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第19話 妖異、食えるらしい
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旅の仲間が増えた俺たちは、一路東を目指して旅を再開した。
因みに例のエンシェント・フェンリルだが、エンシェント・フェンリルといちいち呼ぶのは名前が長くて地味に大変だったので、此処にいる間だけということでヴァイスという名前を暫定的に付けた。ヴァイスとは確かドイツ語で『白』を意味する言葉だったと思う。由来はもちろんこいつの真っ白な毛並みからだ。
ヴァイスは俺の言うことをよく聞く賢い子だ。移動する時はちゃんと俺の傍に寄り添って歩き、勝手に何処かに行ったりすることはしなかった。無駄吠えもせず、休憩の時は行儀良く一箇所で大人しくしていた。ひょっとしたら俺が言った大人しくしてろという言葉を命令だと思っているのかもしれないな。
食事は、俺たちと同じものを普通に食べた。召喚獣といえども生き物であることに変わりはないので、活動すれば普通に腹が減るらしい。これが大きい奴だったらその分多くの食事を必要したんだろうなと考えると、こいつが小さい奴で良かったと思った。
何だか、ペットが増えたような気分である。フォルテたちと世間話をしている時とはまた違った楽しさがある。
そんな感じで和気藹々と過ごし──ロクワ山道を抜けて三日。
俺たちは、次の街に到着した。
ウルリードの街。
ロクワ山脈の東側に広がるアマヌ平原。その中心に位置する、以前立ち寄ったリッカの街と同じくらいの規模の街だ。
煉瓦造りの一軒家が並んだそこそこ綺麗な見た目をしており、何となくクラシカルな雰囲気が漂っている。
冒険者ギルドがある大通りには屋台が並んでいて、そこかしこからいい匂いが漂ってくる。その屋台を覗く旅人や街の住人たちで、そこは物凄い賑わいを見せていた。
これは、何の匂いなんだろう?
しばらく大通りを往来する人の波を見つめていると、横手から唐突に声を掛けられた。
「そこのお兄さんたち、良かったらうちの串焼きを食べて行かないかい?」
声のした方に振り返ると、小さな屋台の中で手際良く串焼きを焼く店主と思わしき男と目が合った。随分と日に焼けた肌をした、髭が濃い中年の男だ。
煉瓦を組んで作られた竈の上に鉄の網が載せられており、その上に何かの肉を刺した串が並べられている。火に炙られて脂が滴っており、香ばしい匂いを発していた。さっきからそこら中に漂っている匂いの正体はこれのようだ。
一体何の肉なんだろう。牛とも豚とも違う……鶏でもなさそうだが……
思い切って訊いてみることにした。
「これは何の肉なんですか?」
「これはローグパイソンの肉さ。今朝狩ったばかりだから新鮮だぞ!」
ローグパイソン……何だ? 聞いたことがない名前の生き物だな。
ローグパイソンって何だと後方の二人に尋ねると、ユーリルの方から答えが返ってきた。
「妖異ですよ」
「妖異?」
妖異って……ダンジョンにしかいないっていう、魔物みたいな生き物のことだったよな。
妖異、食べられるのか。
びっくりする俺。それを見て店主は笑った。
「お兄さん、ひょっとして妖異を知らないくちかい」
俺が返答に困って頭を掻いていると、彼は冒険者になりたての奴の中にはそういうのもいるんだと言って、俺の無知を笑うことなく説明してくれた。
ローグパイソンというのはダンジョンに住む妖異の一種で、そこそこ大きな体を持った蛇らしい。毒は持っていないが力が強く、そいつに絞められたら人間の骨など簡単に砕けてしまうのだそうだ。
何でもこの街はローグパイソン以外にも様々な種類の妖異の肉が流通している食肉豊富な街らしく、此処で経営している飲食店や屋台で扱っている肉の大半は妖異のもの。妖異の肉は普通の牛や豚などの家畜の肉と比較して旨味が凝縮しており栄養価も高いので、食肉として人気なのだそうだ。
普通の家畜の肉よりも鮮度が落ちるのが早いため、旅の食糧として持ち歩くのには向いていない。そういう理由もあって他の街に卸すことはしておらず、基本的にこの街でないと味わうことができないらしい。
そんな傷むのが早い食材を、何故この街ではこんな手軽に味わうことができるのか。
