5 / 6
こぼれ話:本当の姿
しおりを挟む
ある日のこと。
ふと疑問に思って聞いてみた。
「ルーサーさんは、いろんな姿になれますが、大元はどれなんですか?」
んー、とベッドの上で寝そべって頬杖つきながら、ちょっと考えるルーサーさん。いまは、人間に近い犬耳状態だ。ちなみに、裸じゃなくてちゃんと服を着ている。人間に近い格好だと、わたしが男性として意識するからか、二人っきりのときは、ルーサーさんはこの形態を取ることが多い。
「俺達は元々は人間だと伝え聞いている」
「人間!?」
ルーサーさんは、当たり前みたいに頷いた。
私の予想では、獣人が大元の姿かと思っていた。人間というのは意外だった。そもそも、獣力が高まらないと人間にはなれない、つまり人間になるのは他の姿をとるより難しいはずなのだ。
「伝承口伝というものがある」
そう言って、ルーサーさんは、詩のような一節を口ずさんだ。
⸺世界よ、ふわふわであれ
そんな、脳みそどうかと思う一文から始まる文言は、この世界の神によって、人間が作り変えられたという、お伽噺のような内容だった。
一瞬、いぬみみ族の守護神のことが頭に浮かんだが、あれすらも犬だったことから、さらに上位存在の話なのだろう。
「それって……、無理やり獣にされたってことなんですか!?」
「そのときはそうだったかもしれないし、伝承口伝自体が本当だとは限らない。何千年も昔のことで、今では誰も気にしていない。今の状態が、もうあたりまえだからな」
ケロッとしてベッドで寝っ転がるルーサーさん。
私はなんだか納得できない気持ちでうつむいた。
ベッドが軋む音とともに、ぽんぽんと頭が撫でられる感触。
「クロキは何も気にすることはない。伝承口伝が本当だとしても、俺達の運命は変わらないし、すでに誰も変えることは望んでいない。ここは、そういう世界なんだ。さあ、もう寝よう」
促されるままにベッドの上に行くと、ぽむっと軽快な音とともに、目の前に大好きなふわふわが現れる。
「ガチハスキー犬のルーサーさん!」
条件反射で抱きついた。
時々一緒に眠るようになった今でも、ルーサーさんは寝るときは必ずこの犬の姿だった。
あたたかなもふもふに顔を埋めて深呼吸する。
彼らの本来の姿が人間なのだと聞いた以上、こんなに犬形態に飛びついては行けない気もするけど、それでもこのもふもふには抗い難い魅力がある。
この世界にはなにやらいろいろ事情がありそうだが、とりあえず今は、腕の中のもふもふを堪能するのに全力を尽くした。
ふと疑問に思って聞いてみた。
「ルーサーさんは、いろんな姿になれますが、大元はどれなんですか?」
んー、とベッドの上で寝そべって頬杖つきながら、ちょっと考えるルーサーさん。いまは、人間に近い犬耳状態だ。ちなみに、裸じゃなくてちゃんと服を着ている。人間に近い格好だと、わたしが男性として意識するからか、二人っきりのときは、ルーサーさんはこの形態を取ることが多い。
「俺達は元々は人間だと伝え聞いている」
「人間!?」
ルーサーさんは、当たり前みたいに頷いた。
私の予想では、獣人が大元の姿かと思っていた。人間というのは意外だった。そもそも、獣力が高まらないと人間にはなれない、つまり人間になるのは他の姿をとるより難しいはずなのだ。
「伝承口伝というものがある」
そう言って、ルーサーさんは、詩のような一節を口ずさんだ。
⸺世界よ、ふわふわであれ
そんな、脳みそどうかと思う一文から始まる文言は、この世界の神によって、人間が作り変えられたという、お伽噺のような内容だった。
一瞬、いぬみみ族の守護神のことが頭に浮かんだが、あれすらも犬だったことから、さらに上位存在の話なのだろう。
「それって……、無理やり獣にされたってことなんですか!?」
「そのときはそうだったかもしれないし、伝承口伝自体が本当だとは限らない。何千年も昔のことで、今では誰も気にしていない。今の状態が、もうあたりまえだからな」
ケロッとしてベッドで寝っ転がるルーサーさん。
私はなんだか納得できない気持ちでうつむいた。
ベッドが軋む音とともに、ぽんぽんと頭が撫でられる感触。
「クロキは何も気にすることはない。伝承口伝が本当だとしても、俺達の運命は変わらないし、すでに誰も変えることは望んでいない。ここは、そういう世界なんだ。さあ、もう寝よう」
促されるままにベッドの上に行くと、ぽむっと軽快な音とともに、目の前に大好きなふわふわが現れる。
「ガチハスキー犬のルーサーさん!」
条件反射で抱きついた。
時々一緒に眠るようになった今でも、ルーサーさんは寝るときは必ずこの犬の姿だった。
あたたかなもふもふに顔を埋めて深呼吸する。
彼らの本来の姿が人間なのだと聞いた以上、こんなに犬形態に飛びついては行けない気もするけど、それでもこのもふもふには抗い難い魅力がある。
この世界にはなにやらいろいろ事情がありそうだが、とりあえず今は、腕の中のもふもふを堪能するのに全力を尽くした。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
その国外追放、謹んでお受けします。悪役令嬢らしく退場して見せましょう。
ユズ
恋愛
乙女ゲームの世界に転生し、悪役令嬢になってしまったメリンダ。しかもその乙女ゲーム、少し変わっていて?断罪される運命を変えようとするも失敗。卒業パーティーで冤罪を着せられ国外追放を言い渡される。それでも、やっぱり想い人の前では美しくありたい!
…確かにそうは思ったけど、こんな展開は知らないのですが!?
*小説家になろう様でも投稿しています
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します
珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。
そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。
それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。
さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢に転生したので、推しキャラの婚約者の立場を思う存分楽しみます
下菊みこと
恋愛
タイトルまんま。
悪役令嬢に転生した女の子が推しキャラに猛烈にアタックするけど聖女候補であるヒロインが出てきて余計なことをしてくれるお話。
悪役令嬢は諦めも早かった。
ちらっとヒロインへのざまぁがありますが、そんなにそこに触れない。
ご都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる