさにはならない。そこが自分自身のアバターを作る時との相違点になりそうだが、ひとまずアバターの作り方については大体理解できた。
とりあえず、名前を『ウル』と名付けて、妖精としては王道とも言えるトンボ翅の美少女タイプの見た目にした。
金のツインテールで、翅は青と緑のグラデーション。色白の肌で、瞳の色は翅と同じ青と緑のオッドアイ。瞳の色が左右で違う色にできるってのはなかなか凝ってるなって思ったよ。オッドアイって一度は憧れるんだよな、分かる?
全ての項目を設定し終えて決定キーを押すと、ウィンドウに被せるようにして『この設定で宜しいですか?』と最終確認のメッセージが表示された。
『はい』を選択すると、そこで全てのウィンドウと試作アバターが消失する。
そして、今まで試作アバターが立っていた位置に、青白く輝く魔法陣のようなものが現れ、光の柱を生み出して──
「設定お疲れ様でした! 改めて、初めまして! 私が貴方専属の案内人、ウルと申します! 今後はこの姿でラインカネーション・フェスティバルの世界を御案内させて頂きます。宜しくお願い致します!」
先程作成したアバターと同じ姿をした案内人が光の柱から現れて、可愛い笑顔でこちらに向けてお辞儀をした。
説明するまでもないけど、ちゃんと服は着ている。如何にも妖精ですって感じの植物をモチーフにしたファンタジー系装束っぽい白いドレスだ。多分男は男用、女は女用で専用の服装が予め設定されているのだろう。
「因みに、私はこのチュートリアルが終了して貴方が実際にラインカネーション・フェスティバルの世界に降り立った後も、貴方をサポートするために旅に同行致します。システムの不明な点の解説は勿論、旅先で入手したアイテムの保管等の管理も私を通じて行うことができます。私を旅の従者として実際に連れ歩くかどうかは任意で設定することができ、連れ歩かない場合は私は姿を消した状態で貴方の旅に同行します。システムの使用には影響はありませんので、御安心下さいね!」
へぇ、アイテムの管理はこいつがしてくれるのか。要は、アイテムボックス的な機能を持たせたガイドキャラクターって感じの扱いなんだろうな。
因みに……一緒に戦ってくれたりは、するのかな?
その辺りのことを質問してみると、ウルは申し訳なさそうな表情になった。
「申し訳ありません、私は戦うための力を持っていないので、直接戦いをお手伝いすることはできないのです……」
やっぱり無理か。完全にシステムサポート用のAIって扱いなんだな。
まあ、期待はしてなかったけど。ちょっとでも戦力にできるならラッキーかなって程度の考えだったし。
「それではっ! ラインカネーション・フェスティバルの世界における貴方の分身……この世でたった一人しかいない、貴方だけのアバターを作成しましょう! それが済みましたら、いよいよラインカネーション・フェスティバルの世界に未来の英雄としての第一歩を踏み出すことになります! 最高のアバターを作って下さいね!」
いよいよ自分自身のアバター作成か。当然これも一度設定したら後から変えることなんてできないんだろうし、じっくり考えて作らなきゃなぁ。ネタに走って後で後悔、なんてしたくないしな。
アバター作成がその後のVR生活の楽しさを左右する、なんて言う奴もいるくらいだし。実際それは間違ってないと思うし。
今夜は徹夜かもしれないなぁ。いざ自分自身のアバター作成画面と向き合いながら、そのようなことを考えたのだった。
いや、目覚めるというのは語弊があるか。
今、俺の意識はVR機器を経由してゲームのプログラムと接続した状態にある。正常に接続が完了したから、認識できる世界が『こちら側』にシフトしただけという話だ。
周囲が真っ暗というのは、初めてダイブ型のVRゲームをプレイする時のお約束というやつだな。
今の俺は、この世界での『肉体』……所謂アバターというものを所有していない状態だからだ。
中には現実世界での姿がそのまま仮のアバターとして反映されるゲームもあるけど、ラインカネーション・フェスティバルにはそういうプログラムは組まれていないみたいだな。
まあ、肉体が存在してないんだからできるはずがないのだが、こういう場合は何もせずにその場で待っていればいい。
すると、自然と何処からか──
「ようこそ、ラインカネーション・フェスティバルの世界へ! 私がシステムの解説兼チュートリアルの案内を担当させて頂きます!」
目の前に、握り拳ほどの大きさの光が現れた。
光そのものが声の主の本体なのか、光の中に肉体を形成しているものの輪郭は見えない。
「まずは、私の名前と容姿を設定して頂きます。一度決定したら変更することはできませんので、よく考えて貴方だけの案内人を作って下さいね!」
案内人の言葉が終わると同時に、目の前にウィンドウが開いて一人分のアバター映像と共に大量の項目が現れた。
このウィンドウがタッチパネルになっていて、これに実際に手で触れてシステムを操作するようだ。
表示されているのは、全てアバター作成に関する項目だが……成程。
一通り項目の内容を確認して、俺は理解する。
どうやらこのゲームのアバター作成は、予め性別ごとに用意された幾つかの雛形データから好きなものを選択して、そこから更に好みの形にパーツをカスタマイズしていくタイプのシステムになっているようだ。
例えば、目ならこういう形がいい、瞳はこういう色がいい、鼻は、口は、女性アバターなら胸の大きさは……という感じで、サイズを調整して決めていくという感じだ。