その答えが、これだ。
「この街の近くにダンジョンがあってね。冒険者たちがそこで妖異を狩ってきてくれるから、いつでも味わうことができるんだよ」
この街から南に一時間ほど行ったところに、ダンジョンがあるという。
そのダンジョンは規模としては小さい方だが、中には様々な種類の妖異が棲んでおり宝物もそこそこ発掘できるので、旅人には人気の金策場所となっているそうだ。生活のためにこの街を拠点としている旅人も結構多いらしい。
確かに、ダンジョンで手に入れた宝物や狩った妖異から剥いだ肉を街で売れば収入になるのだから、此処に身を落ち着ける旅人が多いというのも不思議なことじゃないよな。
「お兄さんもダンジョンに行くことがあったら、是非とも珍しい妖異の肉を狩ってきてくれよ。うちに持って来てくれたら高く買い取ってやるからな!」
店主はそう言って笑ったが、俺には自分から進んでダンジョンに行こうという気はあまりない。
ダンジョンの中に眠っている宝が魅力的に感じないとは言わないが、俺としては平穏に暮らすことの方が重要度は高いからな。
収入は、毎日食べるのに困らない程度の金額があれば十分だ。
「さ、せっかくこの街に来たんだから一度くらいは妖異の肉を味わって行きなよ。ローグパイソンは余分な脂が殆どないからあっさりしていて美味いぞ!」
いつの間にか商売人の顔に戻っていた店主が熱心に串焼きを勧めてくる。
小腹が空いていたし、色々教えてくれたその礼も兼ねて、俺は人数分の串焼きを購入することにした。もちろんヴァイスの分も忘れずに買ったぞ。
串焼きは、一本二ルノ。パンが一個買えるくらいの値段だが、バーベキューの串並みに大きい串焼きだし、この街でしか味わえない妖異の肉だから、まあ値段としては妥当なものなんだろう。
蛇の肉って美味いのか? と思ったが、そんな心配など吹っ飛んでしまうくらいにローグパイソンの肉は美味かった。食感は鶏肉に似ている感じだが、こちらの方がより筋肉質なのか噛み応えがある。味付けは軽く塩を振ってあるだけのものだが、余計な調味料なんて必要ないと思えるくらいに肉の味が濃かった。
日持ちがする食材なら仕入れたかったところだが、保存手段がないのでこればかりは仕方ない。この街にいる間は、目一杯妖異の肉を堪能することにしよう。
店主が言うには屋台によって扱っている肉の種類が違うから、色々食べ歩いてみるのも楽しいぞとのこと。
肉づくしというのもあれだが……たまにはそういう飯もいいか。
その後、俺たちは通りに並んだ屋台をはしごして、色々な種類の肉を腹一杯に味わったのだった。
因みに例のエンシェント・フェンリルだが、エンシェント・フェンリルといちいち呼ぶのは名前が長くて地味に大変だったので、此処にいる間だけということでヴァイスという名前を暫定的に付けた。ヴァイスとは確かドイツ語で『白』を意味する言葉だったと思う。由来はもちろんこいつの真っ白な毛並みからだ。
ヴァイスは俺の言うことをよく聞く賢い子だ。移動する時はちゃんと俺の傍に寄り添って歩き、勝手に何処かに行ったりすることはしなかった。無駄吠えもせず、休憩の時は行儀良く一箇所で大人しくしていた。ひょっとしたら俺が言った大人しくしてろという言葉を命令だと思っているのかもしれないな。
食事は、俺たちと同じものを普通に食べた。召喚獣といえども生き物であることに変わりはないので、活動すれば普通に腹が減るらしい。これが大きい奴だったらその分多くの食事を必要したんだろうなと考えると、こいつが小さい奴で良かったと思った。
何だか、ペットが増えたような気分である。フォルテたちと世間話をしている時とはまた違った楽しさがある。
そんな感じで和気藹々と過ごし──ロクワ山道を抜けて三日。
俺たちは、次の街に到着した。
ウルリードの街。
ロクワ山脈の東側に広がるアマヌ平原。その中心に位置する、以前立ち寄ったリッカの街と同じくらいの規模の街だ。
煉瓦造りの一軒家が並んだそこそこ綺麗な見た目をしており、何となくクラシカルな雰囲気が漂っている。
冒険者ギルドがある大通りには屋台が並んでいて、そこかしこからいい匂いが漂ってくる。その屋台を覗く旅人や街の住人たちで、そこは物凄い賑わいを見せていた。
これは、何の匂いなんだろう?
