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第36話 遊園地-音楽会-
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程よく腹が膨れたこともあって、体に溜まってきた微妙な疲れが睡魔を運んできた。
太陽の光が目に沁みて涙が目尻に浮かぶ。
くぁ、と欠伸を噛み殺す僕の横でネネと一緒にマップを見ていたミラが、唐突に声を上げて僕の服を引っ張ってきた。
「櫂斗さん、私、この催し物が観たいです!」
「……んん?」
僕はミラが指で指しているところに注目した。
「……コンサート?」
そこには、ジャズバンドとちょっとしたダンスが織り成すエンターテイメントショーとあった。
要は、音楽と踊りを楽しむための舞台のようなものなのだろう。
腹が満たされた後に、音楽のショーね……
腹一杯食べた後ってどうしても眠くなるんだよな。
忘れもしない、学生時代。昼飯を食べて程よい満腹感を得たところに聞かされる数学の講義。必死に睡魔と戦いながら懸命に書いたノート。その字が余りにも汚すぎて読めなくて、友人に頼み込んでノートを借りたことを僕は未だに覚えている。
このショーを観るのは別に構わないのだが……果たして僕は、最後まで寝ずにショーを観ることができるのだろうか。
「駄目ですか?」
「……別に何処に行くって決めてるわけじゃないからな。あんたがそれが観たいって言うなら、好きにすればいいさ」
僕は腕時計を見た。
今の時刻は十二時四十分。そのショーは十三時十五分からとあるから、残り三十分くらいか。
今から会場に向かえば、入場規制に引っ掛かることなく入ることができるだろう。
「それじゃ、行くか」
「はい!」
折り畳んだマップを僕に渡して、僕の左手をしっかりと握るミラ。
もう何度も同じことをされているせいか、手を繋ぐのにも慣れたものだ。最初は戸惑いもしたが、今じゃ何も感じない。
僕たちはショーを開催する劇場を目指して、人が行き交う道を並んで歩いていった。
ショーが行われる会場は、まさに巨大な劇場といった雰囲気と装いの場所だった。
座席には一階席と二階席があり、特別なチケットを持っていると一階席でショーを観ることができるらしい。チケットがないと二階席になる。
音楽がメインのショーなんだから、二階席でも十分だとは思うけどな。
ゆったりと座れる座席に、丁度良い室温。静かな音楽がゆったりと流れる薄暗い環境。
駄目だ……これは寝る。絶対寝る。起きてられる自信がない。
席に着いた瞬間に波のように押し寄せてくる睡魔に意識を流されそうになり、僕は手の甲で目を擦った。
僕の隣に座ったミラはネネと何やら話し込んでいる。何を話しているのかは、意識が朦朧とした僕には聞き取ることができなかった。
いかん……眠い……
かくん、と項垂れる僕。
必死に開けていた瞼が、ゆっくりと閉ざされていく。
ぱーん、とサックスの弾んだ音色が閉ざされている舞台の幕の方から鳴り響いてきて──
そこで、僕の意識は途切れた。
「……さん。櫂斗さん」
ミラに肩を掴んで揺さぶられ。はっとした僕は、がばっと顔を持ち上げた。
席を立ってばらばらと出口に向かって歩いていく客たちの姿が目に入る。
それをしばし見つめて……ようやく僕は、ショーが終わったのだということを悟ったのだった。
「もう、音楽を聴かずに寝てしまうなんて。もったいないですよ、櫂斗さん」
「呆れるくらいによく寝てたね」
ミラたちに言われて、僕はかしかしと頭を掻いた。
「仕方ないだろ……腹一杯のところに音楽とこの丁度いい暗がりのコンボに勝てるわけないじゃないか」
「もう」
ミラは呆れたように溜め息をついた。
「音楽会、終わってしまいましたよ。外に出ましょう」
「ん、おう」
僕はゆっくりと席から立ち上がった。
少し寝たお陰か、体が少しだけ軽くなったような気がする。
「ショーは楽しめたのか?」
出口に向かって歩きながら、そう尋ねてみると。
ミラはぱっと表情を輝かせて、楽しそうに語り始めた。
「お城でやる音楽会とはまるで違っていて、新鮮な体験でした! この星の音楽会ってこんなに楽しいものなんですね! 歌も素敵でしたし、ダンスも……」
暗い場所から急に明るい場所に出たせいか、外の景色が一瞬真っ白な光の世界のように見えた。
僕はミラの話に相槌を打ちながら、この後は何をしようかと考えを巡らせるのだった。
太陽の光が目に沁みて涙が目尻に浮かぶ。
くぁ、と欠伸を噛み殺す僕の横でネネと一緒にマップを見ていたミラが、唐突に声を上げて僕の服を引っ張ってきた。
「櫂斗さん、私、この催し物が観たいです!」
「……んん?」
僕はミラが指で指しているところに注目した。
「……コンサート?」
そこには、ジャズバンドとちょっとしたダンスが織り成すエンターテイメントショーとあった。
要は、音楽と踊りを楽しむための舞台のようなものなのだろう。
腹が満たされた後に、音楽のショーね……
腹一杯食べた後ってどうしても眠くなるんだよな。
忘れもしない、学生時代。昼飯を食べて程よい満腹感を得たところに聞かされる数学の講義。必死に睡魔と戦いながら懸命に書いたノート。その字が余りにも汚すぎて読めなくて、友人に頼み込んでノートを借りたことを僕は未だに覚えている。
このショーを観るのは別に構わないのだが……果たして僕は、最後まで寝ずにショーを観ることができるのだろうか。
「駄目ですか?」
「……別に何処に行くって決めてるわけじゃないからな。あんたがそれが観たいって言うなら、好きにすればいいさ」
僕は腕時計を見た。
今の時刻は十二時四十分。そのショーは十三時十五分からとあるから、残り三十分くらいか。
今から会場に向かえば、入場規制に引っ掛かることなく入ることができるだろう。
「それじゃ、行くか」
「はい!」
折り畳んだマップを僕に渡して、僕の左手をしっかりと握るミラ。
もう何度も同じことをされているせいか、手を繋ぐのにも慣れたものだ。最初は戸惑いもしたが、今じゃ何も感じない。
僕たちはショーを開催する劇場を目指して、人が行き交う道を並んで歩いていった。
ショーが行われる会場は、まさに巨大な劇場といった雰囲気と装いの場所だった。
座席には一階席と二階席があり、特別なチケットを持っていると一階席でショーを観ることができるらしい。チケットがないと二階席になる。
音楽がメインのショーなんだから、二階席でも十分だとは思うけどな。
ゆったりと座れる座席に、丁度良い室温。静かな音楽がゆったりと流れる薄暗い環境。
駄目だ……これは寝る。絶対寝る。起きてられる自信がない。
席に着いた瞬間に波のように押し寄せてくる睡魔に意識を流されそうになり、僕は手の甲で目を擦った。
僕の隣に座ったミラはネネと何やら話し込んでいる。何を話しているのかは、意識が朦朧とした僕には聞き取ることができなかった。
いかん……眠い……
かくん、と項垂れる僕。
必死に開けていた瞼が、ゆっくりと閉ざされていく。
ぱーん、とサックスの弾んだ音色が閉ざされている舞台の幕の方から鳴り響いてきて──
そこで、僕の意識は途切れた。
「……さん。櫂斗さん」
ミラに肩を掴んで揺さぶられ。はっとした僕は、がばっと顔を持ち上げた。
席を立ってばらばらと出口に向かって歩いていく客たちの姿が目に入る。
それをしばし見つめて……ようやく僕は、ショーが終わったのだということを悟ったのだった。
「もう、音楽を聴かずに寝てしまうなんて。もったいないですよ、櫂斗さん」
「呆れるくらいによく寝てたね」
ミラたちに言われて、僕はかしかしと頭を掻いた。
「仕方ないだろ……腹一杯のところに音楽とこの丁度いい暗がりのコンボに勝てるわけないじゃないか」
「もう」
ミラは呆れたように溜め息をついた。
「音楽会、終わってしまいましたよ。外に出ましょう」
「ん、おう」
僕はゆっくりと席から立ち上がった。
少し寝たお陰か、体が少しだけ軽くなったような気がする。
「ショーは楽しめたのか?」
出口に向かって歩きながら、そう尋ねてみると。
ミラはぱっと表情を輝かせて、楽しそうに語り始めた。
「お城でやる音楽会とはまるで違っていて、新鮮な体験でした! この星の音楽会ってこんなに楽しいものなんですね! 歌も素敵でしたし、ダンスも……」
暗い場所から急に明るい場所に出たせいか、外の景色が一瞬真っ白な光の世界のように見えた。
僕はミラの話に相槌を打ちながら、この後は何をしようかと考えを巡らせるのだった。
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