パーツの設定を変更すると、リアルタイムでそれが目の前の試作アバターに反映される。これを確認しながら、自分の理想通りの姿を作っていくわけだな。
因みに、種族は選択項目にはない。一応項目として表示はされているんだけど、操作はできない仕様になっている。
あくまでこのゲームの主人公は『蛮神を倒して世界を滅びの未来から救うために外の世界から訪れた英雄』という肩書きを持っているため、人間以外の種族は設定上ありえない、ということなんだろうな。それが案内人にも適用されているってわけだ。
案内人の種族は……神の使い。
神の使いと言われて真っ先に浮かぶのは天使みたいな奴なんだが、アバターデータの内容を見るに、どちらかと言うと妖精に近い容姿を持つ存在のようだ。
設定項目に『翼の種類』というものがあるんだが、殆どが昆虫の翅……一応鳥っぽい翼もあるにはあるものの、蝶とかトンボとか、そういう類の翼ばかりだから。中には植物の蔓とか蔦みたいなやつもあるし……これって翼じゃないと思うんだが、どういう扱いなんだろう。
まあ、深くは考える必要はないな。そういう仕様だから、その程度の認識で十分だ。
多分これ、案内人の容姿を作らせることによってアバター製作システムの操作方法に慣れてもらおうという、これも一種のチュートリアルなんだろう。
別にアバター製作なんてわざわざチュートリアルする必要ないんじゃないかとは思うが。カーソルを合わせたらヘルプが表示されるとか、そういう仕様で十分だったんじゃなかろうか。
とりあえず、アバター作りを始めよう。
──三十分ほど費やしただろうか。ひとまず、案内人のアバターは完成した。
容姿データのベースが、妖精……人間の肩乗りほどのサイズに設定されているからか、身長のサイズを最大まで引っ張っても人間の頭以上の大きさにはならない。そこが自分自身のアバターを作る時との相違点になりそうだが、ひとまずアバターの作り方については大体理解できた。
とりあえず、名前を『ウル』と名付けて、妖精としては王道とも言えるトンボ翅の美少女タイプの見た目にした。
金のツインテールで、翅は青と緑のグラデーション。色白の肌で、瞳の色は翅と同じ青と緑のオッドアイ。瞳の色が左右で違う色にできるってのはなかなか凝ってるなって思ったよ。オッドアイって一度は憧れるんだよな、分かる?
全ての項目を設定し終えて決定キーを押すと、ウィンドウに被せるようにして『この設定で宜しいですか?』と最終確認のメッセージが表示された。
『はい』を選択すると、そこで全てのウィンドウと試作アバターが消失する。
そして、今まで試作アバターが立っていた位置に、青白く輝く魔法陣のようなものが現れ、光の柱を生み出して──
「設定お疲れ様でした! 改めて、初めまして! 私が貴方専属の案内人、ウルと申します! 今後はこの姿でラインカネーション・フェスティバルの世界を御案内させて頂きます。宜しくお願い致します!」
先程作成したアバターと同じ姿をした案内人が光の柱から現れて、可愛い笑顔でこちらに向けてお辞儀をした。
説明するまでもないけど、ちゃんと服は着ている。如何にも妖精ですって感じの植物をモチーフにしたファンタジー系装束っぽい白いドレスだ。多分男は男用、女は女用で専用の服装が予め設定されているのだろう。
「因みに、私はこのチュートリアルが終了して貴方が実際にラインカネーション・フェスティバルの世界に降り立った後も、貴方をサポートするために旅に同行致します。システムの不明な点の解説は勿論、旅先で入手したアイテムの保管等の管理も私を通じて行うことができます。私を旅の従者として実際に連れ歩くかどうかは任意で設定することができ、連れ歩かない場合は私は姿を消した状態で貴方の旅に同行します。システムの使用には影響はありませんので、御安心下さいね!」
へぇ、アイテムの管理はこいつがしてくれるのか。要は、アイテムボックス的な機能を持たせたガイドキャラクターって感じの扱いなんだろうな。
因みに……一緒に戦ってくれたりは、するのかな?
その辺りのことを質問してみると、ウルは申し訳なさそうな表情になった。
「申し訳ありません、私は戦うための力を持っていないので、直接戦いをお手伝いすることはできないのです……」
やっぱり無理か。完全にシステムサポート用のAIって扱いなんだな。
まあ、期待はしてなかったけど。ちょっとでも戦力にできるならラッキーかなって程度の考えだったし。
「それではっ! ラインカネーション・フェスティバルの世界における貴方の分身……この世でたった一人しかいない、貴方だけのアバターを作成しましょう! それが済みましたら、いよいよラインカネーション・フェスティバルの世界に未来の英雄としての第一歩を踏み出すことになります! 最高のアバターを作って下さいね!」
いよいよ自分自身のアバター作成か。当然これも一度設定したら後から変えることなんてできないんだろうし、じっくり考えて作らなきゃなぁ。ネタに走って後で後悔、なんてしたくないしな。
アバター作成がその後のVR生活の楽しさを左右する、なんて言う奴もいるくらいだし。実際それは間違ってないと思うし。
今夜は徹夜かもしれないなぁ。いざ自分自身のアバター作成画面と向き合いながら、そのようなことを考えたのだった。
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