しばらく大通りを往来する人の波を見つめていると、横手から唐突に声を掛けられた。
「そこのお兄さんたち、良かったらうちの串焼きを食べて行かないかい?」
声のした方に振り返ると、小さな屋台の中で手際良く串焼きを焼く店主と思わしき男と目が合った。随分と日に焼けた肌をした、髭が濃い中年の男だ。
煉瓦を組んで作られた竈の上に鉄の網が載せられており、その上に何かの肉を刺した串が並べられている。火に炙られて脂が滴っており、香ばしい匂いを発していた。さっきからそこら中に漂っている匂いの正体はこれのようだ。
一体何の肉なんだろう。牛とも豚とも違う……鶏でもなさそうだが……
思い切って訊いてみることにした。
「これは何の肉なんですか?」
「これはローグパイソンの肉さ。今朝狩ったばかりだから新鮮だぞ!」
ローグパイソン……何だ? 聞いたことがない名前の生き物だな。
ローグパイソンって何だと後方の二人に尋ねると、ユーリルの方から答えが返ってきた。
「妖異ですよ」
「妖異?」
妖異って……ダンジョンにしかいないっていう、魔物みたいな生き物のことだったよな。
妖異、食べられるのか。
びっくりする俺。それを見て店主は笑った。
「お兄さん、ひょっとして妖異を知らないくちかい」
俺が返答に困って頭を掻いていると、彼は冒険者になりたての奴の中にはそういうのもいるんだと言って、俺の無知を笑うことなく説明してくれた。
ローグパイソンというのはダンジョンに住む妖異の一種で、そこそこ大きな体を持った蛇らしい。毒は持っていないが力が強く、そいつに絞められたら人間の骨など簡単に砕けてしまうのだそうだ。
何でもこの街はローグパイソン以外にも様々な種類の妖異の肉が流通している食肉豊富な街らしく、此処で経営している飲食店や屋台で扱っている肉の大半は妖異のもの。妖異の肉は普通の牛や豚などの家畜の肉と比較して旨味が凝縮しており栄養価も高いので、食肉として人気なのだそうだ。
普通の家畜の肉よりも鮮度が落ちるのが早いため、旅の食糧として持ち歩くのには向いていない。そういう理由もあって他の街に卸すことはしておらず、基本的にこの街でないと味わうことができないらしい。
そんな傷むのが早い食材を、何故この街ではこんな手軽に味わうことができるのか。
その答えが、これだ。
「この街の近くにダンジョンがあってね。冒険者たちがそこで妖異を狩ってきてくれるから、いつでも味わうことができるんだよ」
この街から南に一時間ほど行ったところに、ダンジョンがあるという。
そのダンジョンは規模としては小さい方だが、中には様々な種類の妖異が棲んでおり宝物もそこそこ発掘できるので、旅人には人気の金策場所となっているそうだ。生活のためにこの街を拠点としている旅人も結構多いらしい。
確かに、ダンジョンで手に入れた宝物や狩った妖異から剥いだ肉を街で売れば収入になるのだから、此処に身を落ち着ける旅人が多いというのも不思議なことじゃないよな。
「お兄さんもダンジョンに行くことがあったら、是非とも珍しい妖異の肉を狩ってきてくれよ。うちに持って来てくれたら高く買い取ってやるからな!」
店主はそう言って笑ったが、俺には自分から進んでダンジョンに行こうという気はあまりない。
ダンジョンの中に眠っている宝が魅力的に感じないとは言わないが、俺としては平穏に暮らすことの方が重要度は高いからな。
収入は、毎日食べるのに困らない程度の金額があれば十分だ。
「さ、せっかくこの街に来たんだから一度くらいは妖異の肉を味わって行きなよ。ローグパイソンは余分な脂が殆どないからあっさりしていて美味いぞ!」
いつの間にか商売人の顔に戻っていた店主が熱心に串焼きを勧めてくる。
小腹が空いていたし、色々教えてくれたその礼も兼ねて、俺は人数分の串焼きを購入することにした。もちろんヴァイスの分も忘れずに買ったぞ。
串焼きは、一本二ルノ。パンが一個買えるくらいの値段だが、バーベキューの串並みに大きい串焼きだし、この街でしか味わえない妖異の肉だから、まあ値段としては妥当なものなんだろう。
蛇の肉って美味いのか? と思ったが、そんな心配など吹っ飛んでしまうくらいにローグパイソンの肉は美味かった。食感は鶏肉に似ている感じだが、こちらの方がより筋肉質なのか噛み応えがある。味付けは軽く塩を振ってあるだけのものだが、余計な調味料なんて必要ないと思えるくらいに肉の味が濃かった。
日持ちがする食材なら仕入れたかったところだが、保存手段がないのでこればかりは仕方ない。この街にいる間は、目一杯妖異の肉を堪能することにしよう。
店主が言うには屋台によって扱っている肉の種類が違うから、色々食べ歩いてみるのも楽しいぞとのこと。
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その後、俺たちは通りに並んだ屋台をはしごして、色々な種類の肉を腹一杯に味わったのだった。
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